能郷白山の谷 ブロック雪崩見物記 '04.4.15
東面砂利谷〜中央尾根から大郷谷スキー下降
能郷白山頂上から北東方を望む。姥ヶ岳の向こうに銀杏峰、加越国境稜線、右手遠くに加賀白山
 前に大郷谷へ入ったのは、1975年のことだから、もう30年近く昔のことになる。その時は、ツボ足で歩いたのだけれど、下りはシリセードであっという間に出合の出発点に戻れたのが印象に残っている。記憶をたぐりながらスキーで滑ってみることにした。板は、谷上部の急斜面のことも考慮し、90cmのスキーボードを持参した。
 能郷白山の東面に入るには、道路の状況が問題になるが、本巣市役所樽見支所に国道157号の除雪状況のことを問い合わせると、やはり4月末までは閉鎖とのことだった。しかし、根尾東谷-越波経由の林道が週始めに開通したとのことなので、遠回りだがこれを使うことにする。
 車は大河原の先、猫峠越え林道の分岐まで入るが、この先は通行禁止となっている。しかし、平坦な部分では雪はないので、自己責任を承知の上でバリアを避けて、さらに奥まで車を乗り入れる。雪で道路が埋まりはじめるのは、越山谷の出合いを対岸に見下ろす地点で、ここに置車。9時15分発。大郷谷出合までは15分ほどだった。
1975年4月中旬の大郷谷下部。谷の薮は伐採から間がなく、歩きやすく、最近にくらべ格段に早く通過できた。中間部から右岸の尾根に取付き、前山付近に出た 左同様、1975年4月の写真。前山へ抜け出た地点から能郷白山頂上を望む。頂上から右へ落ちる尾根が今回登った砂利谷の中央尾根
 大郷谷の入り口は、伐採から間もなかった30年前と異なり、薮が密生していて入る気がしないので、一つ上流の砂利谷を登り、大郷谷を下りにとることにする。
 砂利谷は、出合(c.a.800m)の堰堤を左手から越えるとすぐに雪で埋まっていた。暖かい日が続いたため、傾斜の強い右岸からブロックが押し出している。今日も気温がぐんぐん上がりはじめ、ブロック崩壊に気を配りながら雪渓を行く。谷の雪はしっかり締まっているので、下部では行程がはかどる。一つ目の谷を左岸に分け、谷は傾斜を強める(c.a.980m)。右へカーブする地点で、かなり大規模な新しいブロック雪崩あとがある。息を整えて、小走りで通り抜ける。すぐに本峰へ突き上げる中央尾根の末端(c.a.1130m)となるが、右の本流は傾斜を強めて屈曲して上部が見通せない。ブロック雪崩の危険があるので、見通しのよい左俣に入る。こちらも傾斜は強いが、日陰の締まった雪を拾いながら200mほど詰めると、左岸、中央尾根側が開けて尾根に簡単に取り付けそうだ。このまま谷を詰めることもできるが、陽が高くなり、いつブロックをお見舞いされるかわからないので、やや薮こぎもまじえ、戻り気味に右上して尾根上に出る。北東方向に伸びる尾根だが、さすがに今年は陽当たりのよい尾根は薮が出ている。やれやれ、また薮漕ぎだ。
置車地点付近から能郷白山東面
砂利谷出合。堰堤は左手を越える
締まった雪で埋まった砂利谷下部
大郷谷境界尾根側からのデブリ
中央尾根末端
中央尾根取付き地点
中央尾根から大郷谷境界尾根上部
雪が続きはじめると頂上が
頂上にて白山を背に
 薮と雪を縫いながら登って行くと、頂上のドームが見え始め、尾根は丸くなり、傾斜も弛んでくる。右手、砂利谷の詰めは広いカール状の雪面になっていて、雪の条件さえよければ快適に滑ることができそうだ。時折、凍った雪も出てくるが、とくにアイゼンが要るほどでもない。最後は能郷谷登山道よりの稜線に出て終了。ここから5分も登ると能郷白山頂上だった。12時25分。
 丸い雪原になった頂上からは、乗鞍、白山、荒島、銀杏峰、それに奥美濃全山が見通せる。やや春霞みがかかっているのが残念だ。頂上には能郷谷コースを来た先行者が一人いた。谷から3時間強で登って来た、というとしきりに感心している。能郷谷コースは遠いから、5時間はかかるのではないだろうか?
