RAMPO Entry 2009
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2009年6月12日(金)

雑誌
小説NON 6月号
6月1日 祥伝社 第24巻第6号(通巻278号)
A5判 250ページ 本体476円
古本屋の主人 霧原一輝
小説 p140−153

 「初夏の風に浮かれて昇天号!」に掲載された「トリオ競艶!」の一篇。タイトルの横には「屋根裏に射したひとすじの淫らな光が誘うときめき」との惹句があります。さっそく引用。
 
古本屋の主人

霧原一輝  

 足音を忍ばせて隣室に入り、堆く積まれた古本の山を掻き分けて押し入れにたどりつく。上の段にあがり、天井板を持ちあげて、開口部から天井裏へとあがった。
 持ち込んだ懐中電灯を手に、棟木や梁の上を踏み外さないように慎重に歩いていく。通風口から射し込んだ午後の陽光が、幾重にも分かれて天井裏に光の矢を射している。
 引っ越してきたとき、電気工事業者とともに配線を確認するために天井裏にあがったことがあった。そのとき、老朽化した天井板のところどころに穴が開いていて、部屋の様子が見えることに気づいていた。
 暗がりを懐中電灯で照らしながら、梶原は身を屈めて横木の上を慎重に伝っていく。
 (このへんだろう)
 見当をつけて、部屋の明かりがにじむ天井板の穴にそっと目を近づける。
 男女がまぐわっている、あられもない姿が目に飛び込んできた。
 布団の上に、全裸の文香が仰向けに横たわり、裸の男が腰を動かしていた。白い足をM字に押さえつけ、自分は上体を立てて、厳しく腰を叩きつけている。
 「うっ、うっ、うっ……ぁああぁ、イッちゃう。イッちゃう」
 文香は後ろ手に枕をつかみ、首を横に振っている。乱れたロングヘアがシーツに散り、打ち込まれるたびに乳房がぶるぶる揺れるのがほぼ真下に見えた。

 
 とある古本屋の主人、アルバイトの女子大生が店の二階にこっそり男を連れ込んでいけないことをしている気配に勘づき、そーっと天井裏にあがってみる、というシーンです。この女子大生が乱歩ファン、覗きをくり返すうち主人も自分が「屋根裏の散歩者」と同じことをしていると気づくことになっていますから、これはもう乱歩にリスペクトを捧げた“乱歩小説”と読んで差し支えない作品だと判断いたします。
 
 祥伝社:小説NON