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2009年8月28日(金)

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8月10日 北海道新聞社
乱歩の受難(8月10日)
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卓上四季

乱歩の受難(8月10日)

名探偵の明智小五郎や少年探偵団が、怪人二十面相を追いかける。江戸川乱歩の小説は、子供たちの心をとらえた。その乱歩に、断筆を余儀なくされた経験がある。いまから70年前、かつての戦争のさなかだった▼警視庁検閲課が、短編小説1編の全面削除を命じた。戦争を進める「時局」に反するとされた。乱歩は「世は(戦争推進の)新体制一色に塗りつぶされ、幾分残存していた自由主義的なものも、このころより全く影を潜め」た、と振り返る▼その回想によれば、雑誌は「新体制色」のある読み物でなければ掲載しない風潮になった。出版社は乱歩作品の重版を見合わせた。発禁は表向き1編だけだったが、「実際上は私の旧作はほとんど全部抹殺されなければならぬ運命に立ちいたった」▼乱歩は少年探偵シリーズを連載していた。書く機会は奪われてゆく。次作となる「青銅の魔人」が出るのは戦後、ほぼ10年の空白ができた。この間の小説はわずかしかない▼「蟹工船」の小林多喜二が警察の拷問で殺されたのは、乱歩受難の6年前だ。弾圧は当初、戦争に反対した左翼陣営へと集中したが、徐々に広がった。「国民総動員」に邪魔とみなされたものは、容赦なくけ散らされていった▼乱歩が好んだ言葉は「昼は夢、夜ぞ現(うつつ)」。倒錯も含んだ独自の世界のイメージだ。戦争の道をひた走る時代の倒錯を含んでいたようにも映る。

 
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