RAMPO Entry 2009
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2009年1月6日(火)

演劇
陰獣 INSIDE BEAST
1月22日−27日 神楽坂 die pratze(新宿区西五軒町)
métro 旗揚げ公演
原作:江戸川乱歩「陰獣」「化人幻戯」
演出・脚本:天願大介
出演:丸山厚人、池下重大、鴇巣直樹、métro (月船さらら・出口結美子)
制作:métro

 月船さららさんと出口結美子さんによる演劇ユニット「métro(メトロ)」の旗揚げ公演。乱歩の「陰獣」と「化人幻戯」をベースに、天願大助さんが書き下ろした作品とのです。
 
 こっそり無断転載したポスター。

 YouTube にある宣伝用動画「métro - Inju ver.1.1」。

 
 オフィシャルサイトに掲載された天願大助さんのメッセージから引用。
 
「陰獣」舞台化にあたって

天願大介  

江戸川乱歩は自身の全作品の中で、中短篇なら「陰獣」が一番よいと言っていたという。

何を最高傑作と呼ぶか難しいところだが、乱歩の優れた部分が結実している「陰獣」は、文句なく代表作の一つだ。「陰獣」には乱歩自身をモデルにした大江春泥という探偵小説作家が登場する。突然現れセンセーショナルな作品を次々に発表し、忽然と消えた天才作家。この作家の正体を巡る不気味な謎、そして美貌の令夫人静子の秘められた過去、主人公との世を忍ぶ恋、繰り広げられる変態性欲の宴と残忍な殺人事件、そして暴かれる静子の恐ろしい秘密。

いかにも道具立てが揃っていて、ああ、また例の乱歩調かと思われるだろうが、どうしてこれは黴の生えた安全な探偵小説ではなく、現代に生きる我々が読んでも心が揺れる、危険な小説である。「陰獣」を戯曲化するにあたって、もう一作、乱歩作品を取り上げることにした。それは「化人幻戯」という作品で、乱歩は相当意気込んで(「陰獣」をかなり意識して)書いたのだが後に失敗作だと語っている。そのためかこの作品は評価も低い。

しかし僕は「化人幻戯」を初めて読んだとき、大詰め、ヒロインの由美子が明智小五郎に真相を語る場面で鳥肌が立った。

昭和二十九年にこのヒロインの告白を書いた江戸川乱歩という作家は凄い。「陰獣」にいたっては昭和三年に書かれているのだ。乱歩は懐古趣味の作家ではない。間違いなく世界の前衛であったと思う。

だとすれば安全な舞台を作るわけにはいかない。

乱歩の最高傑作と失敗作を重ね合わせ、静子と由美子という二人のヒロインの無垢な魂と暗い愛欲を描いてみたい。「うつし世は夢、夜の夢こそまこと」「恐ろしき身の毛もよだち美しき歯の根も合はぬ五彩のオーロラの夢をこそ」と好んで色紙に書いた乱歩にふさわしい、美しい悪夢のような、しかし耽美的ではない舞台を現出させたい。

明智小五郎は何故、犯罪者に惹かれるのだろう? 何故、美しい女性犯罪者たちは明智小五郎に恋してしまうのか? それは明智自身が犯罪者的資質を持っているからだ。明智には犯罪者の心が我がことのようにわかるのだ。乱歩の小説が我々の心を捉えて離さないのは、我々の中にも黒々とした(ロマンティックではない)冷たい闇が存在しているからで、そこには極めて今日的な問題が潜んでいると思う。

 
 métro:陰獣 INSIDE BEAST