RAMPO Entry 2009
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2009年9月23日(水)

書籍
エドガー・アラン・ポーの世紀 生誕200周年記念必携 八木敏雄、巽孝之
6月12日初版 研究社
B6判 カバー 376ページ 本体4000円
編:八木敏雄、巽孝之
3 日本文学とポー 井上健
第I部 ポーとは何者か? >
評論 p54−77
はじめに──比較文学と影響研究明治の作家はポーをいかに読んだか漱石のポー論──想像のリアリズムの可能性森鴎外『諸国物語』の提起したもの──反自然主義フィクションの三類型大正作家のポー読解と《幻想》のテーマ群ポーと昭和文学──意識のリアリズム、批評と探偵の知

3 日本文学とポー

井上健  

 ポーと昭和文学──意識のリアリズム、批評と探偵の知

 江戸川乱歩「D坂の殺人事件」(『新青年』、大正一四年)の「それは九月初旬のある蒸し暑い晩のことであった。私は、D坂の大通りの中程にある、白梅軒という、行きつけのカフェで、冷しコーヒーを啜っていた。(略)私はその晩も(略)いつもの往来に面したテーブルに陣取って、ボンヤリ窓の外を眺めていた」(第一巻、一七九頁)という書き出しを読むと、ポー「群集の人」の基本設定──無聊をかこつ大都市の遊民が、ぼんやりカフェの窓の外を眺め、都市の多義的記号を読み解いていくことに歓びを見出しているうちに、不可思議な人物に心引かれていく──がわが国においても現実のものになったことが了解される。「群集の人」の基本要件が満たされる時期はそのまま、日本近代的探偵小説の黎明期でもあった。「日本に探偵小説が殆ど発達しない」(「探偵小説雑感」、大正一三年)と不満を吐露していた、ポーの翻訳者でもある平林初之輔は、その五年後、大衆雑誌や婦人雑誌にも探偵小説が掲載され、探偵小説全集が四種も刊行されるようになった現実を受けて、「日本でも、今年は、探偵小説が急に台頭して来た」(「文壇の現状を論ず」、昭和四年)と言わざるを得なくなるのである。そうした探偵小説界の活況は、乱歩の言を借りれば、ポーの影響下にある谷崎、佐藤などによる、「一般文壇に於ける犯罪怪奇の文学の盛行と、又一方に於ては「新青年」を中心とする外国探偵小説翻訳の流行」(「一般文壇と探偵小説」、『宝石』一九四七年四、五月号、第二六巻、二二〇頁)とが作用しあったところに、近代化、都市化現象の急速な進展が加わってもたらされたものに他ならない。

 
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