手倉山尾根から上谷山へ
底雪崩ひびく江越国境 '06/3/7

  3日前に死ぬほど苦しんだ湿った新雪のことはケロリと忘れたので、またぞろいそいそ越前へ向かう。いつものことだが、家で準備に手間取っている間に時間が過ぎ、手倉尾根の取付、広谷川出合着が8時前になってしまった。3年前の1月の尾根は新雪と薮でえらく苦労したものだが、今日は週はじめの湿雪も落ち着いたことだろうし、3年前よりもいくぶんかはマシなコンディションが期待できそうだ。しかし、今日も出発が遅れて、手倉山の尾根を登るのにいっぱいで、国境を遠くまで滑ることはできそうにない。
 手倉山尾根の取り付きは、ひと様々に取られているようだが、私は広野の手前、広谷川の橋のすぐ上にある浄水場へ登る道から取り付くことにする。スキーを担いで除雪されたアスファルト道を登るとすぐに浄水場前だが、ここからたっぷりしっかり雪がある。こいつは幸先がいい。ここから板を脱がずに登れそうな予感がするぞ。
手倉山尾根末端
植林帯上の尾根の薮は埋まっている
p.726あたりは春
  尾根の末端にある石碑の横から植林帯を抜け、尾根に乗ると、こいつは素晴らしい、3年前の薮のバリケードはどこへやら、しっかり雪が続いていて、細かいアップダウンも全て雪に埋まっている。広野からの斜面と合う所からは、週はじめのものらしいスキーのシュプールも残っている。そのシュプールにそって快適に登って行くと、広野ダムから越美国境へかけての展望が広がってくる。太陽は明るく、春を告げる小鳥がさえずり、腕まくりしても汗がしたたりおちる。3年前にごぼごぼ潜る雪と執念深い薮に泣いたのは、いったい何だったのだろう。

  地形図の726m標高点までは、急斜面もところどころあるが、太いナラの木の根元に落ち込まないように気をつけながら行けば後は雪が助けてくれる。これを過ぎると尾根はしばらくの間、広くなだらかになる。手倉山の北斜面にかかると、また傾斜が強まり、ジグザグ登高になる。岩谷川からの急な尾根に乗り、しばらくで越美、江越の国境を見晴らす手倉山頂上。春を思わせるそよ風にあたりながら大休止。南東には越美国境が横たわり、上谷山も手に届くように見えるが、常になく巨大な雪庇も見え、今年の雪のものすごさをあらためて感じる。豪華な景観を楽しみながら、のんびりお茶でおにぎりをほおばっていると、時間が瞬く間に過ぎて行く。見下ろすあちこちの谷では雪が緩んで、腹に響くような底雪崩の音が聞こえて来る。

手倉山から越美国境の山々
江越国境JP手前の雪庇の尾根
JPから上谷山
  手倉山からは、尾根はゆるやかにやや下り、その先でブナの疎林の広々した尾根の登りとなる。尾根が傾斜を増してくると、岩谷川側の巨大な雪庇の上を行くようになる。所々にある雪庇の割れ目に気をつけながら苦しい急登を我慢すれば、ようやく江越国境のJPに立つ。北斜面から飛び出したので、一気に散乱する陽光と360度の展望に取り囲まれて、目眩がしそうである。ここから見る東方、三国岳への稜線は、途中のコルまで大きく高度を下げており、手倉山から三国岳を狙うのはよほどの根性がないと無理に思える。西には、これまた上谷山のドーム状の頂上が意外に瘠せた尾根のコルの先に悠然とそびえている。正午近くの陽光を浴びて、雪面は湿り気を帯び、特に南東斜面では腐って深く潜るが、大汗を我慢して上谷山へ着く。西には音波山へ続く江越国境の尾根がどこまでもやわらかに続いている。せめてもう1時間早く頂上へ着けたら、と大休止ばかりやってたわりには手前勝手なことを考えてしまう。すでに正午を過ぎ、もはやここから遠くへは行けるものではない。

  さてと、昼飯を食いながら下降路を考えるが、時間も時間だしもうすっかり汗をかきすぎて、音波山まで走る元気は逆立ちしても出てこない。かと言って、登りの尾根を下るのも能がない気がするので、ここは広谷川左岸尾根を下るかな、と尾根の上部を観察するが、稜線直下がかなり急に見え、その先はえらく平坦だ。これじゃあ時間がかかりすぎるんじゃないか、ということで、さあ来いと誘惑する送電線尾根から宇津尾谷へ滑り込むことにする。宇津尾谷だったら、今年の雪ならかなり下までノンストップで行けるだろう。心配事は、斜面からの雪崩だが、何度も通っているので、危険な所はアタマに叩き込んである。そこはもちろんノンストップで通り過ぎなければならない。

上谷山頂から江美国境稜線(左:笹ヶ峰、中央:三周ヶ岳)
 食事をすませ、シールを剥いで送電線尾根の頭まで一気に滑る。だだっ広い江越国境稜線は、細かいブッシュはみんな雪の下なので、直滑降で怖いほどのスピードが出るが、日当たりの悪い側になるので、腐ってはいないが雪質が一定していない。雪面が変化するたびに思わず腰が引けてしまうのが情けない。しかし腰が引けようがどうだろうが送電線尾根の頭手前のコルまで、ものの5分とかからず、そこから少し登り返せば送電線尾根の頭。一昨年にも増してたっぷりした雪があり、北へ続く尾根もみごとな雪の街道が続いている。ここで果てしなくやわらかく続く国境稜線と分かれ、北斜面へ入る。宇津尾送電線尾根上部のハイライトは、国境稜線直下と宇津尾谷林道交点付近の大斜面。滑りがうまければ爽快なんだろうが、こちとら「おっとっと」の連続。でも楽しい。
なだらかな江越国境稜線
宇津尾尾根分岐付近から上谷山
宇津尾尾根分岐付近から舟ヶ洞
 尾根の903m標高点手前で出合う宇津尾谷右岸林道はブッシュがないので位置はわかるが、完全に斜面に溶け込んでしまっていて、そこから長い斜滑降がはじまる。791m標高点あたりから、林道は大きくUターンして、谷奥へ向かって急激に下り始める。ここからが要注意地点。時折枝谷を横切るところでは、デブリが押し出していて、上を警戒しながら通過する。脂汗がしたたるが、急な所ほど日陰で雪が締まっているので、素早く通過できた。谷沿いの道に出て一息つく。この先の危険箇所は、砂防ダム付近の急斜面下を行く所だけだ。少しずつ雪が緩み始めた林道を、ひたすら宇津尾目指して走らせる。両岸には、底雪崩のなまなましい跡があって、今年の雪の異常さを物語っていた。宇津尾の集落が見え出す、田んぼ近くまで滑って、ようやく板を脱ぐ。雪解け水がアスファルトの上を勢い良く流れていた。里はもうすっかり春なのだ。
 宇津尾の県道沿いに荷物をデポし、フキノトウを摘みながら広谷川の出合まで車を回収しにテレ靴でカポカポ歩いた。広野川対岸の杉林を見ると、この冬の豪雪で無数に折れて、無惨なものだった。

 さて次の機会は、この雪がある間に、音波山まで江越国境の縦走を目指すのだ。 
 
(尾根末端出発8:05--p.726 9:46--手倉山10:45--11:8--JP11:52--上谷山12:10--12:50--送電線尾根頭13:05--宇津尾谷本流13:55--宇津尾14:50--車置場15:35)
宇津尾尾根の頭
宇津尾谷砂防ダム対岸の底雪崩跡
豪雪で無惨な杉林(橋立付近)