地球流民 |
ニワトリたちはついに決起することになった。 毎日狭いアパートに押し込められ、毎日同じエサを同じ量だけ食べさせられ、寝る時間も起きる時間も決められて、これでは、はるか昔自由に空を飛び回っていたという、ニワトリ族の尊厳などあったものではない。 最初に提案したのは、ニワトリのブロイラー氏だった。窓に近いブロイラ−氏のケージからは外の牧場が見え、そこでのんびりと牧草を食べて暮らしている牛たちを見るにつけ、自分たちにも自由が欲しいと思い詰めていたのだ。 「親愛なるニワトリ諸君!われわれには生まれたときから自由に大きく育ち、いい卵を産む権利があるはずだ。われわれが自由に育つ権利を主人から勝ち取ろうではないか!そうしてニワトリによる民主的なニワトリ小屋を作るのだ!」かれは、ある朝演説をぶった。 ブロイラー氏の提案に真っ先に賛成したのは、朝から晩まで主人の悪口ばかり言いながら不機嫌そうに卵を産んでいるレグホン女史だった。彼女は主人が自分たちのことをいかに大切にしていなかと証拠を並べ立て、ヒステリックにわめき始めた。 そのとたん、ニワトリ小屋の中は、彼らに賛成する歓声と、主人に対しての不満の声で騒然となった。 騒ぎに驚いて主人がやってくると、ニワトリたちは一斉に叫んだ。 「ニワトリに自由に育つ権利を!ニワトリに自由に卵を産む自由を!そうでなければわれわれは絶食もいとわない。卵を産むことも止める」と…… 主人は先代から、ニワトリたちに平等にエサを与えることだけを教えられた男だったから、彼らの予期せぬシュプレヒコールにすっかり泡をくらい、その場で彼らをケージから解放することに同意した。 ニワトリたちは大喜びでケージの外に出た。ニワトリ小屋の中の好きな場所に陣取る者、外に出て草原の散歩を楽しむ者、それはニワトリたちの記念すべき独立記念日だったから、牧場の朝はいつにない騒々しさに包まれた。 突然、コケー!という悲鳴が外で上がった、コケー、コケー!次々と悲鳴が聞こえる。外からブロイラー氏があわてて飛び込んできた。「大変だ、猫のやつが襲ってきた。主人なんとかしてくれ!」 しかし主人は何も考えのない男だったから、こう答えるしかなかった。「君たちと猫のことなんだからねえ、君たちが猫と話し合ってくれよ」 その頃ニワトリ小屋の中でも一騒動持ち上がっていた。レグホン女史の声だ。「まあー、なんてことかしら、ここは最初から私が気に入っていた場所よ。あなたはどこか他の場所に行ってしまいなさいよ!」他の誰かと卵を産む場所の取り合いをしているらしい。 「ご主人、ご主人!この娘っ子になんとか言ってやって下さいな!」レグホン女史のヒステリックな声と、相手の若い娘ニワトリの声が入り乱れる。 でも、やっぱり主人は何も考えのない男だったからこう答えた。「君たちニワトリ同士のことだものねえ、ニワトリ同士で話し合ってくれよ」 小屋の反対側では、バタバタとひどく騒々しい音がする。主人が見に行くとエサのバケツに5羽のニワトリたちが一斉に首を突っ込んでしまい、抜けなくなっているのだった。 主人が苦労して彼らの首を抜いてあげると、彼らは一斉に訴えた。 「ご主人、いつものようにみんなにエサを配って下さいよ!」 これには主人もはっきりと答えることができた。「今までならね、端っこのケージにエサを流し込めば自動的に均等にエサが行き渡る仕組みになっていたけど、君たちがケージから出てしまったんだもの、もう僕には無理だよ。自分たちで自由に分け合っておくれ」 ……翌朝、主人がニワトリ小屋に行ってみると、ニワトリたちはみんな元のケージに戻って居心地よさそうに鳴いていた。 |