伊勢志摩PO-NPO-N通信
中村 元の、ぽんぽん道楽

episode 「アシカとトレーナー」



<水族館にて>
 アシカのゲンちゃんは、ショーの時間が大好きでした。ゲンちゃんがジャンプしたりボールを受けたりするたびに、お客さんが拍手して喜んでくれるからです。
 でも、最近お客さんの反応がよくありません。隣町の水族館のアシカが宙返りを覚えて、それが評判なのです。

 そこでゲンちゃんは、トレーナーのイチさんに提案をしました。
「ねえ、イチさん。ボクだって練習すれば宙返りができるようになるよ。だから練習しようよ」
 ところがイチさんは取り合いません。
「アシカが生意気言うんじゃない。それにオレには練習に付き合ってる時間なんかないよ」

 半年もたつと、お客さんはすっかり減ってしまいましたが、イチさんはそれでも練習をさせてくれません。それでゲンちゃんは、自分だけで密かに練習することにしたのです。それもウルトラCの2回転宙返りです。
 ついに、宙返りができるようになったゲンちゃんは、イチさんから「ジャンプ」を命じられたときに、思い切って2回転宙返りをしました。大成功!

 ゲンちゃんが得意げにイチさんを見るとイチさんは怒っています。「ゲン!何を勝手なことするんだ。お客に水が掛かったらオレの責任になるんだぞ!」ゲンちゃんは意味が分からず、茫然としてしまいました。
 でもお客さんは「ゲンちゃん、素敵!水なんかかかったっていいのよ。いいショーを見たかったの!」とゲンちゃんに大歓声です。

 お客さんの歓声と拍手のおかげで、ゲンちゃんの2回転宙返りは、それからも続くことになりました。でもイチさんは、やっぱり「ジャンプ」としか命令しませんでした。
 (おしまい) 

 みなさんには、こんな経験ありませんか?残念ながら私は、何度もアシカのゲンちゃんになっています。行政の中には、今でもイチさんのような人が少なからずいて、協働を阻害しています。まちづくりや教育のプロは行政なんだから、NPOや市民は余分なことを言うな、勝手なことをするな。言われたことだけやっていればいい、というわけです。

 でも、イチさんが無視した理由は、プロの面子がつぶれ、自分が面倒だからだけです。だから、運悪くイチさんのような行政の人に当たってしまったからといって、提案を諦めてしまったらイチさんの思うつぼです。

 私の経験では、諦めなかったおかげで、なんとかいい方向に向いてきたこともあります。未来の評価は行政がするのではなく、市民と自分がするのだということを忘れずに。

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(C) 2000 Hajime Nakamura.