RAMPO Entry 2009
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2009年5月29日(金)

書籍
浮き世のことは笑うよりほかなし 山本夏彦
3月26日第一刷 講談社
B6判 カバー 307ページ 本体1700円
著:山本夏彦
乱歩・東京・2DK 松山巖、山本夏彦
対談 p167−182
初出:室内 1987年2月号 工作社

 2002年10月23日に八十七歳で死去した山本夏彦さんの対談集。1984年に『乱歩と東京』を上梓した松山巖さんとの対談が収められています。冒頭からいささかを引用。
 
乱歩・東京・2DK

  松山巖、山本夏彦  

   集合場所はもっぱら銭湯

山本 「乱歩と東京」(PARCO出版刊)拝見しました。これははじめからこういうタイトルだったんでしょうか。
松山 はじめはアールデコについて書いてくれないかという注文だったんです。けれど、僕はアメリカにもヨーロッパにも行ったことないから、東京のことくらいしか書けない。それだったら東京の一九二〇年代ではどうか、という話になって、僕が江戸川乱歩で書きたいと言ったんです。ただ全巻ことごとく乱歩で書けるとは思ってはいませんでした。
山本 どうしてそこへ乱歩が出てきたんです。
松山 乱歩について何かの形で書いてみたいという気持ちは前からありました。乱歩の主な作品というのがアールデコが流行した一九二〇年代の中頃──つまり大正十二〜十五年頃にかたまっているので、これは何かいけるかなという気はしました。
山本 アールデコの注文だったのを我が田に水を引いたわけですね(笑)。
松山 そうです。強引なところはありましたね。乱歩の作品は東京という町と深いつながりがある。作品の舞台が、戦前は浅草・上野といった下町、戦中戦後は山の手ですから。僕自身東京生まれの東京育ちですので、それだけに、読んでるうちにあらゆる方向へ興味が広がるわけです。ただ、文学散歩にするつもりはなかったので、東京と乱歩を少しずつ重ねて読むのはなかなか時間がかかりました。当時の東京の人口の変化とかと重ねあわせて読むことができたあたりから、これならいけるだろうと思いました。
山本 乱歩で全部まとまるということですね。
松山 ええ。読んではいても全部ではないですから、全集であらためて読んだら新しい発見が随分ありました。探偵小説ですから必ずその時代の世相に関するところでトリックが考えてある。それが読者をひきつける。だから読んでいると、乱歩がどういうことにこだわっているかがわかります。そこまでいくのに時間がかかって、結局書くのに一年半くらいかかりました。
山本 私は初期の乱歩は全部読んでます。乱歩は大正十二か十三年頃が全盛で、私は小学校の一年くらいでしたから、四年生くらいになって読みました。古本屋で買ったんです。当時五銭か十銭でした。「赤い鳥」でも何でも、どうして創刊号から読んでるかっていうと、古本屋で集めたんです。神田にあるようなちゃんとした古本屋じゃない店でね。そこで「新青年」を集めました。「D坂の殺人事件」とか「人間椅子」とか、いわゆる彼の代表作を読みました。
松山 僕は高校ぐらいですかね。
山本 「二銭銅貨」あたりから始められたんですか。
松山 もちろん子供の頃は「怪人二十面相」。
山本 僕は「怪人二十面相」は全く読んでない。
松山 僕らのときは「少年」だったか「冒険王」だかに毎月連載してました。それとラジオで、六時十五分から文化放送でやってました。映画は東映で波島進という役者が明智小五郎で、二十面相は誰だったか忘れましたが、そのまねをして遊びまわってましたから。

 
 講談社BOOK倶楽部:浮き世のことは笑うよりほかなし