「大変革夜明け前」村岡兼幸著(1997年パロル舎刊)にて掲載
ドラッコエモン

地球流民 

『ボク、ドラッコエモン。今日のおはなしは、スキーにいこ〜う!』

 のび幸くんの部屋に住みついているドラッコエモンは、未来から来たラッコ型ロボットです。いつも持っている貝の中には、未来の不思議な道具がたくさん入っていて、お腹の上でコンコンとたたくと道具を取り出すことができます。

今日も、のび幸くんは、ドラッコエモンにお願いしています。
「ねえ、ドラッコエモン、のどがかわいたよお、なんか出して〜え」
 コンコンコン。『なんでもじゅーす〜!この光線を当てると、なんでもジュースに変身するんだよ』
 ドラッコエモンは、いつでもいやがらずに、色んなものを出してくれます。

「ねえ、ドラッコエモン、学校行くとジャイアン太たちがいるから、行きたくないんだ。うちで勉強できるようにしてくれよ〜」
 コンコンコン。『せんせい付くえ〜!この机に向かうと、専属の先生が付いてるみたいに、学校の授業が全部写るんだよ』
「へえ〜、すごいや。ドラッコエモンがいたら、もう学校なんていらないね」

「のび幸ちゃ〜ん!お隣に行って、回覧板、回してきて」ママが呼んでいます。
「うん、わかった」返事をしたものの、のび幸はお隣のおばさんによくしかられているので、会いたくありません。
「ねえ、ドラッコエモン、なんとかしてよ〜」
コンコン!『どこでもぽすと〜!これに回覧板を入れれば、思ったところに届けることができるんだよ』
「わー、すごいや。ドラッコエモンがいたら、もうお隣のおばさんの顔見なくていいね」

 ある日、ジャイアン太やすねおたちが、みんなでスキーにいく話しをしていました。のび幸も誘われましたが、下手なので行きたくありません。
「でも、しず子ちゃんとはスキーしたいし……。そうだ!」
「ねえ、ドラッコエモン、裏の山をスキー場にしてよ。ボクとしず子ちゃんにしか見えないのがいいなあ」
 コンコン。『ゆきやま出さんか〜!これを山のてっぺんに置くと、山がスキー場になるんだよ』

 のび幸くんは、さっそくしず子ちゃんに電話をしました。
「しずかちゃ〜ん。秘密のスキー場があるんだよ。ふたりっきりですべろうよ。」
 でも、ドラッコエモンがいるとじゃまですから、のび幸くんはドラッコエモンを家に置いていくことにしました。
「ドラッコエモン、君はじゃまだから来ちゃダメだよ。お昼寝してればいいから」
『うん、わかった〜。お昼寝モード〜』ドラッコエモンは押入に入りました。

 しず子ちゃんを連れて裏山に登ったのび幸が、ゆきやま出さんかのスイッチを押すと、一面銀世界です。
「のび幸さん。すごい!」しず子ちゃんは大感激。
「うん、ボクにはドラッコエモンがついているんだから、なんでもできちゃうよ」
「じゃあ、すべりましょう!」スキーが得意な、しず子ちゃんはすいーと滑っていきました。
「ア〜ン、しずかちゃん、待ってよ〜」のび幸は、あわてて後を追いかけますが、いきなりすってんころりん転んでしまいました。「アワワワワワワワワワワ・・・・・」そして、そのまま谷底へころげていってしまったのです。

「しず子ちゃ〜ん!」雪に頭から突き刺さって抜け出せなくなたのび幸は、泣きながらしず子ちゃんを呼びますが、しず子ちゃんには聞こえません。そのうち日が暮れてきました。
「おかしいわ。のび幸さん、どこへいったのかしら? でも、のび幸さんにはドラちゃんがいるものね。わたしお勉強しなくちゃいけないし、そろそろ帰ろうっと」しずか子ゃんは一人で帰ってしまいました。

 ついに夜になってしまいました。
「ドラッコエモ〜ン。ドラッコエモ〜ン……」
 のび幸は、頼りのドラッコエモンを呼びますが、ドラッコエモンは押入の中でお昼寝モードです。
 そのまま一晩たって翌朝、のび幸くんの部屋では、ドラッコエモンが起きてきました。
『のび幸くん、おはよう。 あれっ?いないのか。そうかまだ帰ってないんだな。でも来ちゃダメだって言ってたし。今日は一人で遊んでいようっと』ロボットのドラッコエモンはのび幸からの命令はよく聞くかわりに、命令がなければなにもしないし、心配なんかもしないのです。

 その日の夕方。みんなが、のび幸の家にやってきました。
「こら〜あ!のび幸。おまえ昨日は、しず子ちゃんとだけスキーしたそうじゃないか! オレたちにもさせろよ!」ジャイアン太が玄関の前でどなっています。
『ボク、ドラッコエモン。のび幸くんは、昨日から帰ってないよ〜』二階から顔を出したドラッコエモンが答えました。
「たいへんだわー。のび幸さん、遭難したんじゃないかしら」
 しず子ちゃんの言葉にみんなびっくり。裏山に捜索に行くことにしました。ママもお隣のおばさんも一緒です。

「の〜びゆき〜ああ…」「のび幸さ〜ん!」「のび幸く〜ん」「のびちゃ〜ん」
 日が暮れてきても、のび幸はなかなか見つかりません。でも、のび幸のことが心配ですから、だれも帰ろうなんて言い出しません。日が沈んでほとんど真っ暗になった頃、みんなはやっとのび幸を見つけました。
「あ、みんな〜あああ・・・」のび幸は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしています。 
「ママ〜、ボク、さびしかったよお…。エーン、エーン」
「心配したぞ、のび幸。おまえがいないとぶん殴るやつがいなくなるからな」ジャイアン太が言いました。
 ジャイアン太の笑顔を見て、のび幸は、貝からなんでも出してくれるドラッコエモンより、いつでも心配してくれる友だちや、お隣のおばさんの方が大切だなあと思ったのでした。

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(C) 1996 Hajime Nakamura.