上巻が出てから半年ちかくたって、ようやく待ちわびた「アンデス登攀記」の下巻がでた。
余計なお世話だけれど、本書の原題は
"Travels amongst The Great Andes of the Equator"
というもので、通常アンデス山脈というと思い描く、ペルー以南(コルディエラ・セントラル以南)の中央アンデスとコロンビア国内(コルディエラ・オクデンタル)に挟まれた、エクアドル国内に位置する山地での探検行の記録である。「アンデス登攀記」というと何か大袈裟なのだが、原題はもっと正確に本書の内容を表現している。ウィンパーのライフワークである「アルプス登攀記」があるので、こんな大袈裟なタイトルになったのだろうが、もう少しばかりの配慮が欲しいものだと思う。
さて本題。本書の原題、「赤道周辺の大アンデス山地旅行記」というとおり、エクアドル国内のアンデス山地の登頂を含む踏査行の記録なのだけれど、もちろん山岳登攀の記述もある。しかし、「アルプス...」にくらべ、その記述はいたってさらりとしたもので、マッターホルン登頂から経過した14年の歳月を感じさせる。もともといたってクールな記述がウィンパーの本の特徴だけれど、「アンデス...」ではそれに磨きが一層かかって、円熟味を感じさせる。
もちろん、アンデスの登攀にも興味があるが、前著にも同様の傾向があるように、エクアドルという国の人と風土に対する記述に私は強く惹かれる。またアネロイド気圧計のテスト、高度の人体への影響、アンデスの自然への博物的な観察など、あらゆる面でウィンパーの面目躍如たるものがあり、「イギリス人」としての彼の「探検」に対する考え方を肌で感じることができる。また、マッターホルンでは競争者であった同行のアントワーヌ・カレルたちとの友情にも溢れていて、相変わらず楽しい気持ちにさせられる。前著同様、ウィンパーの手になる銅版挿し絵もみごとなものだ。
大アンデス中心部の探検ではないが、ちょっと風変わりなエクアドルアンデスの探検記として、また「アンデス黄金時代」の数少ない記録として、楽しく読むことができる書だ。付け加えれば、ピサロのアンデス越えやアマゾン探検など、当時のヨーロッパ人の南アメリカに対する考え方や探検史についても触れられており、その点で考えさせられる書でもある。
「登攀」ではなく、「探検」というコトバが好きな人なら必見! 至福の時が過ごせること請け合います。('05.2.1記)
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