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2009年6月30日(火)

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6月29日 日経BP社
小説の中の建築たち/「パノラマ島」は昭和初期のテーマパーク ぽむ企画
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小説の中の建築たち/「パノラマ島」は昭和初期のテーマパーク

2009/06/29

 ユートピア建設を思い描く男が、自分とうり二つの富豪と入れ替わり、無人島にテーマパークを築く物語。探偵小説で知られる江戸川乱歩だが、スペクタクルな「パノラマ島綺譚」(1925〜26年発表)は華麗で壮大な空間描写そのものが主題である。

 パノラマ島は、マイケル・ジャクソンのネバーランドあたりを思わせる大富豪の刹那(せつな)的な楽園である。しかしあっけらかんと開放的な遊園地に比べると、パノラマ島はややこしい。歩を進めるごとに次々と異なる風景が展開する巨大な建設物である。

 「この島の不思議さは、行くと見えて帰り、昇ると見えて下り、地底が直ちに山頂であったり、広野が気のつかぬ間に細道に変っていたり、種々様々の魔法の様な設計が施されてあることで……(略)」。

 モデルは明治時代に流行したパノラマ館。壁をぐるりと遠近感のある絵で囲み、無限の風景を仮想的につくる仕掛けである。パノラマ島も遠近法や目の錯覚を利用し、無限の風景を人工的に生み出すための数々の技巧が施されている。コンクリートとガラス、光と闇が連続する箱庭の中で、人間がぐるぐると夢遊病者のように歩き回る。

 こういう空間、なんとなく安藤忠雄が設計しそうだ。つまり21世紀のパノラマ島とは直島ではなかろうか。パノラマ館は美術館に、見世物は現代アートへと、その精神が受け継がれているのかもしれない。

ぽむ企画:たかぎみ江(1973年生まれ)と平塚桂(1974年生まれ)によるライターユニット。京都(たかぎ)と東京(平塚)を拠点に活動。

(ぽむ企画、イラストも)

 
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