頂上から西方を望む。手前にイソクラからの稜線、左に若丸山
頂上から北を望む。銀杏峰、遠く加越国境
頂上から南西方向。笹ヶ峰が白い
頂上から南方、前山
 先行の人とひとしきり山の同定を楽しんで、休みが長くなってしまう。さあ、本日の二番目のイベントの開始だ。頂上からのスキーは、伊吹南面の滑り出しほどでもないが、けっこう急斜面の下りから始まる。90cmの板は、雪面の凹凸に敏感で、斜滑降はなかなかうまく行かないので、思いきり良くターンすると、ザラメマジックも手伝って、前山のコル(c.a.1420m)まではあっと言う間に着く。
 ここから本番の下りだ。さすがに、大郷谷最上部の斜面は、最初は正対することができず、中央部まで横滑りをするが、以後は快適に下る。雪質が均一なので、規則的なシュプールを描くことができる。底ナダレがいつ発生してもおかしくない気温なので、とにかく早く下りたい。中間部の夏の滝場まで来ると、雪崩の心配は少なくなるが、ブロック雪崩のデブリで谷が埋まっている。しばらく横滑りで狭い谷を下るが、スキーよりツボ足の方が早いので、スキーはここまでにする(c.a.1100m地点)。頂上から標高差にして500mほどを10分とかかっていない。
 頭上の雪の安定した所で板を外していると、雷のような音がして、見下ろす大郷谷の右岸斜面からブロック雪崩が発生する。心配のない所から高見の見物するには壮観だが、うーん、あそこを歩いていたなら、今頃ツボ足で全力疾走しないと...いけませんな。しかし、かって経験した鹿島荒沢のブロック雪崩ほどの恐怖感はなく、ブロックの前を走れば逃げ切れそうなスピードだ。
 30年前に均質な雪面を駆け下った同じ所とは思えない、デブリとずたずたに切れた雪渓を200mほど下ると、水流が完全に出始め、時ならぬスキーを担いだ沢歩きになる。雪解け間もない河原の岩は不安定このうえなく、歩き辛い。時折、薮の斜面を捲く時は、頭上からのブロック雪崩に気を使う。平坦な河原歩きから、左岸の薮の斜面を行くと、1時間くらいかかって、ようやく古い林道跡に出る。それからは比較的歩きやすくなり、雪のない国道の大郷谷出合に下り着く、14時40分。
前山のコルからの滑り出しでやや緊張
200mほど下ると雪面は狭くなる
押し出したばかりのブロック雪崩
またまたデブリが
ううむ、駆け足!
地図のコンターが緩むと沢歩きに...
 30年前の同時期(4月中旬)には、大郷谷下部は、伐採から間がなく、雪も下部まで埋まっていて、たいへん歩きやすかったが、今では太い雜木が谷を覆い、たいへん歩きにくくなっている。雪ができるだけ埋まっている時期に入らないと、頂上へのコースとしては、あまり楽しいものではない。ただし雪が残る時期は、大河原へ達する道路が開通しないので、能郷集落から出合まで約4時間あまりの道のりを歩いて来る覚悟が必要になり、日帰りはほぼ不可能になる。

 スキーの滑降も、今回の状態では大郷谷より、砂利谷の方が適しているように思われた。特に、頂上直下の斜面は、やや温見峠寄りから直接谷へ滑り込めるので、大郷谷上部に遜色のない滑降が楽しめるだろう。下部の水流の露出も少なく、大郷谷コースより早く国道へ出ることができるものと思われる。ただしいづれの谷にしても、この時期の気温には要注意で、下部の平たん部を除いて、どちらの谷でもナダレの危険があることをじゅうぶん考慮しなければならない。
中央の尾根が今日登った尾根
国道沿いの道草の収穫、コゴミ
TIME置車9.15--砂利谷出合9.50--能郷白山頂上12.25-13.15--前山コル(下降点)13.18--大郷谷出合14.40--置車15.00