奥美濃 屏風山 屏風谷
意外、滝の多さに驚く '04/10/15
 奥美濃といっても伊賀からすると、根尾谷西谷川流域はほんとうに遠い山だ。いつまでもこんな(エネルギー多消費型の)山行を続けて行く訳にもゆかないだろうな、と思いながらも行ける時に行く。
 最近は里への熊の出没が話題になっていて、仲間内でも鈴をつけて歩かないといけないな、なんて言い合うことが多いが、今朝もまた鈴を忘れたことに気付く。黒津から越波への分岐を過ぎ、長い河内谷林道へ入って間もなく、林道の角を曲ると前方に黒い動物を見る。これはいけない、噂の熊だ! 鈴を忘れた後悔やら先行きの不安で、思わずブレーキがかかる。本気で引き返そうかと思った。自然が「遠くの山に登りに来るな!」と言っている。しかし、ここまでエネルギーを浪費してやってきたんだ。無駄にするわけには行かない、と前へ進む。
 今日の目的は屏風山の屏風谷。2年前の11月に一度試みた谷だけれど、早い雪が来て果たせなかった谷だ。屏風谷じたいに特に思い入れというものはなかったのだが、すこし前まで左門岳、平家岳など、このあたりの山は谷のコースを辿るしか登頂の手段はなかった。そして唯一、私の調べでは谷の情報が見つからないのが屏風谷だったというわけだ。

 河内谷林道は、芹内谷の出合から歩いて20分くらい手前のところでゲートが閉まり、通行止。やれやれ屏風谷出合まで1時間の歩きだ。熊に会う可能性も高まるってわけだ。仕方ない、防護具代わりにサレワの重い3段ストックでも持って行こうか。
 汗ばむ速度で歩いても。ゲートから屏風谷出合までしっかり50分かかる。この夏の台風の影響で林道は荒れていて、ゲートが開いていても実戦型のジープでしか出合までは車の乗入れ不能だ。(通行止の本当の理由は大白味谷出合付近の砂防工事のようだった)
屏風山概念図
出合から見る屏風山
最初のゴルジュ帯入り口
 屏風谷出合からしばらくは尾根コースも谷を利用するので赤布の標識が多い。15分ほどで左岸の山腹へ道がそれてゆくと、未知の谷になる。谷はすぐに小滝を連ね、やがてゴルジュ状となる。両岸が高く立っている訳ではないが、流芯部分は岩が多く、一度高捲くと流れに戻るのが厄介そうなゴルジュだ。入り口で濡れるのを嫌い、しばらく左岸の薮を伝うが、先は増々下降が困難になると見、すぐに流れへ戻る。小滝がつぎつぎ現れるが、左右に逃げながら進むことができた。いくつか小滝をこなすとゴルジュが開けて来て、やや圧迫感がなくなり、前方に稜線も見通すことができる。このあたりまでは、短い谷の割には傾斜もあまりない。時折現れる小滝を越え、支流をいくつか見送ると、ようやく谷の傾斜が強まってくる。地図で見るとおり、両岸はゴルジュ状ではないが傾斜が強く、登れない滝が現れた時には難儀しそうだ。滝はあいかわらずどんどん出てくるが、捲く方が傾斜が強いので、直登するのが一番安心。ただし、シャワーで時折パンツを濡らすのには閉口する。もう濡れたくない季節だ。
ゴルジュのなか
ゴルジュ出口
ゴルジュ上の谷は明るい

 一旦、明るいゴーロの部分を過ぎると谷は急に狭くなり、頂上直下の急傾斜部分になる。ルンゼ状を行くと、案の定、グルリと見上げるばかりの岩場に囲まれた谷の断壁帯のようなところに出る。左手国境稜線のコルへ続く支流は陰気で急なルンゼ滝でとうてい登れない。右手、一般路のある尾根側斜面も薮のついた岩場で断たれている。本流は、スラブ状の手がかりのない20m滝をかけている。ここは左岸支流と本流との中間にある薮付きの岩尾根にルートを求めるが、薮の上に岩場があれば進退極まることになる。単独では判断に厳しい圧力がかかるところだ。

支流をわけると傾斜が増してくる
濡れるが、直登するしか...
見上げる断壁帯、一見逃げ場がない

 草付の横断からようやく尾根上のブッシュをつかみ、尾根の弱点を抜けて本流の滝の落ち口に出る。やれやれ、最も幸運なシナリオに恵まれたようで、この上は順層の堅いルンゼが続いている。しかし、狭いルンゼは、ひとたび登れない滝が出てくれば一巻の終わり、ここまで来たのにさっさと下降するしかない。落石のないことを念じつつ、草付まじりのルンゼをどんどん高度をあげる。背後には国境稜線の展望が広がる。幸いルンゼは最後まで順層の快適な登りを提供してくれ、あたりが笹のトンネルになると、両岸の圧迫感から脱することができる。本流から外れてやや右手斜面へ振って登ってゆくと、ポンと一般路のある国境稜線、約1300m地点に飛び出した。一挙に不安感から開放され、奥美濃の山並が目を射る。
 ウソみたいに歩きやすい登山道を、西へ少し登ると屏風山頂上だった。南峰に隠れていた能郷白山が西に大きい姿を見せる。

逃げ場のない草付ルンゼ
屏風山頂上から能郷白山
季節外れに枯れていたブナ林

 帰りは坦々と登山道を下る。道は必要十分以上のマークがあり、何の迷いもない。西尾根のコル状のところへ来ると、浅い谷を隔てた北隣(越前側)の尾根、p.1118m付近のブナやミズナラの林が。痛々しい程枯れているのに気付く。台風の影響なのか、これでは熊も秋に食べ物がなくなるはずだ。

('04.10.15歩く 時間:河内谷ゲート(置車)9:10-屏風谷出合10:00-登山道分岐10:22-屏風山13.05-13.30-屏風谷出合15:10-置車15:50 )