RAMPO Entry 2009
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2009年1月4日(日)

雑誌
asta* 1月号
1月6日 ポプラ社 第4巻第1号(通巻27号)
A5判 176ページ
未少年探偵団 江戸川乱歩・少年探偵シリーズによせて 小路幸也
エッセイ p32−34

 「asta*」はポプラ社のPR誌。「夢中が待っているストーリー&エッセイマガジン」とのことです。本屋さんでただで貰えます。掲載された小路幸也(しょうじ・ゆきや)さんのエッセイから、序破急でいえば破にあたる四段落を引用。
 
未少年探偵団 江戸川乱歩・少年探偵シリーズによせて

小路幸也  

 僕等が小さい頃の家は、暗かった。蛍光灯の照明器具は確かにあったけど、家中のあちこちでワット数の少ない裸電球が使われていた。電球の光は部屋の隅に陰を残す灯だ。そして子供たちはその陰の中に色んな夢を見るものだ。
 それは異世界で活躍するものたち。妖怪とか怪物とか幽霊とか、あるいはもっと身近な泥棒だったり殺人鬼だったり、そして怪人だったりした。部屋の隅に、物置の暗がりに、天井の模様にそいつらは毎晩のように現れたけど、光の側にいれば安心した。そこにいれば自分たちはそれらと戦えるはずだった。自分の弱い心と強さを求める思いを、あの頃は日常の中で感じられていた気がする。
 江戸川乱歩は、その陰を、ものの見事に少年たちの下に引き寄せ、わくわくするエンターテインメントに仕立て上げてくれたんじゃないか。
 魔都東京を跳梁跋扈する二十面相は闇の中にしか現れない。本来光の中にいるべき小林少年も明智小五郎も、闇の側での戦いを強いられ、けれども、必ずその正しき明るい心で二十面相を撃退する。そして二十面相はまた復活する。電球を灯せば、その光の届かぬ部屋の隅に生まれる陰のように。

 
 ポプラビーチ:ポプラ社新小説誌 asta*