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2007年2月下旬
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三日間にわたって「桝田医院第2病棟跡地活用に関するこれまでの協議経過」からの引用をつづけてきましたが、本日が最後となります。どうぞでござる。
おととしの6月2日に歴史拠点整備プロジェクトの会合が開かれたあと、桝田医院第二病棟に関して「具体的な話がとぎれた状態になって」いたため、「事務局で再度基本的な枠組みを整理することとした」との由。これが昨年7月26日のことでござった。 しかも驚くべし、そのあとまたずーっとなんにもなかったわけでござる。つまり一昨年6月から今年1月まで、一年と八か月もの空白期間がつづいたのでござった。阿呆でござる。間抜けでござる。それで2006年度もそろそろおしまいという2月1日になってようやく、名張市役所で名張まちなか再生委員会の第一回乱歩関連施設整備事業検討委員会が開かれたのでござったが、拙者はその場で以前から主張してまいったとおり、桝田医院第二病棟に関するおのおの方の検討はいっさい無効でござる、拙者おのおの方には協力いたさぬ所存でござると明言してまいった。したがって乱歩関連施設整備事業検討委員会の第二回が開かれたとしても、拙者そのようなものにはかかわりあいがないのでござる。 それに2月6日付伝言から引くならば──
こんな感じでござったゆえ、もしかしたら第二回委員会は永遠に開かれぬかもしれぬ。そういえばこの日の午後、上の引用に記したように乱歩関連施設整備事業検討委員会の委員長と委員おふたり(いずれも乱歩蔵びらきの会のメンバー)とともに名張市役所前の喫茶店に入ってあれこれ話しておったところ、委員側からは「もったいない」という声がしきりに出ておった。何がもったいないのか。案ずるに乱歩という絶好の素材を名張まちなかの再生に活かすことができないのはもったいない話だ、みたいなことだったのではござるまいか。 それはたしかにもったいのうござる。しかし詮方はござらぬ。そもそも無理な話でござる。乱歩という素材を活用しようにも、活用法を考える人間が阿呆や間抜けばかりだからどうしようもないでござる。だから拙者も諦めたでござる。名張市がこれから先、乱歩のことをちゃんとやってゆくのであれば、自治体の自己宣伝に乱歩という作家をうまく利用してゆくというのであれば、ご町内感覚のハコモノつくってはいおしまい、というのではだめでござる。誰からも相手にしてもらえぬでござる。何が必要か。拠点でござる。細川邸を名張市立図書館ミステリ分室にすることでござる。乱歩の拠点をつくることでござる。そうした拠点さえあれば、あとは好きなようにつかいまわせばよろしいのでござる。可能性を見つけてゆけばよろしいのでござる。 名張市立図書館ミステリ分室構想の主眼のひとつは、インターネットを活用して質の高いサービスを全国に提供することでござった。名張市立図書館は江戸川乱歩リファレンスブックの内容をネット上で公開することさえしておらぬ。阿呆だからでござる。おまえたちは阿呆なのだから阿呆でないおれが教えてやるけどおまえたちはこういうことをすればいいのだ、と教えてやったことができないのだから阿呆なのでござる。できないのならばやらなければいいのでござる。中途半端はよろしくござらぬ。ちまちました乱歩コーナーなど閉鎖して、乱歩のことなど何も知りませんと正直に打ち明ければいいのでござる。それができぬというのであれば、乱歩に関して質の高いサービスを提供するべきでござる。そのためには名張市という自治体を追い込んでやらなければならぬ。ミステリ分室という拠点を設け、名張市が乱歩に関してちゃんとしたことをやってゆかざるを得ないところまで追い込んでやることが必要なのでござる。そうでもしてやらなければお役所は動こうとしないのでござる。 拠点を確保したうえでどんな可能性が見つかるか。たとえばの話でござるが、とにかくインターネット上に膨大なデータベースを構築するのでござるから、そのための人手が必要でござる。労力を調達せねばならぬ。そこで展開の可能性としては、いわゆる在宅障害者の雇用創出みたいな話にはならぬものか。データの入力作業などを担当してくれる在宅障害者のネットワークを組織できぬものか。あるいはまた、ミステリ分室が飲み食いできる場であってもいいのでござる。地元食材をつかったトリックうどんとか密室カレーとかを販売してもいいのでござる。乱歩にちなんだ商品の販売も OK でござる。新商品開発の相談も受け付けるでござる。