三重、奈良県境 名張断層崖山地縦走
梅が丘団地-茶臼山-笠間峠-深野-三本松

山のむこうでジブンをふりかえる

 伊賀に属する名張の盆地と大和との境界は、東から「短野」、「名張」、「初瀬宇陀川」の三つの断層崖で区切られている。奈良から電車で名張盆地へ入ると、北側には名張断層崖の山々が大和高原の南端を区切っているのを手にとるように見ることができる。
 名張から眺めると、それは一つの山地に見えるが、ひとたび踏み込むと、山向うの大和高原はすぐに人の生業の場所であることが理解できる。「名張三角点の旅」の報告でも書いたことだが、そこはすでに里山でもない経済活動の場のように感じられる。悲しいことだが、それは誰のせいでもなく、我々も一端を担う、ヒトの営みが生み出したものだ。環境破壊だとか、ゴミの投棄だとか騒ぐのは簡単だが、それが自分の問題でもある、という認識にたたなければ、議論じたいが無意味なことも確かなのだ。今回は、そういう悲しい報告をしなければなるまい。その中に、何か明るい希望は見つからないものだろうか?

 15年ほど昔の話をすれば、当時、名張断層崖に連なる県境稜線には、まだ林業のための仕事道がかすかに残っていて、マツタケ無断採取防止の縄がはりめぐらされたりしていたものだ。今回、そんな痕跡はまったくなくなっていた。そしてそれにかわって、ゴルフ場、育牛牧場と牛糞廃棄場、鶏舎の残骸、墓場、別荘地、それにイバラの薮があった。それも尾根の真上に。
 このコースは名張の盆地と大和高原を眺めながら静かな里山歩きができると思っていたが、このままではまるで市街地とそれをつなぐ荒れた薮という地帯と化してゆくだろう。ヒトの土地だから分水嶺に何を構築してもよいではないか、という意見もあるだろうが、曲がりなりにも谷の源流に、ゴルフ場や家畜のし尿捨て場をつくることは、常識に照らして素直に肯定しがたいものがある。

(3月13日歩く。出発点より到着の近鉄三本松駅まで、地図上直線距離7km)
梅が丘-茶臼山間
出発点
名張市街北部大屋戸橋から西望。名張断層崖がよくわかる。中央の盛上りが茶臼山 出発点の短野南端の小沢入口。上の人工溜め池管理用の道が残る 小沢を渡る所までは車で入れる。そこに、とほほな冷蔵庫。ゴミ投棄禁止の看板がむなしい
山上湖というべき農業用水池。短野集落の灌漑用に作られたものだろう。ここまでゴミは来ないが、すぐ右手尾根を隔ててゴルフ場 池から地図とにらめっこになる。ゆるやかな丘陵をぬけると、名張からの茶臼山コースと出合う。右手には常にゴルフ場のフェンスが覆いかぶさる 茶臼山への最後の登りはやや傾斜がある。共聴アンテナの切り開きから上野盆地がかすんで見える
茶臼山頂上
茶臼山-笠間峠
小広く刈り込まれた茶臼山頂上三角点 茶臼山頂までUHFアンテナ基地のための道路があるので、ひとたび昔の山道に入ると、このとおり体が浮くような笹薮に覆われている 奈良県側の牧場からの道が尾根まで上がってきている。なぜか、それは牛糞廃棄用の道だった。尾根の真上にテニスコートくらいの土地が開かれ、牛糞が山積されている。私も牛肉を食うのであるから、他人を恨む謂れはないのだ。しかし、オエッと言いながら通り過ぎる
さらに尾根の薮を漕いでゆくと、一難去ってまた一難。なにかトタン板でできたカマボコ型の構築物がイバラに覆われている。大きく迂回してやりすごす。いったいこれは何なんだ! ヒトの営為もうたかたのもの。なくなればまた自然が戻ってくる。最近は放置されている場所なのか、ケモノのヌタ場があった。あたりは足跡だらけ かと思うと、下生えがすくなくなり、今度は墓場が。南無阿弥陀仏
こんなコナラの二次林もあるが、陽当たりの良い斜面の下生えはイバラが勝っている。もう10年もすれば、落ち着いてくるのかな? ところどころ、こんな昔の仕事道も残っている 薮や植林をかき分けながらなおも行けば、ポンと笠間から来る新しい林道に出る
笠間峠-三本松
林道はすぐに行き止まり、また植林帯に。それをすぎると明るい笠間峠の別荘地に。なんでわざわざこんなところに.... 住宅の向うに室生の山が一望できる 笠間峠。名張から東大寺へお水取りに使う薪を納めに、今も使われる歴史の道。ここから尾根筋は集落をつなぐ広い歩きやすい道になる 上笠間最奥の集落。尾根の上まで集落は広がる、先ほどの別荘地とは違って、風景になじんでいるので、心和む
広い林道をぽくぽく歩いてゆくと、何だかまた尾根の上は造成地の様相を呈する。いったい何なんだ、ハイランドビレッジてのは?住んでるヒトには何の恨みもないけれど、何だか訳がわからん ハイランドビレッジとかいう侘びしい宅地から、深野の集落に続く。その最上部南端が稜線の尾根の峠になっている笠間への分岐。ここから、奈良、三重の県境は南下し、稜線は奈良県側に入る 忠実に稜線の薮をわけてゆくと、ポンと植林道に出る。道があるのに使わないテはない、とたどってゆくと、激薮の尾根が左手に遠ざかり、乗越し状の所へ。えい、ままよ、だいぶ北に振ってしまった
案の状、都祁方面とR165をむすぶ農免道路に出た。サイクリングによく走る道だ。時折ものすごいスピードでクルマが走り抜けてゆく。これを左手へとるしか道はない 農免道路をゆくと、本来歩くべきだった尾根が見える。なかなか堅固な薮の要塞だ。ここを行くと明るい間にゴールできなかったかもしれないな。また日をあらためて挑戦してみよう 農免道路から右、三本松への旧道へはいると、道端には軽トラックが打ち捨てられていた。雑草が覆ったそれは、徐々に自然に馴染みつつあるようにも見えるのが不思議だ
稜線歩きの終了点のはずだった地蔵峠
地蔵峠の切り通しを抜けると、眼下に三本松の集落が広々と見渡せる。のどかである ゴール直前では、梅の花が満開。しぼみかけた心を癒してくれる
11.48 出発--12.27 茶臼山--13.31 笠間峠--13.56 深野分岐--14.54 地蔵峠--15.05 近鉄三本松駅着(所要3時間17分)