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2009年11月23日(月)
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●書籍 | |||||||
澁澤龍彦 日本作家論集成 上 澁澤龍彦 | |||||||
11月20日初版 河出書房新社 河出文庫 A6判 カバー 407ページ 本体1300円 著:澁澤龍彦 |
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乱歩文学の本質 玩具愛好とユートピア | |||||||
p120−129 | |||||||
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江戸川乱歩『パノラマ島奇談』解説 | |||||||
p130−135 | |||||||
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乱歩文学の本質 玩具愛好とユートピア
澁澤龍彦 そもそも乱歩の小説には、生まれつき妙な気質、妙な趣味をもった男が、金と暇とに飽かせて、苦心惨憺の末、世人をあっと言わせるような、風変りな自分の夢想を実現するというパターンを示しているものが圧倒的に多く、『鏡地獄』も『パノラマ島奇譚』も、明らかにこの系列に属するものであり、名高い『人間椅子』だって、そのヴァリエーションの一つと言えば言えないこともないのである。パノラマとか、地底の楽園とか、水族館とかいった大規模なものから、小は『鏡地獄』の鏡の球体や、『人間椅子』の椅子の内部の空洞にいたるまで、乱歩の求めていたものは、すべてユートピアとしての暗黒の母胎であり、彼の創作衝動のなかには無意識の子宮願望があった、──などと割り切ってしまっては、あまりにも単純な俗流フロイト説の誤謬を犯すことになりかねないが、少なくとも乱歩の玩具愛好ないしユートピア願望の裡に、性的な要素がきわめて濃厚に含まれているらしいことは、何ぴとといえども認めざるを得ないだろう。繰り返して言うが、この玩具愛好ないしユートピア願望と性的なものとの結びつきこそ、たしかに乱歩文学を成立せしめる根本的なものであろうと私は思う。 |
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江戸川乱歩『パノラマ島奇談』解説
澁澤龍彦 そもそも乱歩の小説には、生まれつき妙な気質、妙な趣味をもった男が、金と暇に飽かせて、苦心惨憺の末、世人をあっと言わせるような、風変りな自分の夢想を実現するというパターンを示しているものが圧倒的に多く、『パノラマ島奇談』も、明らかにこの系列に属するものと言える。『鏡地獄』や『人間椅子』だって、そのヴァリエーションの一つと言えば言えないこともないのであって、メカニズム愛好とユートピア願望とは、これらの初期作品で、いつも手を結んでいる。おそらく、乱歩がいちばん書きたかったのは、このような大小さまざまなユートピアの夢想であって、煩雑な探偵小説としての筋やトリックではなかったはずなのだ。だから、探偵小説らしい筋もほとんどなく(最後に探偵が、コンクリートの壁から出ている千代子の髪の毛を発見するのは、いかにも取ってつけた感じである)、もっぱら気ままな人工楽園の夢想に耽溺した『パノラマ島奇談』が、『猫町』のユートピア詩人たる萩原朔太郎に絶讚されたというのも、もっともな話なのである。詩人はたぶん、乱歩の子供っぽい夢想、その童心の詩を愛したのだ。 |
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▼河出書房新社:澁澤龍彦 日本作家論集成 上 |