RAMPO Entry 2009
名張人外境 Home > RAMPO Entry File 2009 > 01-19
2009年1月19日(月)

ウェブニュース
asahi.com
1月19日 朝日新聞社
天声人語
Home >

 そう言われれば、という至言に出会うのも小説の楽しみだ。「星は正面から見つめるより、斜めにチラリと見た方が輝きを増す。過ぎた深読みは推理を惑わせ、弱めてしまう」。エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」で、警察を出し抜く探偵デュパンの持論である▼パリの母娘惨殺事件を謎解きするこの短編(1841年)により、本格ミステリーの歴史が始まったとされる。推理・恐怖小説の父が米国ボストンに生まれて、きょうで200年になる▼ポーの40年の生涯は酒と貧困の中で終わったが、同時代と絶縁したかのような作品は輝きを保つ。探偵が活躍する筋立て、科学的な視点は、後の大衆文学に大きな影響を与えた▼日本でも大正期、新進作家の平井太郎が同じ分野を開拓しようと、筆名を江戸川乱歩に改めている。乱歩の明智小五郎はもちろん、ホームズもポアロも金田一耕助も、探偵の先輩デュパンの遺伝子をどこかに受け継いでいるはずだ▼ミステリー小説に関するアンケート結果が、本紙別刷り「be」にあった。約3千人が選んだ「好きな日本の作家」の上位は、宮部みゆき、松本清張、東野圭吾の各氏。生誕100年の大御所と平成の売れっ子たちの「競存」は、この分野の成熟を語る▼構想やトリックはあらかた書き尽くされ、創作には先駆者とは違う苦労があろう。しかも、小説より奇なる犯罪が日々報じられている。とりわけ不可解なのは動機である。「誰でもよかった」とする心の闇は、どんな名探偵が「斜めに」のぞいても暗黒のままだ。

 
 asahi.com:Home