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2009年1月27日(火)

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1月26日 朝日新聞社
満島ひかり、「愛のむきだし」で野性の演技 宮崎陽介
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満島ひかり、「愛のむきだし」で野性の演技

2009年1月26日

満島ひかり

 俳優の満島ひかり(23)が、野性むき出しの演技で一気にブレークした。今月、主演級映画が立て続けに2本公開。中でも、倒錯と猟奇にまみれた作品で知られる園子温監督の約4時間の長編「愛のむきだし」(1月31日公開)では、近親相姦、カルト、レズビアン……と、混沌にのたうち回る女子高生を獣さながらに激しく演じている。(アサヒ・コム編集部 宮崎陽介)

「迷宮世界」を逆に彩る

 「園監督の作品は以前から好き。全部見たけれど、過激に感じたことはない」という猛者だ。女子高生54人が手をつなぎ、新宿駅で集団飛び込み自殺とグロテスクな血みどろの猟奇犯罪を組み合わせた「自殺サークル」、そこにカルトの恐怖も織り交ぜた続編「紀子の食卓」にも動じなかった。

 だが、強烈な個性と感性が世界で評価される園監督、演出は厳しい。「『ふざんけんな、下手なアイドルみたいな小手先の芝居はすんな!』としかられ、何度も泣かされたけれど、その分、感動させてやると思った。芯は私の方が、監督よりきっと強いと思う」。その負けん気で、暴力的なセックスやレズビアン、自慰などの過激シーンに挑み、園監督ならではのグロテスクな迷宮世界に飲み込まれることなく、逆に彩った。

 さて、この映画は、満島演じる女子高生ヨーコと、西島隆弘演じるユウのダブル主演だ。ユウは神父の父(渡部篤郎)に懺悔を強いられ続けて悲鳴をあげ、あげく、自ら罪を作り出そうと、街で女性のスカートの中を盗撮しまくる。傍らで、亡き母の面影に重なる聖母マリアのような女性を探し続け、街でちんぴらとけんかしていたヨーコを見初める。が、盗撮がばれて変態扱いされ、当のヨーコはカルト教団にさらわれ、洗脳されてしまう……。

いずれも、「愛のむきだし」から(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

生死のはざま、見据える

 随所に人間の屈折や暴力が満ちている。

 神父の父とユウの共依存は、母亡き後のエディプスコンプレックスのねじれた形か。盗撮に刺激を感じないユウの欲望は聖母マリアに行き着くまで純化し、自らその化身になるようにトランスジェンダーに向かう。ヨーコは父に虐待されてセックスを強要され、カルトの女性幹部と同性愛の関係を結ぶ。

 満島は「園監督の作品の中で『奇妙なサーカス』が最も好きで、6回も見た」と言う。「奇妙な〜」は、父に犯される小学生の娘と、嫉妬にたけり狂う母の物語で成人指定映画に。海外で評価の高い園監督だが、ベルリン映画祭で上映された際、退席者が続出したほどだ。

 「『愛のむきだし』のように、生と死のはざまを見据え、それらが表裏一体であることを感じながら生きることは魅力的。今、自分がしていること、なすべきことが明確になって、迷いなく生き生きしてきて、力がふつふつとわいてくる。でも、いつか『自分』というものがすっぽり抜け落ちて絶対者を崇拝し出すと、カルトや最近の凶悪な少年犯罪につながる気がする」

自分追いつめる「演技」

 カルトに洗脳されたヨーコは、カトリック信者のユウに新約聖書のコリント書を叫ぶ。約5分にわたる長回しの場面は1回撮り。「聖書はすてきなことばがあふれていた。監督から『大切な言葉だから、読点一つも大切にしろ』と言われた。愛を頭で分かっていても、心で感じていないヨーコを演じたかった」と言う。頭の中で、洗脳と脱洗脳がせめぎ合う場面だ。

 カルトの女性幹部を演じた安藤サクラの演技が「怨念系」なら、自分は「刃物系」とか。「サクラさんは、ただ自然界で生きているという感じで、超然としたところがある。芝居の中にも日常が流れている。私はかつて、アイドルをやっていたから、作り込んでいる自分を含め、さまざまな『付属品』を切り落とす」と言う。「自分を空にして役を演じるのでなく、役を通して自分を見詰め直し、どんどん追いつめていく姿を見せる」とも。

 85年生まれ。沖縄県出身。アイドルユニット「Folder5」のメンバーとして、音楽番組などに出演。映画は「デスノート」前後編、「少林少女」など。公開中の「プライド」では、ダブル主演の一人として、性悪なオペラ歌手の卵を演じた。

 江戸川乱歩の世界を好み、映画では、ジョン・カサベテス「オープニング・ナイト」が好きだという。この映画は、演劇を上演中、狂気を帯び始めた主演女優が、役柄や演技をやめて、自分自身の苦悩を演じ始める物語だ。満島が求める「俳優像」なのか。

 「愛のむきだし」は、東京・渋谷のユーロスペースなど、順次各地で公開される。

 
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