金草岳 シモットノ谷
はじめちょろちょろ、なかぱっぱ
 越美国境から東望。ここからみる美濃側は製紙用材の伐採でみごとに刈り尽くされ、もう20年以上前のことなのに山は荒れ放題にみえ、所々の林道は放置されて痛々しい。反対の越前側は優しいブナをはじめ、広葉樹林が海のように優しく広がっていて、ヒトの営為の結果とはいえ、旧徳山村の森の沈黙の叫びが聞こえるようだ
 伊賀からすると、奥美濃の金草岳は距離的に日帰りで登る限界の山になる。かなり地球温暖化に貢献しているな、という後ろめたさを感じてしまう位置にあるのだ。今回は小忙しい日帰りではなく、金草随一の名谷と言われるシモットノ谷をゆっくり泊まりで歩くことにした。メンバーは、K仙人、松阪からN、Y両氏という、常連スローライフ同人総勢4名。スローライフはメンバーの主体的意志などではなく、体がガタガタでそれしか選択肢がない、というのが本当のトコロかもしれないけれど...
楢又川上流概念図
谷とは言わん、川や!とK仙人
平茸ではない、月夜茸じゃ残念!
 7月の集中豪雨災害のあともなまなましい足羽川をさかのぼり、志津原で集合。廃村河合で車を置き、封鎖された楢又林道へ。楢又の先の沢が崩れて林道への車の乗り入れはできない。

 白倉谷出合まで林道を歩き、谷へはいる。谷とはいえ、平流が続く川の様相だ。大きな堰堤を越えると白倉谷と目指すシモットノ谷との合流点になる。2.5万図ではシモットノ谷の方に白倉谷と表記されているが、「関西周辺の谷」(白山書房刊)には右手、金草頂上に直接突き上げる谷をシモットノ谷と呼んでおり、白倉谷は金草岳東峰(白倉岳)へ上がっている。
 谷は依然として川歩きが続く。いくつか小滝があるが、濡れるのを嫌えば登れない滝は、困難もなく捲くことができる。少し谷が狭まった所を抜け、なだらかな美しい樹林の広がる河原にテント場を見つけ、今夜のねぐらとする。天候は予想に反し、良好そのもの。美しい樹林に囲まれ、ゆったりした時間が流れる。ウワバミ草は少々堅くなっているが、歯ごたえがたいへん結構だ。

岸辺に枝垂れのトリカブト
ツルツル滑るんだな
こざっぱりした流れを行く
 翌日も日本庭園のような穏やかな平流を行く。ブナの青葉が美しい樹林を堪能する。谷は広々したものではなく、どこか山間の分校の廊下を思わせる可愛いミニチュアのゴルジュ状となるが、谷底は砂利で埋まって歩きやすい。左岸金草岳の北尾根(町界稜線)からいくつか小沢が流入すると、いくぶん傾斜が増し、小滝が連続しはじめ、下部からは想像できないほど両岸はそそり立つ。こんなところを無闇に下ると泣きである。ただし、本流じたいはスケールがあるわけではなく、規模の小さなゴルジュのなかに、小滝が連続するだけだ...といっても、へつりはツルツルで、少々渋いところもあるし、捲くとなると、雪国のズルズルの泥壁が待っている。ルートを見定めるのがじつに楽しいところだ。言い換えればここがなければ、シモットノ谷は美しくはあるが平凡そのものということになる。ゴルジュを少し入ったところで、松阪隊2名は「この先見えた!」とばかり、白倉谷調査に転進することを宣言、隊は二分する。その後もゴルジュは続き、不自由な左手指が悲鳴をあげそうなころ、1回の懸垂を経て、やっとゴルジュから解放される。
 ここからは、ルート図どおり、本峰下のコルめざして、分岐ごとに注意深く進むが、最後にやや東峰の方へ寄ってしまい、猛烈なチシマザサの薮漕ぎとなる。稜線直下では、これに加え、ツタのバリケードが幾重にも重なり、消耗する。ヘバリかけたころ、向こうの空があかるくなって、あっけなく稜線の切り分け道に出る。
山の朝、のどかなり
見た目「山頭火」連、谷を分け入る
ゴルジュにかかると、ようやく谷らしく
 飛び出た所は、ほとんど東峰ピークといっていい地点だったが、釈迦嶺をはじめ、うす靄のなかに、美濃の山々の大パノラマが広がり、涼風が吹き渡る。ここからみる美濃側は製紙用材の伐採でみごとに刈り尽くされ、もう20年以上前のことなのに山は荒れ放題にみえる。所々の林道は放置されて痛々しい。反対の越前側は優しいブナをはじめ、広葉樹林が海のように優しく広がっていて、ヒトの営為の結果とはいえ、息も詰まるような対比をみせて、旧徳山村の森の沈黙の叫びが聞こえるようだ。

 国境稜線の道は福井のブナの木山の会の皆さんのおかげで、毎年下草刈り払いが行われ、たいへん歩きやすい。その美濃と越前を結ぶ古道を守る活動は、金草を登る者にとってたいへん有り難いものだ。檜尾峠経由、ブナの樹林が美しい美濃越前の古道、檜尾峠道をもときた楢又川出合へ下る。二日間の仲間と山への感謝を胸に、樹林の山旅は終わる。

濡れるのを嫌い、土壁を捲く
ブナも由緒ありげな、檜尾峠道を下る
添又出合の7月豪雨の忘れ形見?
 金草岳を取りまく谷の中で、この谷をたどった誰もが、シモットノ谷は名谷だと言うが、樹林の佇まいと流れの変化、美しさ、そのいづれをとっても、その名にそむかない谷であった。('04.9.19-20歩く)

 *7月の集中豪雨により、福井側冠山林道は来年まで通行禁止となっている。(9月18日時点の池田町公報)