RAMPO Entry 2009
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2009年3月8日(日)

書籍
神戸70s青春古書街図 野村恒彦
3月18日第一刷 野村恒彦 制作・発売:神戸新聞総合出版センター
B6判 カバー 173ページ 本体1200円
著:野村恒彦
門書店
2 元町・神戸駅周辺の古書店 >
エッセイ p53−56

 書名は「こうべななじゅうねんだいせいしゅんこしょがいず」とお読みください。昭和29年生まれの著者がついに「青春」を回想しました。「ついに」ってこともないんですけど、同世代の身としてはやはり「ついに」とか「とうとう」とかそういう副詞を使用したくなるわけで、この副詞の言外にはむろん「やっちまったな」という詠嘆ないしは慨嘆がまつわりついております。
 

 
 帯ならびにフライヤーに記されているとおりの一冊。いまだ十代のうちに古書と探偵小説というファムファタルに魅入られてしまった人間の至福が軽妙なタッチで綴られていて、ミステリーマニアなら一読して卒倒するのは間違いのないところでしょう。著者が乱歩に遭遇したのは神戸市中央区、旧生田区にあった門書店という古書店だそうで、運命の出会いが回想されたあたりを引用。
 
門書店   神戸市中央区(生田区)元町通四丁目

野村恒彦  

 「門書店」では大きな買い物をしたことがある。高校時代にどうしても欲しかった、当時完結したばかりの『江戸川乱歩全集』全十五巻のうち十二巻を、親から借金してここで買ったのだ。当時江戸川乱歩の小説を読もうとすると、手近なものでは文庫本しかなく、その文庫も新潮文庫から出ている『江戸川乱歩傑作選』と春陽文庫から出ている『江戸川乱歩名作集』全七巻しかなく、特に後者は文庫そのものを置いている書店が少なく目に付かなかった。
 当時筆者が持っていた情報量は少ないものであり、そのせいでもないだろうが、乱歩の処女作である「二銭銅貨」を長編小説と思っていたのであった。それが短編小説であることを知ったのは、全集を買って目次を見てからだったと思う。この「門書店」で買った全集には予約者の特典として横尾忠則の挿絵のカードが付いていた。少し得をした気持ちになったので、しばらくの間この特典のカードを袋から出しては一人でニヤニヤしていたのであった。もちろん、乱歩の作品のほとんどはこの全集で読んだ。
 初期の「心理試験」や「鏡地獄」といった短編も良かったが、「何者」という傑作があることを知ったのもこの全集であった。爾来この全集は手放すことなく、現在もわが家の書棚にある。その後多くの乱歩全集が出たが、最初に買った全集に入っていないものだけを揃えている。ただ昭和六二年に講談社から刊行された「江戸川乱歩推理文庫」全六五冊だけは別で、これは全冊購入した。それは文庫サイズなのと、評論・随筆編に初収録のものが多かったためである。
 ついでに書いておくと、「江戸川乱歩全集」の残り三冊は、『探偵小説四十年(上)』、『探偵小説四十年(下)』と『幻影城(正・続)』なのであるが、最初の二冊は既に書いた「こばると書房」で購入した。そして最後の『幻影城(正・続)』であるが、これは灘区の中央筋商店街にあった新刊書店の「中央堂書店」で買った。新刊での値段は六百九十円であったが、当時の六百九十円は非常に財布にこたえたのをよく覚えている。
 その『幻影城(正・続)』は値段が値段だっただけに、さんざん迷ったあげく購入したのだが、その内容たるや恐ろしいもので、読む者を探偵小説の鬼と化す煽り方で圧倒される。冒頭の「探偵小説の定義」から惹き込まれて、あっという間に読み終えてしまう。筆者の現在の探偵小説中毒は、この本に巡り会ったのが大きな原因の一つなのである。

 
 同世代の身といたしましては、こういう人生を送らずにすんでよかったな、というのが正直な感想です。ともあれ、古書と探偵小説というファムファタルに魅入られてしまった人なら必読必携、心して繙読し、心ゆくまで卒倒するべし。
 
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