伊勢志摩PO-NPO-N通信
中村 元の、ぽんぽん道楽

episode12 「我が輩は凧である



 我が輩はタコである。 といっても、鳥羽水族館にいるクネクネ動くタコではない。 大空高く舞う凧なのだ。

 我が輩は、昨日まで部屋の片隅に吊されていた。 ところが、主人の子どもが凧揚げをしたいと言いだしたのだ。 主人は我が輩を壁から下ろし、どこからか凧糸を持ってきた。
 凧糸を結びつけられた我が輩は、広場に連れ出され、主人と子どもに引っ張られた。 我が輩は見事に風に乗って飛び上がった。初めての空中体験はいい感じ!・・・しかし、その直後クルクルと回って落ちてしまった。

 主人は我が輩に尻尾をつけてくれた。 再び空に舞う。 今度は回らなかった、体は真っ直ぐに立ったまま風に乗って舞い上がった。
 今度こそ気分は最高だった。 これこそが凧の生き甲斐だったのだ。 周りにいた人たちからも注目を浴び、拍手と歓声が湧き上がる。
 糸がどんどん繰り出されるほどに我が輩は高く飛び、注目をしてくれる人たちも増えた。

 我が輩は、もっと高く遠くに飛びたかった。 もっと注目されたかった。 あっちの方に、まだ我が輩に気づいていない人々がいるではないか。
 しかし、糸はもうそれ以上伸びなかった。 風は気持ちよく吹いているのに、尻尾は最高の状態でバランスを取っているのに、もっとどこまでも上がるはずなのに・・・。

 我が輩は考えた。この糸が邪魔なのだ。 そして自ら、自分を縛っている糸を切った。
 そのとたん。我が輩の体は風にグルグル舞い、急速に高度を失い、気が付いたら、見知らぬ枯れ木の枝にボロボロになってひかかっていた。
 我が輩は凧だった。今は糸を失った凧である。
 (おしまい) 

  私たちの様々な社会活動は、全て何かのよりどころを持っているはずです。 それは、家族の幸せであったり、地域の未来であったり、世界平和であったり、人それぞれ。 それを忘れてしまうと、活動の意味を失ってしまうでしょう。
 かくいう私も、注目されるたびに舞い上がって、大切なことを忘れそうになるタイプ。 ぽんぽんの糸が切れないように気を付けたいものです。

PO-NPO-N道楽目次に戻る
essayRUMIN'S ESSAY 表紙へ        地球流民の海岸表紙へhome
(C) 2000 Hajime Nakamura.