新青年

大正12・1923年

探偵小説を募集す──隠れたる作家の創作を慫慂す
 日本にも探偵小説家が出なければならないとは、久しい前から云はれてゐることである。尤も文壇知名の士の間に探偵小説的傾向をもつた作品を発表された人々もないではないが、しかしそれらの作品は純然たる探偵小説と見做すべきものでなく、それらの人々も亦探偵作家を以て目すべき人々ではない。純然たる探偵小説は、これらの作家とは全然異つた領域から生れなければならないし、また今にも生れて来るやうな気がせらるゝ。言葉を換へて云へば、海外の高級なる作品に接し、これに刺戟されて、自ら筆をとつて立派な作品を提供してみたいと云ふ隠れたる作家があるやうな、またなければならないやうな気がせらるゝのである。いや、現に本誌に向て、海外作家に劣らざる傑作を寄せられた人もある位である。そこで本誌はかういふ人々に向ひ、純然たる探偵小説の創作を慫慂し、傑作を得る毎にこれを誌上に発表して、文壇に紹介の労を取りたいと思ふ。純文芸的作品を取扱ふは本誌の任でない、然りながら探偵小説の紹介に於ては、本誌自らその任にありと言ふも決して誇称ならざるべきを想ひ、ここに隠れたる未知の作家の発奮と努力を冀ふ所以である。
■規定 (一)毎月募集の懸賞探偵小説と異り、一切細則を設けず。(二)紙数制限なし。(三)〆切、第一回二月十日。四月号発表。(四)匿名自由。但し原稿返送希望者は住所氏名を明記し、郵券封入のこと。(五)誌上発表の分には稿料を呈す。
初出・底本:新青年 大正12・1923年2月号(4巻3号)
掲載:2009/02/10

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