新青年

昭和3・1928年

陰獣(第二回)  (横溝正史)
 江戸川乱歩氏のこの大作は正に大衆文壇の絶大なる驚異と云ふの他ない。本号に於いてその第一回を読まれたならば、諸子はさだめて篇中に漲る乱歩独特の恐怖すべき妖気に早くも慄然たるものがあるであらうと信ずる。これを以て、作者の自伝的小説と迄は言ひ得ないとしても、作中に現はれたる江戸川乱歩、並びに著名なる探偵作家某々氏の風格以上のものを知り得ることは確かである。しかも、いよいよ出ていよゝゝ玄妙怪奇なる空想は白中夢の夢魔の如くに我々の魂の深所に忍び込まずにはゐないのである。我が日本が斯る探偵小説家を生んだことは、幾世期を通じて全世界に誇り得る欣びであらねばならない。
 探偵小説、怪奇小説、すべてのロマンチシズムを愛する程の人々が、あらゆる期待にかけて愛読されることを望む次第である。
初出・底本:新青年 昭和3・1928年夏期増刊号(9巻10号)
掲載:2009/02/27

名張人外境 Home > Rampo Fragment