2007年6月中旬
12日 脱力するほどのあほらしさをこらえつつ再開
13日 ただコミュニティイベントのためだけに
14日 映画と漫画と愚者のおはなし
15日 乱歩文学館の幻影、ていうかインチキ、つか、ばか?
16日 本日は都合により
17日 『富士に立つ影』読みますた(「す」は誤記にあらず)
19日 漫才書いてまーす
 ■6月12日(火)
脱力するほどのあほらしさをこらえつつ再開 

 予定を一日オーバーして三日も更新を休んでみたのですが、雑務を片づけるだけに終始したような気がいたします。たとえば、三重県立図書館で大量にとってきた「新青年」復刻版のコピーを整理するとかなんとか、手近なところで停滞している雑務をこなすだけでいっぱいっぱい。まあいいけど。

 高島俊男さんの「お言葉ですが…」シリーズ八冊目、『百年のことば』が『同期の桜』と改題されて文春文庫に入りました。さっそく購読してみましたところ、「土佐日記なはのとまり」という章に名張のことが出てきました。なはり、なは、なば、なばり、といった地名の語源をたずねる内容で、委細は省いて結びだけ引用。

 奈半利でも名張でも那波でも、こんな千年以上も前からある地名が今も生きて使われているというのはずいぶんうれしい、また心強いことで、こういうのこそが日本人の根っこなのだから、たいせつにしてゆかねばならぬのである。

 高島さんのおっしゃるとおりだと思います。しかし、当の名張に住んでる人間が「日本人の根っこ」のひとつである名張という地名を大切にしているのかどうか。私にはとてもそんなふうには思えない。「千年以上も前からある地名が今も生きて使われている」というのがどういうことなのか、まずそれが理解できていない。そもそも地域の歴史を知ろうとせず、だからいいだけ無知であって、ゆえに歴史なるものに対する畏れをもちあわせない。自分たちが地域の歴史の最先端に立っているのだという自覚がない。そんな連中ばかりが寄り集まってまちなか再生がどうのこうのとうわっつらのことだけさえずっているのだから、私はもうほんとにいやになる。脱力してしまうほどあほらしくなる。

 ですから更新を休んでいるあいだに進めるつもりだった住民監査請求の準備もほとんど手つかずの状態なわけですけど、あほらしいことだとは思いつつ三重大学浦山研究室の報告書「歴史・交流拠点としての旧細川邸改修に向けて」に関する情報公開をもう少し進めましょう。

 「ワークショップ編」につづく「提案編」から引用。

1. はじめに
 本〈提案編〉は、名張市から2006年9月26日に受託した「歴史的建造物改修に係る基本設計業務ならびに当該建造物を活用した管理運営モデルの開発、運営効果の測定に関する研究及び実践」の成果として、旧細川邸改修の実施設計を進める際に必要となる条件を整理したものである。
(1)研究の概要
 ここでは、2003年度策定の「名張まちなか再生プラン」において歴史拠点および交流拠点として位置づけられた旧細川邸について、名張らしい街並みを継承し、また、交流拠点としての多様な市民利用が可能となるように、改修計画の提案とそれを実現するために必要となる以下の1〜5の事項について検討した。
 1 将来、旧細川邸の運営組織となる「NPO なばり実行委員会」の要望把握
 2 既存建築物を改築する上で必要となる調査および改修方法の提案
 3 旧初瀬街道および名張川からみた名張らしい景観を維持向上するための提案
 4 以上の計画案の実現を可能とするための法規チェック
 5 概算費用
 概算費用については、大学の研究室としての制約から参考値として求めたものであり、この事情に配慮して取り扱っていただきたい。
 なお、既存建築物に関する図面および耐震性能は、今西建築設計事務所の「平成17年度 木造住宅耐震診断報告書 細川邸耐震診断業務委託」を根拠資料とした。
(2)研究の進め方
 NPO なばり実行委員会のマネジメント委員会および名張市都市環境部市街地整備推進室とワークショップ形式で旧細川邸の活用計画および改修計画案を検討するとともに、限定特定行政庁準備担当室、営繕住宅室と打ち合わせをしながら改修計画案の検討を行った。
 なお、既存建築物の改修方法を提案するために、歴史的建築物の保存、改修のための調査設計に関する専門家である(有)伊藤平左エ門建築事務所から、既存建築物の現況調査および改修方法の検討に協力を得た。
第1回ワークショップ(8月2日)
・細川邸活用の将来シナリオ、開催予定のイベントを整理し、それらを踏まえたスペース利用について検討した。
第2回ワークショップ(8月22日)
・改修のために母屋の使い方、初瀬街道および名張川からの見え方を検討した。
第3回ワークショップ(9月11日)
・改修計画を提示し、修正箇所を検討した。
第4回ワークショップ(10月16日)
・母屋の改修方法と改修費を提示し、改修の順番や内容について検討した。
第5回ワークショップ(11月26日)
・改修計画案および実施設計を進めるために整理した条件について検討した。
(3)研究体制
NPO 名張実行委員会 マネジメント委員会
  代表  北村 嘉孝
      田畑 純也
      中森 久夫
      山口 伴尚
      奥村 和子
      宮城久美子
三重大学大学院工学研究科建築学専攻 浦山研究室
  教授    浦山 益郎
  助教    松浦健治郎
  大学院生  巌佐 朋広
  同     喜田由布子
  同     丸登 健史
(有)伊藤平左エ門建築事務所 名古屋事務所
  所長  望月 義伸
      野村 俊也
      佐藤 徳英
名張市都市環境部
  まちなか再生担当      荒木 雅夫
  市街地整備推進室      雪岡 太
  限定特定行政庁準備担当室  藤田 章義
  営繕住宅室         前川 肇

