RAMPO Entry 2009
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2010年3月24日(水)

書籍
未踏の時代 日本SFを築いた男の回想録 福島正実
12月15日 早川書房 ハヤカワ文庫JA976
A6判 カバー 319ページ 別丁2 本体720円
著:福島正実
初出連載:S-Fマガジン 1975年−1976年 早川書房
初刊・旧版:早川書房 1977年4月
関連箇所
〜'60(p5−40)
4(p29−34)
'61〜'62(p41−80)
8(p54−64)

未踏の時代 日本SFを築いた男の回想録

福島正実  

 〜'60

  4

 ミステリー畑の作家たちは、SFに、他の分野の人々よりはるかに強い関心と、興味とを示していた。とくに高木彬光氏にはすでに『ハスキル人』という長篇SFがあった。
 けれども、この当時、ミステリー作家たちは、折からブームのピークに当っていたことでもあり、みな殺人的なスケジュールに追われていた。たとえば高木彬光さんからは、関心はあるが今後一年半のスケジュールが決っているからといって断られたが、これは予期した通りだった。
 当時まだ気象庁の、たしか、計測器課長だった新田次郎さんを、役所に訪ねて行ったときのことも、忘れられない。作家と、公務員との二重生活の重圧に疲れた顔の新田さんは、「SFほど労多くして功少ないものもない。もうSFを書く気はない。きみたちも、SFは諦めた方がいいだろう」と忠告までしてくれたものだった。
 新田さんは、正直だったのだ。やはり同じころ、何かアドヴァイスを──というより、激励の言葉をと思って訪ねた故江戸川乱歩氏も、SF雑誌をという話を聞くと首をひねり、商業的に成り立っていく目算があるのか、とやや詰問調でぼくに訊いた。乱歩さんはこの頃、まだ早川書房のミステリ・シリーズの監修者でもありEQMMの創刊には並々ならぬ尽力をなさったこともあって、早川書房がSFのような全く未踏の──そして、十中七八まで不毛であろう領域に手を出して失敗することがあっては困ると危惧されたらしかった。

 
 hayakawa online:未踏の時代