小学生や中学生や高校生の校外学習の場にもするでござる。名張のまちを歩いてミステリ分室まで来てもらって、名張のまちと乱歩の話を聞いてもらうでござる。とにかく教育でも観光でも商業でも福祉でもなんでもよろしいでござる。名張市立図書館ミステリ分室を拠点としてありとあらゆる可能性を考えるべきなのでござる。 ありとあらゆる可能性を考えるべきなのではござるが、2月1日に名張まちなか再生委員会の委員長からお聞かせいただいたところでは、ミステリー文庫構想なるものは細川邸にそこらの小学校にある学級文庫のようなものをつくってはいおしまいというだけの話のようでござった。だから拙者はもう諦めたでござる。名張市が乱歩に関してちゃんとしたことができる可能性は完全についえたでござる。だからこうなったらもう名張市立図書館は乱歩から手を引くべきでござる。そのための手がかりとして、 ──いいかこら教育次長だかなんだか知らんがろくに経緯や事情もわきまえぬ人間が横からしゃしゃり出てきて人に偉そうな説教かましてんじゃねーぞたこ。 という問題にそろそろ着手するべきところでござるが、もう少しじらしてやるでござるか。 さるにても、名張まちなか再生プランというのは返す返すも無茶苦茶なプランでござった。まさしくもったいないの一語に尽きるでござるぞ。名張まちなかに残された可能性を検証し吟味すべき立場の人間がそれをせず、逆に名張まちなかの可能性をことごとく踏みにじってしまったのでござる。ああもったいなやもったいなや。ニンニン。
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不思議なくらい話題にならない。自殺サイト連続殺人事件の公判のニュースだ。20日、死刑が求刑された。
2ちゃんねるのニュース速報+板にも「【裁判】 「苦しむ姿に性的興奮」 男女3人をなぶるように殺し写真撮影の鬼畜男に、死刑判決…自殺サイト連続殺人」というスレが立っているが、こんなありさまだ。
おととしの夏のことだ。自殺サイト連続殺人事件が耳目を集めた。伝言録の2005年8月中旬に引いた新聞記事を再掲する。
事件における「乱歩の影響」がメディアによって喧伝された。いちばん早く動いたのは読売新聞で、大阪府警記者クラブ詰めの記者から名張市立図書館に電話が入ったのは8月10日のことだった。人が口を押さえられた挿絵の出てくる乱歩作品は何か、という問い合わせだ。わかるわけがない。しかし容疑者が子供のころに読んだというのだからポプラ社の少年探偵江戸川乱歩全集だろうと当たりをつけ、名張市立図書館で四十六巻すべてに眼を通して、それらしい挿絵をピックアップした。コピーをとり、スキャンして記者のアドレスにメールで送信した。 このときの画像は夏休みが明けてから、高校のマスコミ論の授業で使用した。自殺サイト連続殺人事件を教材にした授業で、もしかしたらその授業はいささか過激な内容であったかもしれない。ともあれ、その画像を紹介しておこう。転載ではなく挿絵の一部の引用であるとお思いいただきたい。 男女を問わず、また大人であれ子供であれ、人が口を押さえられている挿絵はこれだけだ。いずれも麻酔薬をしみこませた布で口が覆われているが、窒息とは関係がない。賊の目的は相手を窒息死させることではない。 私の見解はどのようなものであったか。伝言録の2005年8月中旬から引いておく。
つまりは思い込みや勘違い、あるいは記憶の歪曲作用によるものだろうということだ。事件における「乱歩の影響」はすぐに報道されなくなった。 「刑部」というサイトに「傍聴記」というページがある。裁判を傍聴してレポートを投稿するページだ。死刑求刑のニュースを知り、ネットを検索して見つけた。この事件の関係では、2005年12月2日の初公判、 2006年1月26日と2月7日の被告人質問が、insectという投稿者によって報告されている。 「2005.12.02 刑事公判請求事件{前上博}・初公判」から引く。検察官の冒頭陳述だ。
「2006.01.26 刑事公判請求事件{前上博}・被告人質問」にはより具体的な供述があった。
私は驚いた。「犯人が麻酔薬を染み込ませたタオルを口に当てて連れ去るシーン」で「相手は女性」というのなら、上に引用した画像三点のうち「魔人ゴング」のそれがぴったり該当する。そしてさらに驚くべき供述が。
「2006.02.07 刑事公判請求事件{前上博}・被告人質問」にも私は驚きを禁じ得なかった。
