樫尾谷川左俣右岸 八飯尾根から江越国境へ
湿雪スキーは超鈍足で '06/3/4

 3月初め、北陸は悪天が続いたが、4日は晴れる見込みになった。山に積もった雪は歓迎できないが、今年の雪の量なら、課題だった江越国境、音波山の北の尾根をスキーで歩けそうだ。

 長いこと、地図を眺めて考えて来たので、一番すっきりするコース取りは当然、八飯から荒井へと、樫尾谷を取り巻く尾根を完全周回するものだとわかっているが、弱気な私は、まずは軽く様子をみなければなるまい。尾根の太さが未知数だから、テレマークでは瘠せた尾根で進退極まるってことも無いとは言えない。

 朝、八飯の公民館横に車を停め、中にいたおばあさんに駐車の許可を貰う。「どこ行くんや?」と聞くので、「裏の山です」と答えると、「そら危ない、やめとき。今年はえらい雪やで、行ったら死ぬで!」 思わず私は脂汗。「いや、とにかく、危ないことはしませんので(^^;
八飯観音堂と尾根末端
八飯尾根へ上がる送電線下の支稜
豪雪で杉の幹がヘシ曲がっている
 県道から観察すると、公民館すぐそばの観音堂裏まで八飯の尾根は迫って来ていて、斜面は急でスキーを履けそうもない。とりあえず、尾根の末端を左手(南東)へ歩き、植林帯の中に適当な斜面を探すことにして歩き出す。除雪された生活道の行き止まりは、2mほどの雪の壁になっていた。この先も細い林道があるようなのだが、なにしろ圧倒的な雪で、なかなか夏の地形が飲み込めない。とりあえず板を雪面に放り上げ、雪壁をよじ登ってスキーを履く。雪の上には足跡とてなく、私は期せずして八飯集落から南東方向へ踏み出した今年最初の人間になったわけだ。
 しばらく林道とおぼしき雪面をゆるゆる歩き、送電線の下あたりの杉林に入る。降雪の後だが、この辺りの雪はゆるんで歩きにくい。斜面はどんどん急になり、一番目の鉄塔の下あたりで尾根状に乗る。木立のない所では重い新雪が積もり、シールが効かない。尾根が瘠せ苦しい薮こぎもまじえて、二番目鉄塔近くの八飯からの尾根へ出ると、ようやく傾斜が緩み一息つける。標高400mあたりだ。ここからは植林と雑木林の境目を行く。豪雪のために杉があちこちで無惨に倒れている。雪がやけに重く、シールにベタつく。これさえなければ、主稜線なみに薮が埋まっているので、広々した尾根は去年までが嘘のように歩きやすい。
平坦な尾根は雪がいやになるほど重い
p.508あたりののびやかな斜面
p.594を越えると尾根の展望が開ける
 508mの三角点から594m標高点あたりは、特に広々とした雪原になっていて、江越国境へ登る尾根だとは思えない。樫尾谷を取り巻く尾根の状況もよく見晴らすことができる。p.594を越えると、一旦下りとなり、右隣の尾根から林道が横切る。この先しばらくで、尾根はやや瘠せ、登る気がなえる様な傾斜に見える。斜面を大きく使ってジグザグに登るが、左右にあまり深入りすれば新雪が雪崩れそうな傾斜でイヤな所だ。この辺りで新雪は30cmはあるようだ。
林道の先は傾斜が急になる
750m付近から笹ヶ峰方面の展望
上部のブナの林
 標高差で100mほどを階段登高をまじえて乗り切れば、標高700m付近で再び尾根は傾斜が緩み、歩きやすくなる。左手には、笹ヶ峰あたりの越美国境稜線がまぶしく見える。あたりはブナに樹氷がついてなかなか良いたたずまいの尾根だ。しかし、あいかわらず新雪が深く重い。これだけシールにベタつくと、ワカンで歩くのと変わりないほど疲れる。
 尾根は、上へ行くほど下部よりも樹林が密で、おまけに地形が複雑になり、周りの見晴らしもなくなる。左右の谷が浅くなると、どうやら国境稜線らしい所へ出た。とたんに、大音谷をへだてて、スキー場の騒音が聞こえてくる。がっかりな江越国境なのだ。細かい薮越しに、上谷山が遠い。稜線を右へとると、すぐに音波山のひとつ東側のピーク。ここも視界は薮で得られないが、ラッセルで疲れ、おまけにスキー場がうるさいので、今日はこれまでで打ち切る。

 食事の後シールを外して、のんびりもと来た尾根を滑って下る。スピードが出ない平坦地では、ワックスをかけたはずのステップソールにべとべと雪がついてくる。下りで雪がはり付いて来るスキーはめったにない経験だ。標高700mから下の雪崩そうな瘠せ尾根は、キックターンでだましだまし下る。
 下りでのもう一つの問題は450mあたりから下、送電線沿いの支尾根だが、骨折せずに滑るのは不可能に思えるので、そのまま八飯へ向けて広い尾根をたどり、400m付近で板を外し、ずぼずぼ潜る急な尾根をツボ足で下った。途中で竹ヤブの中のラッセルとなり、小沢に出て民家の横を抜けると、朝、板を履いた地点の100mほど上手へ飛び出した。もう体はガタガタ。除雪をしていた村の人と話しをするのも大儀であった。
下る途中で見た、江美国境稜線(笹ヶ峰、美濃俣丸、三周)
雪が着かなければ、尾根は快適
 湿気を含んだ越前の新雪は、覚悟の上とはいえ、地獄の苦しみを与えてくれた。かいた汗も半端ではなく、ドライのシャツでもどぼどぼになった。今日は、ひさしぶりに越前の湿雪を骨身に沁みるまで堪能できたわけだ。ひょっとして、ワカンで歩いた方が早かったのかもしれない。湿った新雪はこりごりだが、また忘れた頃に来るのだろうな。本日の収穫と言えば、美しい越美国境の眺めと、樫尾谷を取り巻く尾根をつぶさに観察できたこと。次の課題は、以前ラッセルがすごくて果たせなかった手倉山尾根から上谷山のコースの踏査だが、もうこれ以上湿った新雪が積もらないことを切に祈ろう。 
 
(八飯8:55--390c.a.稜線9:50--p.508三角点10:10--p.594 11:03--林道11:08--音波山隣のp13:00~13:25--林道14:35--八飯16:00)