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2月17日 朝日新聞社
「一人出版社」定年後夢実る 中村尚徳
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「一人出版社」定年後夢実る

2009年02月17日

木版画集「雨を喰う人」を編集、発行した金子遊さん=四日市市水沢町

◇◆第一弾は友人の木版画集◆◇

 たった一人きりの出版が形になった。四日市市の元高校国語教諭、金子遊(ゆう)さん(61)が立案から編集、発行、すべてを手がけた。活字文化は衰えつつあっても、なくなることはない。地方からの文化発信にかかわることができないか。そんな思いを、三重県人発見という第1弾の企画につなげた。今月、木版画集が書店に並んだ。(中村尚徳)

◆四日市の元教諭「地方文化発信」◆

 木版画集は、友人で津市在住の久保舎己(すてみ)さん(60)の作品を集めた「雨を喰(く)う人」(B5判、140ページ)。

 「出会ったころから、この男の作品集を作りたいと思ってきた。夢というか、幻想みたいなものが現実になった」と言う。

 久保さんは一度も美術団体に加わったことがない。家具職人として働きながら県内でずっと版画制作を続けてきたが、公的な評価を受けたこともなく、ほとんど知られていない。
 そんな久保さんの人となりに惹(ひ)かれた。「孤立無援の版画家を多くの人に知って欲しい。こんな生き方もあるんだ、と紹介したい」と三十数年間思い続けた。

 金子さんは20代のころ、ガリ版刷りのミニコミ誌を出していたことがある。01年には「この国の学校はどこにゆくのか」を自費出版した。いじめや体罰などを報じる新聞記事を基に、教師の視線で日本の教育の現実を考えた。全国に配本されたが、ある県の書店では哲学書を集めた一角に置かれていることを知った。「ほとんどの人の目に触れないまま回収されるんだろうな」。自費出版の難しさを痛感した。

 それでも出版に関心を持ち続けた。「地方の人こそが興味を持つような、地方の出版も可能ではないか」。昨春の定年退職を契機に、長年温めてきた久保さんの作品集づくりに入った。

 久保さんの自宅に通い、千数百点の作品に目を通し、200余点を選び、内容、構成、編集方針を検討した。表紙の装丁、表題の字体や色も自分で考え、10回ぐらい直した。

 「雨を喰う人」という題は、三十数年前の久保さんの印象的なつぶやきから取った。「雨が食べ物だったら、この世の中、争いもなくなるのにな」。画集でも「雨喰い人」という題の作品を取り上げた。

 次回作の構想もすでに練っている。名張出身の江戸川乱歩(1894〜1965)が大正時代の一時期、鳥羽市の造船所で働いていたころのことを調べ、自らが執筆する計画だ。県内で自費出版を考えている人と手を携え、一緒に本をつくっていくことも考えている。

 木版画集は1800円(税込み)。津市修成町の別所書店などで販売している。問い合わせは金子さん方(059・329・2938)。

 
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