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2009年8月31日(月)

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8月2日 産経新聞社、産経デジタル
【衝撃事件の核心】「白い靴下」「他人の窒息」に興奮する性癖はなぜ生まれたのか〜処刑された自殺サイト殺人の前上博死刑囚
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 発生当初には乱歩作品との関連性も取り沙汰された自殺サイト連続殺人事件が7月28日、死刑執行という形で幕を閉じました。ウェブニュースを記録しておきます。
 
【衝撃事件の核心】「白い靴下」「他人の窒息」に興奮する性癖はなぜ生まれたのか〜処刑された自殺サイト殺人の前上博死刑囚 (1/3ページ)

2009.8.2 18:00

前上博死刑囚

 「私のような人間がなぜ生まれたのか、自分でも理解できない。二度と自分のような存在が生まれないよう、自分を研究材料にしてほしい」

 自殺サイトを悪用し3人を殺害した前上博死刑囚は大阪地裁での公判でこう訴え続けたが、7月28日、その望みもかなわぬまま死刑が執行された。だが平成19年に計17回の接見を重ね、前上死刑囚の心理を分析した長谷川博一・東海学院大教授(臨床心理学)は「彼はなぜ自分が異常な性癖を持つに至ったのか、最後は納得していた」と話す。いったいその原因は何だったのか−。

 まずは、前上死刑囚の犯行の概要とその異常な性癖を振り返る。大阪地裁判決などによると、前上死刑囚は17年2月から6月、インターネットの自殺サイトを通じて知り合った大阪や兵庫に住む14〜25歳の自殺志願者の男女3人に、一緒に練炭自殺をするかのようなメールを送るなどして誘い出し、乗用車内で口をふさいで殺害した。

 前上死刑囚はなぜこのような犯行に及んだのか。その理由こそ、「どうしても衝動を抑えることができなかった」と自ら告白する異常性癖だった。

 「人が窒息して苦しむ姿に無上の興奮を得る」

 この、他人には理解し難い性癖には、公判の被告人質問でも言及していた。

 弁護人「人が窒息して苦しむ姿を見て性的に興奮するのか」

 前上死刑囚「はい」

 弁護人「それはいつごろからか」

 前上死刑囚「小学4、5年のときから。推理小説に、犯人が薬品を染み込ませたハンカチで口をふさいで失神させて誘拐する場面があって興奮した」

 弁護人「自分以外の人もみんなそういう性癖だと思っていたのか」

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 前上死刑囚「はい。中2のころ、同級生がエロ本を見て興奮していて、初めて自分が人と違うと気付いた」

 弁護人「相手は男でも女でもいいのか」

 前上死刑囚「男女の区別は僕の中ではない」

 弁護人「女性の裸を見て興奮したことは」

 前上死刑囚「今まで一度もない」

 前上死刑囚は小5から高校卒業まで、手のひらやエタノールを染み込ませたハンカチで、子供の口を押さえる犯行を約50件繰り返していたという。これだけでも十分異常なのだが、これほどの重大事件では珍しく、公判まで全くマスコミに報じられなかった性癖がもう一つある。

 「白い靴下」に対する執着心だ。

 中1の時に、教育実習生の女子大生がはいていた白いスクールソックスをみて強い性的興奮を覚えるようになった。これも老若男女を問わなかったようで、白いソックスをはいた駅の清掃員を尾行したことも。大学生のときは友人の男性を襲い首を絞める事件を起こし中退した。自殺サイト殺人の際も、わざわざ被害者に白い靴下をはかせていたほどだった。

 こうした性癖をなぜ持つようになったのか、前上死刑囚自身も分からず、公判では自ら精神鑑定を要求し、認められた。

 当時の弁護人によると、精神科医との面談もほとんどなく、本人が納得いくような結果は出なかったという。このため、極刑を受け入れながらも、冒頭のような「自らを研究材料に」という要望を訴え続けた。

 しかし19年3月に死刑判決が下され、弁護人が控訴したものの、同年7月に控訴を取り下げた。ただ公判中の18年12月から、長谷川教授と接見を始め、死刑判決後、正式に自身の分析を依頼したという。

 長谷川教授は判決後の2カ月間で17回にわたって集中的に接見。前上死刑囚から送られてきた29通の手紙と合わせて分析した結果、性癖が生まれた原因として父親の存在が見えてきたという。

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 父親は警察の白バイ隊員だった。仕事が忙しかったこともあり、前上死刑囚に向き合う時間はほとんどなかったが、「お父ちゃんは悪人をつかまえるために働く正義の味方なんだ」と思慕の念を抱いていたとみられる。

 それが「白ヘルメット」への執着という形で表れ、幼稚園児のころにその性癖が芽生え始める。幼稚園が休みの日に、郵便配達員の白いヘルメットに興奮して後をついて回っていた。小学低学年のときには、隣のクラスの担任がはく白い靴下でなくスニーカーに興奮し、その後一時的に性癖は収まったが、中学に入り、再び白いスクールソックスに異常な興奮を示すようになった。

 そんな中、小学4年生のとき、父親に対する感情が変化するきっかけとなる出来事が起きた。

 家の中で突然、父親が前上死刑囚の腹の上に馬乗りになり、首を絞め上げた。前上死刑囚はこのときの父親の能面のような血の気のない顔が忘れられないという。またその直後に父親が飲酒運転で事故を起こしていたことを知り、「父は正義の味方ではなく犯罪者だったんだ」と思うようになった。

 長谷川教授は「尊敬していた父親から虐待に近い暴力を受け、人を窒息させることで、自分を父親に同一化させるようになったのだろう」と分析し、公判で証拠採用された精神鑑定書が示した「性的サディズムとフェティシズム」をまっこうから否定した。

 さらに長谷川教授が驚いたのは、前上死刑囚の記憶力だった。IQ128と高い知能を持つ上、30年以上前の出来事も絵画のように細かく描写することができたという。

 また病院で女性ホルモンを注射してもらおうとするなどしており、長谷川教授は「彼には自分の欲望を抑え込もうと懸命に努力してきた側面があった。その点では自分に誠実で正義感が強い人だったといえるのではないか」と振り返る。

 最後の接見の際、前上死刑囚は接見希望者リストから長谷川教授の名前を外すことを告げた。

 理由を聞くと、「現実の世界で僕の唯一の楽しみは、自分のことをよく知っている先生と会うこと。ただ死刑を待ちながら先生と会える日を楽しみに生きていくのは辛すぎるので、空想の世界に逃げるつもり。僕はそんなに強くない人間なんですよ」と弱々しく微笑んだという。

 
 名張人外境:人外境主人伝言録 > 2007年2月22日
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