新青年

昭和3・1928年

編輯局より  横溝生
◇七月二十日は吉例の増刊を出すことになつてゐる。予告は別に折込みを以つてして置いたが今度の増刊に於て大々的に宣伝して置きたいのは、何んと言つても江戸川乱歩氏の『陰獣』である。原稿紙約百五十枚、氏にとつては本年度最初の作品である。と同時に、この一篇は氏の初期の作品を偲ばせるに充分ある物がある。といふ事は、これが、本格的な探偵小説であるといふ事である。ある一人の男の微に入り細を穿つた詮索と邪推とが、この一篇のテーマなのだ〔。〕その堂々たる事、近来にその比を見ない。多分この作品によつて、探偵小説壇は再び初期の活躍期に返る事であらうと思ふ。
初出・底本:新青年 昭和3・1928年8月号(9巻9号)
掲載:2009/02/27

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