 何度もいうけど、2004年度に策定された名張まちなか再生プランには「細川邸を改修して歴史資料館とします」と書かれているわけです。それを「歴史拠点および交流拠点として位置づけられた旧細川邸」とするのであれば、そうなった経緯を明らかにしておかなければなりません。たとえば、

 ──名張地区既成市街地再生計画策定委員会によって歴史資料館にすることが決定されていたが名張まちなか再生委員会によって初瀬街道からくり館ないしは初瀬ものがたり交流館として位置づけられた旧細川邸

 とでも書いておけば、名張地区既成市街地再生計画策定委員会による決定の妥当性と名張まちなか再生委員会による変更の正当性はさておいて、とにかく話の流れの一貫性だけはなんとか保つことができたというのに、いきなり「歴史拠点および交流拠点として位置づけられた旧細川邸」なんていってしまってはだめであろう。これではほとんど公文書虚偽記載ではないか。

 それから「歴史拠点および交流拠点として位置づけられた旧細川邸について、名張らしい街並みを継承し、また、交流拠点としての多様な市民利用が可能となるように」なんてところも相当おかしい。名張まちなか再生プランには細川邸の整備によって「名張らしい街並みを継承」するなんてことはひとことも記されておりません。どうしていまごろになってまちなみの継承なんてことが出てきたのかというと、たぶん細川邸の整備をオーソライズすることが目的なんでしょう。裏を返せば細川邸をわざわざ整備しなければならぬ理由なんてどこにもないと、この報告書が言外に打ち明けていることになります。

2. 旧細川邸改修のねらい
(1)旧細川邸改修計画の位置づけと改修の基本的な考え方
 「名張まちなか再生プラン」において、旧細川邸は名張藤堂家邸に対峙するまちなかの歴史拠点および交流拠点として整備するとの位置づけがある。具体的には、旧細川邸が街並みを構成する重要な要素であると同時に、名張らしい街並みの再生に寄与するために、周囲の町家の更新時に参照される改修のモデルとなること、また、市民が名張地区に訪れる機会と場を提供し、名張地区の賑わいづくりに貢献することなどが期待されている。
 そのために、
 1 旧細川邸がもつ歴史的建築物としての価値を継承すること
 2 旧初瀬街道および名張川からみた景観の連続性を回復すること
 3 交流拠点として多様な市民利用を可能とすること
 を改修計画の基本とする。

