鈴鹿 脇ヶ畑カルスト台地テレマーク

桃原から権現谷林道へ

 湖東、多賀町の久徳あたりの芹川畔から東を見ると、台地状の山塊が見える。河川流域から言えば、北は芹川、南は犬上川北谷によって区切られたこの山塊の頂上部は、脇ヶ畑カルスト台地と呼ばれる。その外縁は急峻な石灰岩の侵食崖によって囲まれ、標高500m以上の頂上部は南北4km、東西5kmにわたり、カルスト台地特有の高原状となって広がっている。
 雪のない季節は、東西に走る林道によって、たいへんアプローチしやすいこの台地も、いったん雪を冠ると一変する。長い林道がバリアとなって、鈴鹿のヒンターラントとも言うべき、ほとんど人の入らない地域となってしまうからだ。そうなるとスキーの出番。地図とにらめっこしながら、脇ヶ畑台地を周回するコースをあれこれ考えることにした。
桃原旧道口にMTBデポ
のどかなり桃原集落(322m)
平茸生えるアミダ峰頂上(p.670m)
・下見(2/9)
 北隣の霊仙山には、芹川から何度も入ったことがあるが、脇ヶ畑台地のことは全く知らない。概要を把握するため下見を行う。まずはアケン原から長大な権現谷林道をたどって高室山への登路を探った。アケン原から権現谷林道にはすぐ雪があり、スキーをつける。権現谷のゴルジュから先の林道は、山側の急なルンゼからのデブリで埋まった部分が3ケ所ほどあり、エッジのない板では谷へ落ちてしまいそうだ。保月分岐からは、林道が台地東端の侵食崖中腹をたどる。ここも2ケ所ほど、谷底まで高度感のあるデブリ帯があり、クロカンの板では恐ろしい。テレマーク板にして正解であった。
 アサハギ谷右岸から左岸へ渡る橋から、アサハギ谷に入る。杉の植林になるので、枯れた杉枝で板がつっかかるのが難。植林帯を抜け、明るい二次林が広がると、山奥にログハウスがあり、ここで小道は途切れる。この先の谷は、溝状になっているのが気になるが、なんとか高室山まで行けそうだ。そう見通しをつけ、長い林道歩きで疲れたので、今日はこれまでとする。下りは堅かった雪が腐りはじめ、予想よりもよく板は走った。
 今日の出会いは、ナダレにうたれたカモシカの死体1体、それに権現付近で、タヌキが1頭、ちん入者に驚いて、道ばたでウーっと凄んでいた。急な林道山側斜面が続く所では、カモシカがやたらに落石を起こす。権現谷林道のスキーで一番要注意事項は、カモシカの起こす落石である。
杉坂峠
杉への林道から作業道へ入る
台地西端尾根上の鉄塔で一服
・コースの検討
 下見では、権現谷林道が下りで利用価値の高いことが確認できた。しかし、鈴鹿の低山帯では、陽当たりのよい林道(特に西面、南面)はすぐ雪が消えて使えなくなる。下見後、野暮用でなかなか本番が実行できず、ジリジリした時を過ごす間に、低地の雪がすっかり溶けてしまったようだ。降雪直後であれば、西面栗栖集落から杉坂峠越えの林道が理想的なのだが、最短コースを採るしかないようだ。地図を睨むと、台地の北西面にある桃原集落からの登路がなんとかなりそうだ。芹川沿いの桃原集落に登る旧道を歩き、桃原集落を抜け、南北に走る送電線巡視路を使って台地へ上がるルートだ。
 いったん台地に上がれば、あとは雪があるのでなんとかなるだろう、ということで、
 桃原-アミダ峰-杉坂峠-台地西縁尾根-高室山林道-高室山-アサハギ谷-権現谷林道から河内へ
という、台地上を半周して出発点へ戻る計画を立てた。板はボイルのビンディングを装着した2mのテレマーク板を使用する。なお、出発点(桃原口)から終着点(アケン原)間は4km強の距離があるので、その間はMTBを利用して移動する。
高室山林道に出る
...と、あまり嬉しくない足跡が...
琵琶湖を見晴るかす林道
・実施(2/22)
 2/9にはアケン原から先の林道は雪で埋まっていたが、今日はアケン原林道起点から500mほど先の倒木で封鎖された所まで車が入り、この先にも雪がしばらくないようだ。このぶんでは台地上の雪も心もとないと思うと、モチベーションが一気に下がってくる。とにかく置車してMTBを組み立てるが、ブレーキワイヤの留め金が引っ込んでしまい、ブレーキが組めない。冷や汗をかきながらやっとのことでワイヤを繋ぐと、30分ほど時間を失う。9時半スタートの予定だったのだが...
 県道をMTBで走り、桃原口の古びた橋のたもとでスキー装束に着替え、歩き始めたのは10時をすぎていた。いつものことだが、雪と時間の二つの要因で、先行き不安だ。

