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2009年9月22日(火)

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9月20日 読売新聞社
〈50〉第55回江戸川乱歩賞を受賞 遠藤武文さん 43 永瀬章人
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<50>第55回江戸川乱歩賞を受賞 遠藤武文さん 43

受賞を祈願した安曇野市の穂高神社で、「受賞できるか分からなかったので、1作目にトリックを詰め込み過ぎた。もったいないことをした」と笑う遠藤さん

 ホームズにあこがれて

 交通刑務所内で起きた殺人事件。密室で発見された遺体は、なぜか「前へならえ」の姿勢をとっていた。逃走した受刑者を追う警察、交通死亡事故に隠された驚くべきトリック──。

 処女作「三十九条の過失」(「プリズン・トリック」に改題)で、ミステリーの登竜門、江戸川乱歩賞を射止めた。30日には、東京の帝国ホテルで授賞式が行われる。

 地元紙が実名で登場したり、実在の第3セクターをモデルにした会社が重要な役割を果たしたりと、県民なら思わずニヤリとする設定。「単なる謎解きに終わらせず、読者の心に残る社会性のあるものを書きたかった。でも、地元の人には、『なんだこりゃ』と怒られるかも」

 旧明科町(現・安曇野市)に生まれ育った。中高生の頃、独自の着眼点で難事件を次々と解決するシャーロック・ホームズのとりこになった。だが、大学進学、就職と年を重ねるにつれて、小説から遠ざかり、ノンフィクションばかり読むようになった。「事実の重みに、フィクションは勝てない」と思っていた。

 転機は、2007年11月。松本清張原作の社会派ミステリー「点と線」のテレビドラマがきっかけだった。事件の背景にある社会問題や、犯人の動機を重視する清張の作風に、求めていた小説の姿を感じた。「こういう小説を書きたい」。思いついたのは「刑務所内での殺人事件」というプロット。1年かけて資料を読み込み、刑務所も見に行って、ストーリーや登場人物、犯行の動機を練り上げた。

 損害保険会社に勤め、交通事故の示談交渉を担当している。作中にはいくつもの仕掛けが登場するが、トリックよりも事故の加害者が遺族を訪ねる場面の描写に力を注いだ。「加害者の謝罪を被害者は受け入れられるのか。双方の葛藤(かっとう)こそ、本当に描きたかったもの」という。

 会社勤めの傍ら、安曇野市の自宅で休日に執筆する。気になる次回作では、本作の設定を引き継ぎながら、キャリア警察官を主人公に据える。本作の登場人物の一人も悪役として活躍する。「『彼』は悪魔みたいなやつで、シリーズを通じてちょっとずつ存在をにおわせる。そいつを主人公が追いつめていく」

 名探偵と黒幕の対決。あこがれのホームズシリーズのような世界を作り上げることが目標だ。

(永瀬章人)

メモ 安曇野市出身。早稲田大政治経済学部卒。広告会社、郷土史出版社などを経て、現在は損害保険会社に勤務。初めて書いた小説で第55回江戸川乱歩賞を受賞した。受賞作は「プリズン・トリック」として、8月に講談社から出版された。両親と3人暮らし。

(2009年9月20日 読売新聞)

 
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