新青年

昭和4・1929年

戸崎町だより  一記者
◇三月号に江戸川乱歩氏の「空気男」を予告した。同氏はそのためわざゝゝ和歌山県勝浦の淋しく不便な温泉に俗塵を避けて精進してくれたのであるが、そして編輯局は出来るだけ〆切を延して力作の出来上るのを待つたのであるが、遂に間に合はず、読者諸君に対して違約するの已むなきに至つたことを、ここに謝する次第である。
◇乱歩氏はたとひどんなに苦しくても、間に合せものは書きたくないと云つてゐる。その真剣な態度に対しても、どうか御寛恕を得たい。──これは頼まれたのでないが、乱歩氏の代弁である。
◇その代り、来月こそはどうしてもすばらしい力作を誌上に飾りたいものである。実は同氏には「空気男」「押絵と旅する男」ほか二三の腹案があるのだが、それが十分発酵しないため、筆にのらないでゐるのであるから。
初出・底本:新青年 昭和4・1929年4月号(10巻5号)
掲載:2009/03/24

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