 雪の全くない桃原への旧道を汗だくで登る。自動車道ができてからは放置されているのか、道は荒れ放題だったが、雪がチラホラ出始めると、名前のような桃原郷ともいうべき桃原集落にでる。桃原を抜けると2.5万図の破線路にそった送電線鉄塔巡視路に入る。標高500mくらいから雪が続きはじめるので、550mを過ぎた辺りで板を履く。北面なので雪は比較的締まっている。傾斜が緩むと、台地上にでるが、一帯は杉の植林で覆われ、見通しはまったくきかない。地図を見ながら南西方向へ緩く登ると、明るい雑木林のアミダ峰着。11時30分。芹川畔からほとんど歩きで、1時間20分かかった。一服つけながらナラの木を見上げると、えらく立派なヒラタケが冷凍状態で生えている。山からの恵みと、ありがたく頂戴する。

 アミダ峰から南へ再度植林帯を行く、杉坂峠手前は急傾斜になるので板を脱ぐ。ま、名前からして杉だらけなのは仕方ないのだが、林道も杉の枯れ枝が散乱してスキーが滑らない。峠から東、杉集落跡めざして5分ほど下り、地形図にある、南方、陣屋方面へ向かう破線路に入る。破線路は植林作業道らしく、台地西端の尾根の東側中腹をたどってゆくと、やがて雪のなかに不明瞭となるが、雪は豊富にあるので、妨げとはならない。やや西南方向へ進むと、平たんな台地西端尾根上に出、丈の低い植林のなかを下ると、西から来る送電線の鉄塔下に出る。視界のない植林から、ここに来て、ようやく位置確認ができる。陽当たりのよい斜面で食事大休止。
 尾根の前方は再び丈の低い植林帯なので、左手に見える林道へ向かって、右山を下降気味に横切り、小沢となった室ノ谷源流を渡って高室山への林道に出る。林道はあるきやすい。旧雪の上にうっすら新雪のついた林道を南へ行くと、なにやら大きな足跡がある。でかい犬の足跡だなと思ってよく見るが、こいつはつい先程ついたクマの足跡だ。おまけに、こちらの計画を知っているかのように、先へ進んでいる。ヤバイ。大声でコールしながら歩くしかない。足跡は高室山の頂上へ向かう取付きまで続き、ようやくそれて行った。ヤレヤレ、驚かさないでよ、出くわさなくてよかった。

ゆったりした高室山林道上部
雪原となった高室山北のコル
p.777から霊仙山
 高室山へは薮が低いのでパスして、眺めのよい林道を北のコルまで行く。広々とした雪原が広がり、琵琶湖の眺めもあるよい所だ。コルから緩く雑木林を登ると、p.777mにつく。北には霊仙山の眺めが大きい。ここでやっとシールを外すことができる。 ピークから緩い薮尾根を滑り、p.735mの登りの手前で、右手アサハギ谷に滑り込む。しかし、源流一帯は再び植林帯になり、杉枝が散乱してさっぱりよい滑りはできない。谷に水音が聞こえ出すと、谷は溝状となり、雪の斜面は枝沢のたびに雪が切れている。残念ながらそのたびに着脱させられる。とどのつまり、下見の時に達したログハウスの近くまで、快適な滑降とは無縁の斜面歩行が続く、滑りにくい谷だった。
 ログハウスから先は、下見時と同じ安定した滑りができたが、白谷出合付近からは雪量が極端に減り、権現谷のゴルジュが始まるあたり、カモシカの死体がある地点でとうとう板を脱ぐ。あとはあたたかい日差しを浴びながら、置車地点へ戻り、桃原口でデポした自転車を回収する。
権現谷林道を見下ろす
哀れ、雪崩にうたれたカモシカ
権現谷林道のデブリ(2月9日)
 脇ヶ畑台地は、クロスカントリーを実践するよいフィールドを提供してくれる。雪の条件がよければ、置車地点から気持ちよい雪上ハイキングが楽しめそうだ。次に行く機会には、スキー嫌いな奴を引っ張りだしてやろう。...しかし、いらぬおせっかいかなあ?('05/2/22)

(時間:桃原旧道口10:10--桃原10:35--アミダ峰11:30--杉坂峠11:47--陣尾山丸山間コル(鉄塔下)12:55--高室山林道分岐13:40--高室山北のコル14:00--p.777m14:20--アサハギ谷乗越14:45--アサハギ谷橋15:40--白谷出合16:15--アケン原置車点16:50)