白山 岩屋俣谷 井谷(右又)から東俣谷川へ '04.8
--谷では、二又のたびに地図で確認するものだ、という教訓のことも--
  夏の山行は、昨年たどった岩屋俣谷の別山谷の隣(右又)、井谷へ行こう、ということになった。井谷の下りはどうするかと考えると、三ノ峰から別山へ登りかえして、あの長い千振尾根を下るのはあまり嬉しくない。加越国境を杉峠まで行って、三ッ谷へ下る方がまだマシだな、なんて相談していたら、K仙人から東俣谷川は下れんじゃろか、と連絡があった。それは願ったり叶ったり。東俣谷川を下るなら、すっきりした山行ができる。沢登りがより険しく、深く、悪い部分へだけ関心が向かう昨今、へそ曲がりな私にはこのようなスタイルこそ登山の原点に思えてくるのだ。
 というわけで、さっそくこのプランに飛びつくことにした。そうは言っても、雪国の谷はうかつには下れない。装備を必要最小限におさえるには、どうしても谷の概略を知りたい。東俣谷川の情報をNETで調べると、福井のYAMADAさんのサイトでただ一つ見つかった。下るにもそう厄介な部分はなさそうだ。下部は釣り屋さんも入っているようなので、ふみ跡も見つかるだろうと予想した。参加するのはK仙人、H女史、ひさしぶりに本土カムバックの四国大人、それに私の総勢4名。谷でのんびりする、というのが仲間のテーマなので2泊の用意で入る。
井谷-東俣谷川概念図
最初の滝場は右手草付きを
小滝がつぎつぎ
 岩屋俣は途中まで右岸の雨量計管理の道をたどって別山谷出合へ。井谷は別山谷にくらべると半分くらいの水量と幅で、この先に長い谷があることが信じられない。曇り空なのになんで蒸し暑い、とぼやきながらゴーロの谷を行くと、あたりはガスが捲きはじめる。そろそろ雨が来るような空模様になって来たが、涼しいのが一番だ。谷が草付の斜面に突き当たるような所に最初の滝がある。滝じたいはさして大きくないが、周囲は磨かれた岩盤が露出しているので、直登は厄介だ。ここはK仙人のリードで、水流すぐ右手の草付きの岩場をロープを出して越える。草付きの中のホールドは不安定で、コバの大きい鮎たびを履いてきた私は苦労する。古いぴったりしたのにすればよかった、と後悔先立たず。次に、小さなゴルジュ状の厄介そうな滝があり、左岸はハーケンが何枚か必要そうだ。しばらくあれこれ詮議するが、行ってみないとわからないもので、右岸の急なブッシュ帯を探ると、太い潅木を掴んで簡単にこえることができた。出合から二又までの間、ロープを出したのはこの2ケ所だけで、あとの滝は適当に越えてゆく。空は本降りの模様なので、テント場には神経を使うが、二又の中間の尾根末端の草むらに、増水しても心配のないねぐらを確保できた。この二又の周りは、標高もあまりない割には、潅木と所々のダケカンバが目立つ貧相な植生で、たき火の材料が乏しいが、それでも楽しい夕食の間、ひどい降りにならなかったのが幸いだった。明け方は一時的に景気よく降ったが、増水が目立つほどでもなく、でかいタープのおかげで予想に反して快適な一夜を過ごすことができた。

 翌日はガスも高くなり、天気は回復基調だ。右又へ入れば三ノ峰までは軽い、と思っていたのだが、本番はこの先にあった。階段状のこざっぱりした谷を登ると、小1時間で二股になる。K仙人が「どっちや?」と言うので、水の多い方だ、とばかり左手の谷へ入ったのが間違いの元だった。おいおい、なんかあたりが開けてきたで、と気がついた時は、下るのが面倒なほど登ったあとだった。2.5万図で確認すると入ったのは右又の支流で、上部は三ノ峰の西尾根に消えている。おお、このままやと、どえらい薮こぎやで。仕方ない、身から(またまた)出た錆。去年も別山谷の詰めで、草付きスラブに迷い込んだ経験は生かされなかったのだ。反省。
 その結果として、猛烈な笹と痛いハリブキの薮漕ぎ、という天罰が下ったことは詳しく書くまい。本山行のハイライトではあった。ただ、薮突入の手前で、けっこうなお花畑状のところがあり四国大人からあれこれ植物同定のご講義をいただくことができたのは、不幸中の幸いではあった。感謝。

どんどん続く滝。涼しい!
右又へ入ると、階段状となる
三ノ峰の小屋までは涼しい稜線
 三ノ峰でハイキング道に合し、暑さにめげながら加越国境を下る。劔が岩の上の肩からは東俣谷川の流域になる。一刻も早く谷へ下りたいが、なかなかよいポイントがない。六本檜の手前で、ようやく薮越しに谷へ下りやすそうな所を見つけ、笹薮へ突入する。岩屋俣の流域と異なり、草付きが少ないので下降は楽だが、上部は岩がボロボロの荒谷で、角張った岩をよけながら下る。いくつかナメ状の滝を薮を頼りに下ると、広々した本流に降り立つ。しかし、なかなかテント場が見つからない。ゴーロ状の荒涼とした谷をしばらく下って、ようやく左岸斜面に台地を見つけた。幹の曲ったブッシュだらけで、タープがまともに張れないが、増水のこともあるので、贅沢は言えない。幹の隙間を縫うようにタープとツエルトを設営した。

 翌日も、坦々とゴーロの谷を下る。広い谷なので日影がなく、太陽にあぶられてクラクラ目眩がする。けっこう休み休み下ったので、長いように感じたが、実質2時間くらいで下部のゴルジュ帯上につく。右岸に勾配45度、幅100m、高さ80mくらいの見事なスラブ壁がある。滝はいづれも左岸を捲き下れる。釣り屋のつけたテープもあってふみ跡はよくわかるが、水量が少ないのか、泳ぐ覚悟をすれば、捲かなくても下れる滝もあった。この谷唯一の滝場ともいえるこのゴルジュ帯を抜けると、大きな砂防堰堤に出て、東俣谷川は終わる。この先、三ツ谷はオロロの名所だとK仙人が脅すので、最後の核心部とばかりに笹の枝で武装したが、話ほどではなく、無事市ノ瀬へ帰りつく。
岩屋俣と違ってブッシュが掴める下り
東俣谷のえんえんとした下り
ゴルジュ状を抜ければ出合は間近
 隣の別山谷にくらべると、草付帯の処理など、井谷の方が困難度はやや低いと思われるが、東俣谷川下降に無理なくつなぐことができ、下山するまで適度な緊張感を持続できる点では、なかなか他では得られないコースと感じられた。体力があれば、二つの谷を日帰りでたどることも不可能ではないだろう。

 のんびり、ゆっくり楽しませていただいた谷と、仲間の皆様に感謝あるのみ。('04.8.14-16 歩く)