私はとんでもない勘違いをしていたのではあるまいか。私のみならずメディアの記者も、そして記者から伝えられたところによれば大阪府警も、最初から「窒息」のシーンを探していたのだ。犯人が被害者を窒息させ、被害者が苦悶の表情を浮かべているシーン。これがかりに「江戸川乱歩の少年探偵団で、女の人に麻酔薬を嗅がせて失神させるシーン」があるかという質問であったなら、私にはポプラ社版少年探偵江戸川乱歩全集全四十六巻のなかからただ一点、「魔人ゴング」の挿絵を指摘することができたのだ。
「番犬情報」に「池田憲章講演会」の予告を掲載した。お読みいただきたい。 |
きのう述べたところをくり返しておく。自殺サイト連続殺人事件の公判における被告人の供述にもとづいて考えれば、女性に麻酔薬をかがせて誘拐する挿絵が出てくる乱歩作品は、ポプラ社版の少年探偵江戸川乱歩全集第二十巻『魔人ゴング』だということになる。刊行は1970年。ちなみに被告人はその二年前に生まれている。 そして私には、供述はおそらく事実なのだろうという気がする。事件が喧伝された一昨年8月の、たとえば「前上容疑者が異常な性癖を自覚したのは中学生のときだった。江戸川乱歩の推理小説で、女性が口をふさがれて苦しむ挿絵に興奮したと供述している」といった新聞報道からは、容疑者のいう「乱歩の影響」は思い込みか勘違い、記憶の歪曲によるものと見るのが妥当だと思われた。だが、ネット上で読むことのできる裁判のレポートによれば、被告人は小学四年生か五年生のとき、はじめて読んだ推理小説の誘拐シーンに性的興奮をおぼえたという。そして人を襲うようになった。 きのうも引いた「2006.01.26 刑事公判請求事件{前上博}・被告人質問」にはこうある。
供述はきわめて具体的だ。当時の記憶がそのまま持続されていると考えるべきだろう。だとすれば、一連の「窒息行為」のきっかけとなったこの挿絵も、強烈な印象とともに記憶されていたと見るべきではないか。 ![]() そして「魔人ゴング」を走り読みして、私は一驚を喫した。そこに凄絶な窒息が描かれていたからだ。
「2006.02.07 刑事公判請求事件{前上博}・被告人質問」によれば、被告人の犯行は「当初は薬品を嗅がせることだったのが、窒息させて息を止めることに変わった」とされている。「ある被害者を襲ったとき、偶然に鼻と口を同時に塞ぐことになっ」たからだという。だが、発現のプロセスはたとえそうであったとしても、窒息に対する尋常ならざる欲望は被告人の内部に最初から潜在していたにちがいない。 他人の窒息を見て性的興奮をおぼえる性癖というものが、私にはまるで理解できない。しかしそういった性癖がげんに存在しているのであれば、「魔人ゴング」という一篇の小説がひとりの少年の心に潜在していたそれを顕現させるきっかけになったということは、ありえない話ではないように思われる。 |
記事を探し出すのに苦労する。全国紙のサイトにはまったく見あたらず、わずかに時事通信でとりあげられているのが見つかった。大阪地裁できのう、自殺サイト連続殺人事件の最終弁論が行われたというニュースだ。
責任能力を問題にすることには無理があるだろう。被告人が「自分がなぜ性的衝動を制御できず、殺人に快感を覚えるようになったか理解できていない」のは事実だとしても、彼には自分のやったこととその意味はよく理解できている。判決は3月28日。 さるにても、理解しがたい事件であり、性癖ではある。しかし実際に事件は起きた。そして犯人として逮捕された人間の供述を仔細に読んでみると、これまで述べてきたとおり、彼が少年時代に読んで性的興奮をおぼえたのはポプラ社版の少年探偵江戸川乱歩全集第二十巻『魔人ゴング』なのであろうと結論せざるを得ない。花崎マユミさんが口を押さえられて誘拐されるシーンの挿絵と、それからおそらくは小林少年がブイのなかに閉じこめられて窒息死しそうになるときの描写とが、彼の尋常ではない性癖に強く訴えかけたと見ることができる。もとより推測の域を出るものではないが、伝言録の2005年8月中旬あたりに記した見解は撤回しておくことにする。 ところで「魔人ゴング」という作品は、乱歩の少年もののなかでもあまり出来のよくない一篇だ。ゴングというのは空に巨大な顔を浮かびあがらせ、あとはただ「ウワン、ウワン、ウワン」と大音響を発しつづけるだけの怪人で、私は子供のころに『妖人ゴング』というタイトルだった光文社版を読んでいたはずなのだが、子供心にもなんだか間抜けな怪人だと思ったような気がしないでもない。もう二十年ちかく前のことになるのかと茫然としてしまうが、1988年に講談社の江戸川乱歩推理文庫『黄金豹/妖人ゴング』で再読したときには、出来のよろしくなさがはっきりと認識できた。犯行の目的が花崎マユミさんの父親である鬼検事への復讐だったというのでは、なんともスケールの小さい所帯やつれしたような怪人ではないか。 ところで先日、2月19日付伝言で「探偵実話」の特別増刊「探偵怪奇恐怖小説名作二十五人集」をとりあげた。乱歩が序文を寄せた号だ。この号には乱歩が出席した鼎談も掲載されていて、それを読んだ私は妖人ゴングの正体がわかったような気になった。自殺サイト連続殺人事件の公判で死刑が求刑される直前のことで、私はまだポプラ社版の『魔人ゴング』を読み返してはいなかったのだが、ゴングの発する「ウワン、ウワン、ウワン」という大音響のことはおぼえていた。とはいうものの、マユミさんの誘拐や小林少年の危難のことはさっぱり忘れ果てていたのだから、われながらじつに情けない。
