新青年

昭和3・1928年

陰獣 江戸川乱歩  (横溝正史)
 懐しの乱歩! 懐しの『心理試験』!
 我々は再び昔日の江戸川乱歩氏に見える事が出来るのです。
 増刊掲載する所の『陰獣』一篇百五十枚が即ちそれであります。『二銭銅貨』『心理試験』『恐ろしき錯誤』時代の江戸川乱歩氏が、再び、そしてあの当時よりは、更に偉大なる姿を以つて我々の前に出現いたしました。あの細密な詮索、微妙な推理──、それ等に柔い名文の衣を着せた江戸川乱歩氏が、かくも忽然として我々の前に現れたのです。これを月並みに言へば、沈黙する事一歳有半、その間に想を練り、筆を洗つて成つたもの、それが即ちこの『陰獣』一篇であります。あゝ、探偵小説愛好家の随喜渇仰すべき近来の一大快事ではありませんか!
初出・底本:新青年 昭和3・1928年8月号(9巻9号)
掲載:2009/02/27

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