地球流民 |
ヘビのちからで、地球の砂漠から、自分の星へ帰るところだった星の王子さまは、また呑み助の星に寄りました。 呑み助と前に会ったときは、ひどく気が沈んでしまったので、たちよるのはいやだったのですが、もしかしたらあの呑み助に、キツネにおしえてもらった、ほんとうにたいせつなことの意味をおしえてあげられるかもしれないと思ったのです。 不思議なことに、呑み助は今日はお酒を呑んでいませんでした。 「きみ、どうして今日はお酒のんでないの?」 「二日酔いなんだよ。うぇー」呑み助は、いまにも泣きそうな顔でいいました。 「じゃあ、もう酔っているから、のまなくてもいいんだね」 このあいだ会ったときは、呑み助は「恥ずかしいからのむんだ」と言っていましたから、二日も酔っているのなら、もうのまなくてもいいのだろうと思ったのです。 「ぼっちゃん、二日酔いってのはね、気持ちがいいんじゃなくて、とても気分が悪いもんなんだ。うぇー」 呑み助の顔は土の色のようで、ひどく具合が悪そうだったので、王子さまは心配になりました。 「ねえ、きみ、どこか悪いんじゃないの? 僕の知っているお医者さんに連れていってあげるよ。でなきゃきみ、すぐにでも死んじゃいそうだ。」 「だめだ、だめだ、病院に行ったらお酒がのめなくなるだろう。うぇー」呑み助は、おどろいたような顔で言いました。 「気分が悪いんだったら、のまなけりゃいいと思うんだけど」 王子さまには、こんなに具合が悪そうなのに、まだのむといっている呑み助の気持ちがわかりません。 「のめばまた気持ちよくなるんだ。うぇー。おっと、そろそろのむ時間だな。うぇー」そういって、呑み助は、新しいお酒のびんを開けました。 「でも、すぐに二日酔いになるんだろう?」 たった少しの間だけ気持ちがよくて、もしかしたら死んでしまうかもしれないのと、のむのをがまんしたら元気になれるのだったら、そのお酒がどんなにすてきなメロンジュースよりおいしくても、ぼくだったらのまないのだけどな、と王子さまは思いました。 「ぼっちゃん、この星にはまだお酒がたんとあるんだ。そしてお酒があるってことは、のまなくちゃいけないってことなんだよ。お酒はのまれるためにあるんだからね」 呑み助は、いままでのなかでいちばん真顔をしていいました。 王子さまは、そんなへんてこな理屈を聞くのは初めてだったので、自分のマントの話しをしてあげることにしました。 「ぼくはね、とても上等な、青色のマントを持っているよ。それはまちがいなくぼくに着てもらうためにあつらえられたんだ。でもね、ぼくの星のちっちゃなお日さまが昇って、気持ちのいい風がふいているときは、ぼくはそのマントを着ずに、クロゼットにしまっておくんだ。でもマントは、一度だってぼくに文句を言ったことはないよ」 呑み助は、こんどはほんとに今にも泣きそうな顔になりました。 「ぼっちゃん、それはあなたが子供だからできるんだ。大人は悪いとわかっていても、のまなくちゃいけないことは、のまなくちゃいけないんだ。 ぼっちゃんも大人になればわかるよ。」 呑み助はそういって一気にお酒をのむと、だまりこくってしまいました。 「ほんとうにたいせつなものは目に見えないってことを、おしえてあげようと思って立ち寄ったんだけど。でも、目に見えているお酒だけで満足している大人には、ほんとうに大切なものなんていらないんだろうな」 王子さまは、そんな大人になら、ならない方がましだと思いながら、呑み助の星をあとにしました。 |