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2009年2月6日(金)

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いわネット
1月3日 伊和新聞社
1月3日付伊和ジャーナル掲載
乱歩をめぐるミステリー
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1月3日(土) 乱歩をめぐるミステリー

まちなかの話題は六年目を迎えた

 本紙の新年号で名張旧町地区、いわゆる名張まちなかの話題をとりあげるのは、今年が六年目になる。

 二〇〇四年の新年には、名張商工会議所がまとめた旧町地区活性化策「なばりOLD TOWN構想」を紹介。翌〇五年は「名張再発見」を特集し、「注目を集める町の観光資源/ひあわいのたたずまい」「再生に必要な新しい価値観/城下町の顔と宿場町の風情」といった記事を掲載した。

 〇六年は、前年に名張市が策定した「名張まちなか再生プラン」にもとづいて「名張まちなか再生いよいよスタート」と報じたが、〇七年の紙面には「再生の行方」との見出しを掲げ、まちなか再生の拠点と位置づけられていた旧細川邸(新町)をどう活用するのか、その方向性が明確になっていない事実を伝えた。

 結局、旧細川邸は観光交流施設「やなせ宿」として開設されることになり、〇八年新年号の記事は「『やなせ宿』今春オープン」。昨年六月にオーブンしたやなせ宿は、市から委託を受けた「まちなか運営協議会」が運営を手がけ、ワンデイシェフなどの事業を進めているが、委託期間は今年三月まで。四月以降のことはまだ決まっていない。

 いっぽう、市が寄贈を受けて活用策を検討していた桝田医院第二病棟跡地(本町)は「江戸川乱歩生誕地碑広場」に生まれ変わることになり、昨年末に整備工事が終了した。

もはやブームではない?
ジャンルを超えたカバーが
物語る圧倒的な乱歩人気

 江戸川乱歩をめぐる謎、つまりミステリーのひとつは、没後四十年以上を経過しても人気が衰えないということだろう。むしろ、いよいよ高まっているとさえ見える。一九九四年の生誕百年を機に訪れた乱歩ブームが、それ以降も右肩あがりで継続され、もはやブームではなく常態となってしまった感がある。日本近代の文学者のなかで、乱歩は圧倒的な人気作家としての地位を不動のものにしたといっていいだろう。

 乱歩人気を物語るのは、いわゆる二次使用、音楽業界の用語でいえばカバーの多彩さだ。昨年一年間を振り返ってみると、まず最初にあげなければならないのは、乱歩の長編小説「人間豹」を原作とした新作歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」だ。十一月、東京の国立劇場で上演され、松本幸四郎と市川染五郎が父子で共演。評判も上々で、今年十月には第二弾が公演されることになった。

 映画の世界では、乱歩の代表作「陰獣」を原作にしたフランス映画が八月、ベネチア国際映画祭に出品されて話題を呼んだが、日本での公開は未定。十二月には、乱歩の生んだ怪人二十面相を主人公にした「K‐20 怪人二十面相・伝」が封切りを迎えた。乱歩作品をもとに劇作家の北村想が執筆した小説が原作だから、二次ではなくて三次使用ということになるが、乱歩人気の多様なひろがりを示す好例といえるだろう。

 もちろん、乱歩作品そのものの人気も根強く、評価も高まっている。八月には、古典として認められた作品しか刊行しないことで知られる岩波文庫に『江戸川乱歩短篇集』が入った。生前に出版された全集の復刻版が刊行されるいっぽうで、少年探偵シリーズを復刻した文庫本も登場した。雑誌の特集や各種アンソロジーに乱歩がとりあげられるのは、いまや珍しいことではまったくない。

生誕地碑広場はできても
乱歩人気を生かせない?
乱歩という名のミステリー

 ひるがえって、乱歩をめぐる名張市内の動きはどうだったのか。名張ロータリークラブが昨年六月、中学生を対象に乱歩を紹介するリーフレット「少年少女乱歩手帳」を発行し、市が主催する恒例のミステリー講演会「なぞがたりなばり」が十一月に催された以外、これといったものは見られなかったが、年末になってようやく、乱歩生誕地碑広場が完成した。

 乱歩生誕地碑のある桝田医院第二病棟が、「乱歩にちなんで活用してほしい」と所有者から市に寄贈されたのは二〇〇四年。名張まちなか再生プランを具体化するための官民合同組織「名張まちなか再生委員会」が検討を重ね、「乱歩文学館」を建設する方向で話が進んでいたが、市は〇七年、財政難を理由に建設計画の断念を発表。病棟跡を広場にすることが決まり、ベンチなどを設置して整備が終了。正式なオープンは今年二月ごろになるという。

 このほか昨年十月には、乱歩にゆかりのある名張、亀山、鳥羽、津の県内四市が「乱歩都市交流会議」を設立。乱歩原作の歌舞伎を上演中だった国立劇場で、三重と乱歩のかかわりを紹介するパネル展示や地元物産の販売を行ったが、今後の方針を具体的に示すまでには至っていない。

 市内のある観光関係者は「せっかく国立劇場で名張をPRしてもらっても、乱歩にちなんだ集客施設をつくるなどの態勢を整えなければ、観光客は名張に来てくれない」といい、圧倒的な乱歩人気を市のPRに生かしきれない歯がゆさを隠そうとしない。乱歩の生まれた新町にあった旧細川邸が、やなせ宿という乱歩とは無関係な施設として運営され、生誕地碑のある場所がただの広場になってしまった現状からは、市の財政難という要因もからんで、乱歩に関するどんな展望も見えてはこない。名張市が乱歩という「地域資源」をどのように活用してゆくのか。それこそが、乱歩という名前をめぐる最大のミステリーだといえるかもしれない。

 
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