RAMPO Entry 2009
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2009年9月12日(土)

書籍
ハイカラ神戸幻視行 コスモポリタンと美少女の都へ 西秋生
7月17日第一刷 神戸新聞総合出版センター
B6判 カバー 239ページ 本体1800円
著:西秋生
初出:神戸新聞夕刊 2008年4月−2009年3月
第四章 妖しい漆黒の光芒(探偵作家たち)
エッセイ p99−121
関連箇所
1 探偵小説の出発地・神戸(p100−103)/2 トアロードで見つけた「人間椅子」(江戸川乱歩)(p103−107)/3 お化けの跳梁(江戸川乱歩)(p107−110)/4 現実からの脱走(横溝正史)(p110−113)/5 モダニズムの開花(横溝正史)(p113−117)

 
 神戸新聞に連載された神戸モダニスト列伝とでも呼ぶべきエッセイが一巻に編まれました。小説家、詩人、俳人、写真家、画家、さまざまな芸術家の人生と作品が交錯した神戸の地が美しい小宇宙としていきいきと再現されています。

序 章 神戸、その都市魅力
第一章 宇宙論的挑発(イナガキ・タルホ)
第二章 美女と美食と藝術と(谷崎潤一郎)
第三章 詩人さん(竹中郁)
第四章 妖しい漆黒の光芒(探偵作家たち)
第五章 カンバスとレンズの向こう(小松益喜と中山岩太)
第六章 港都の誘惑(やって来た人たち)
第七章 失楽の軌跡(去って行った人たち)
終 章 〈ハイカラ神戸〉へのコンセプトワーク

 第四章には乱歩と正史、さらに西田政治や戸田巽、酒井嘉七ら探偵作家の織りなした神戸綺譚が登場。

 
第四章 妖しい漆黒の光芒(探偵作家たち)

西秋生  

 2 トアロードで見つけた「人間椅子」(江戸川乱歩)

 明治二十七年(一八九四)、三重県名賀郡名張町(現・名張市)に生まれた江戸川乱歩は、大正十五年(一九二六)以降、作家活動への専念を目的に東京へ定住するまで、東京も含めて名古屋や大阪など各地を転々としたが、神戸に住んだことはない。ただ、印象的な出来事が何回かあったため、神戸の街には好意を抱いていた。
 幼時から黒岩涙香や谷崎潤一郎、またポーやドイルを愛読して探偵小説志向の強い乱歩ではあったが、実作を試みるに至った直接的な刺戟として、二つのことを挙げている。一つは大正九年(一九二〇)の「新青年」創刊であり、もう一つは大正十一年(一九二二)ごろ、失業中に聴いた馬場孤蝶の海外の探偵小説をテーマとする講演であった。後者は神戸図書館の講堂で行われたものである。西田政治、横溝正史も聴講していたが、当時は面識がなく、それと気づくことはなかった。大倉山にある神戸市立中央図書館の沿革によれば、大正十年(一九二一)十一月に新築落成式挙行、十一年三月には一般閲覧開始、とあるから、講演会は開館を記念しての催しだったのだろう。この年の夏に執筆した「二銭銅貨」によって乱歩はデビューを果たした。

 
 モダン都市神戸に投げかけられた幻視のまなざしを丹念に跡づけた一冊ですが、うつし世の神戸を散策するガイドブックとしても重宝。戸田勝久さんによる装幀もこの小宇宙の美を支えています。
 
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