RAMPO Entry 2009
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2009年2月10日(火)

書籍
トーキングヘッズ叢書 37号
2月5日 アトリエサード 発売:書苑新社
A5判 192ページ 本体1429円
デカダンス 呪われた現世を葬る耽美の楽園
特集 p1−159
日本のデカダンス探偵小説7選──乱歩、正史、虫太郎ほか 朝宮運河
特集記事 ガイド p43−46

 輝かしかるべき21世紀の初頭が世紀末的様相を呈していてどうする、と半畳のひとつも入れたくなる昨今ですが、こんな時代だからこそ遅れてきた世紀末をというわけか、アートとダンスと文学の「トーキングヘッズ」がデカダンスの特集を組みました。うち一篇がデカダンス探偵小説の紹介です。朝宮運河さんのセレクトで轡を並べた精鋭は──

 1 江戸川乱歩「パノラマ島奇談」
 2 横溝正史「蔵の中」
 3 村山槐多「悪魔の舌」
 4 渡辺啓助「聖悪魔」
 5 西尾正「海蛇」
 6 水谷準「七つの閨」
 7 小栗虫太郎「人魚謎お岩殺し」

 乱歩を扱ったパートから結びの一段落を引用。

 
日本のデカダンス探偵小説7選──乱歩、正史、虫太郎ほか

朝宮運河  

自分ただひとりのための理想郷
江戸川乱歩「パノラマ島奇談」

 乱歩が描きつづけた〈日本のデ・ゼッサント〉たちのなかで、とりわけ強烈な印象を残すのが「この世を経験しない先から、この世に飽きはてていた」という「パノラマ島奇談」の人見広介でしょう。「アルンハイムの地所」「金色の死」のテーマを乱歩風に展開しなおしたこの作品がいまだに根強い人気を保っているのも、人見の人物造形によるところが大きいのではないでしょうか。人生のすべては「ただ頭の中で想像しただけで充分」、「何もかも『たいしたことはない』」と考え、自分ただひとりのための理想郷を日々設計している男。花火とともに打ちあげられ、肉体をバラバラ夜空に散らせたその死に様といい、人見は派手に滅びるためにだけこの世に生まれてきたような空虚な人間ですが、その人生にはなにかしら我々を強く打つものがあるのです。

 
 アトリエサード:アトリエサード publication