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光文社版では「妖人ゴング」、ポプラ社版では「魔人ゴング」と名乗る怪人もまた、終幕にいたって窒息を経験する。 窒息の話はもういいとか、あまりネタを割るなとか、いろいろご批判もおありだろうが、もう少しつづけることにして、しかしあまりあからさまに紹介するのは控えておこう。とにかく引く。きょうの底本は光文社文庫版全集第二十巻『堀越捜査一課長殿』の「妖人ゴング」。
この作品では二度も窒息が描かれる。そのうえ窒息を仕掛ける側のゴングも明智も、相手が窒息死することを想定しているように見える。未必の故意どころではない、明らかな殺意がうかがえるといってしまっては穿ちすぎだろうか。相手を死に至らしめる可能性がきわめて高い窒息合戦がくりひろげられるという点で、これは異様な一篇である。 しかし結局は誰ひとり死にはしない。ゴングは捕らえられ、明智探偵はこう宣言する。 「きみは怪人二十面相だッ! べつの名は怪人四十面相だッ!」 律儀というか丁寧というか。あるいは脳天気というべきか。登場人物がふたりも死の間際まで行った暗い裂け目のようなシーンは忘れたかのように、明智小五郎は怪人の呼称に拘泥する。そしてその周囲ではみんなが驚いている。
おいおい、とツッコミを入れた少年読者が多かったのではあるまいか。「妖人ゴング」を第一回から読んでいた「少年」の読者には、ゴングが二十面相であり四十面相であることなど、はなっからお見通しだったのではあるまいか。「妖人ゴング」を執筆した昭和32年から「少年」「少年クラブ」「少女クラブ」と月刊誌三本の連載をこなすことになった乱歩は、頭のなかが結構やばい状態になっていたのかもしれない。 といったところで、「妖人ゴング」の異様さに着目した本の話題に移ろう。
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あいかわらず身辺があわただしいでござるゆえ、きのうは伝言も休みにしてしまったでござる。2月は逃げる3月は去る。その2月もあしたでおしまいでござる。 ──いいかこら教育次長だかなんだか知らんがろくに経緯や事情もわきまえぬ人間が横からしゃしゃり出てきて人に偉そうな説教かましてんじゃねーぞたこ。 という問題にはまだ着手できておらぬでござる。今月中にはなんとかしたいでござる。しかし今月はあしたでおしまいでござる。伊賀流忍法分身の術でもつかいたいところでござるが、いまだ修行中の身、とても無理なのでござった。木の葉隠れもできませぬ。ニンニン。
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2月もきょうでおしまいでござる。時間がなくて乱歩関連書籍にろくに眼も通せぬとぼやいたのは2月10日付伝言でござったが、あのとき列挙した未読の書籍は敬称略、順不同で小鷹信光『私のハードボイルド』、睦月影郎『夢幻魔境の怪人』、三浦俊彦『のぞき学原論』、石上三登志『名探偵たちのユートピア』、橘マリノ『笑う耕助、ほほえむ小五郎』、山村修『書評家〈狐〉の読書遺産』、鈴木義昭『夢を吐く絵師・竹中英太郎』でござった。ほぼ半分は消化したでござるが、さらに追加がござる。西尾正『西尾正探偵小説選1』、中山昭彦・吉田司雄編『機械=身体のポリティーク』、平野嘉彦『ホフマンと乱歩 人形と光学器械のエロス』、それから2004年に出た本なれどこれまで手に取ったことがなかった北村薫『ミステリ十二か月』。こんなところでござろうか。 しかし、 ──いいかこら教育次長だかなんだか知らんがろくに経緯や事情もわきまえぬ人間が横からしゃしゃり出てきて人に偉そうな説教かましてんじゃねーぞたこ。 という問題をほったらかしにしておくわけにはまいらぬでござる。それゆえ拙者ついさっき、名張市教育委員会に教育次長宛のメールを送信したでござる。こんな内容でござった。
ニンニン。
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