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2009年10月24日(土)

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10月19日 産経新聞社、産経デジタル
【産経抄】10月19日
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【産経抄】10月19日

2009.10.19 02:54

 日本の探偵小説の父、江戸川乱歩が、『悪人志願』というエッセーでぼやいている。「私の嘆(なげ)きは、自分が余りに善人過ぎるということであります」。古今東西の極悪人のように、犯罪の才能があれば、もっとすばらしい探偵小説が書けるはずだ、というのだ。

 ▼そんな乱歩でも、最近、集団強姦(ごうかん)致傷などの疑いで警視庁に逮捕、起訴された、男4人の極悪非道には、顔をしかめたのではないか。ネットの交流サイトで「猟の手伝い」といった隠語を使って仲間を募り、帰宅途中の女性を次々に襲っていた。

 ▼被害に遭った女性の一人は、男たちが使った薬品のために、顔に化学熱傷による6カ月の重傷を負ったという。「性欲と犯罪とは隣同志みたいな感じがある」。乱歩の残した言葉を、地で行く事件ではあるのだが。

 ▼その乱歩の生涯をたどる「大乱歩展」が、横浜市の神奈川近代文学館で開かれている。幼少期からのメモ、新聞の切り抜き、住んでいた家の間取りなど、乱歩自身がスクラップブックに貼(は)って保存した、資料の豊富さに圧倒された。

 ▼なかでも戦時中、町内会の役員として几帳面(きちょうめん)な字で作成した回覧板や、近所の主婦たちと勤労奉仕に精を出す姿をとらえた写真に、興味を引かれた。乱歩といえば、土蔵の暗がりに引きこもり、幻想に遊ぶイメージが強いからだ。当時、作品が反戦的だと当局からにらまれ、逼塞(ひっそく)中だった。それでも何か人の役に立ちたいと、奮闘した証しといえる。

 ▼戦後になると、新人作家を励ます書簡が目立つ。少年もののシリーズを執筆する一方で、プロデューサーとして、ミステリー界の発展に力を注いだ。やはり、とても悪人になれそうもない。「大」の字をつけてもいい、善人だったようだ。

 
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