 なんか書き写しててばからしくなりますけど、「歴史拠点および交流拠点として位置づけられた」とえらくごたいそうな言葉で表現されているのは具体的にどういうことなのか。それはどうやら結局のところ、歴史的建造物を利用してコミュニティイベントを開催することにいたしましたと、ただそれだけのことでしかないようです。歴史というのは建物のことであり、交流というのはイベントのことであると、ほんとにただそれだけのことであるようです。報告書のつづきを読めばそのあたりの事情が一目瞭然なのですが、私はなんかもうだれまくってしまいましたのでつづきはあしたということにいたします。

 しかしほんとに脱力してしまうなあ。


 ■6月13日(水)
ただコミュニティイベントのためだけに 

 きのうのつづき、三重大学浦山研究室から名張市に提出された報告書「歴史・交流拠点としての旧細川邸改修に向けて」の「提案編」からの引用です。

2. 旧細川邸改修のねらい
(2)仮称「初瀬ものがたり交流館」の利用イメージ
 NPO なばり実行委員会のマネジメント委員会などとワークショップを行い、歴史拠点および交流拠点となる旧細川邸(仮称『初瀬ものがたり交流館』)の使い方について検討した結果、提案にあたって以下の利用イメージを想定する。

 「歴史拠点および交流拠点として整備する」とされていた細川邸の活用策がいきなり「仮称『初瀬ものがたり交流館』」と具体化されていて、しかし経緯の説明はいっさいありません。たとえば、

 ── NPO なばり実行委員会のマネジメント委員会などとワークショップを行い、歴史拠点および交流拠点となる旧細川邸を仮称「初瀬ものがたり交流館」として整備する方針を確認、その使い方について検討した結果、提案にあたって以下の利用イメージを想定する。

 とでもしないことには話の筋が通らないように思われますが(実際にはこれでも筋なんか通っていないのですが)、しかしまあそんなことはどうだってよかったんでしょう。筋が通るとか通らぬとか、そんな悠長なこといってる場合ではなかったんでしょう。なりふりなんて構ってらんない。とにかく細川邸を整備することの妥当性正当性を必死になって主張しまくり、改修へ向けてしゃにむに道を開かなければならない。それがこの「提案編」のいわば使命のごときものであったらしく、だからもうはっきりいって無茶苦茶です。つづきをお読みください。

1)利用区分ごとにみた活用イメージ
1 イベント利用
 NPO なばり実行委員会が名張のまちなかを売り出すために、年に数回、まちなか全域を舞台にしたイベントを企画実施し、イベントの拠点会場として使用する。例えば、2006年11月に実施された隠街道市のように、展示や催事の会場などに利用する。駐車場および堤防道路では青空市が開催される。また、「初瀬ものがたり交流館」はイベントの事務局としても利用される。
 また、春のおひな様、夏の花火大会、秋の宇流伏祢神社の祭礼、冬の蛭子神社の祭礼などにタイアップしてミニ・イベントを企画実施する。街道から眺めることができるように展示(例、おひな様飾り)したり、催事の会場(例、地域の人が収集した懐かしの写真展)として利用する。駐車場などの屋外スペースは青空市のほか、オープンカフェなどにも利用する。
2 日常的利用
 イベント以外の日常的な利用として、第1に NPO なばり実行委員会が運営する事業(例、腕利きおばさんが運営する総菜バイキングのレストラン、腕利きの市民が参加するコミュニティレストラン、地域の人が収集した懐かしの写真展)の会場、第2に市民活動組織やボランティア組織の活動の場(例、ボランティアサークルが行う福祉のパンつくり講座、そばうち講座)、第3に冠婚葬祭などに利用したい市民への貸館が想定される。
3 まちなかの案内所、お休み処
 「初瀬ものがたり交流館」に語部や名張地区のことをよく知っている地域住民が待機する場を設け、市民や観光客のまち歩きをエスコートする。また、常設の喫茶コーナーを設けることによって、飲食可能なお店が少ない名張地区のお休み処として役割を発揮する。
4 NPO なばり実行委員会の事務局
 「初瀬ものがたり交流館」を NPO なばり実行委員会の事務局として利用する。

 こういったあたりが結論のようです。

 さんざん大騒ぎしたあげくの結論がこんな程度のもののようです。

 2004年6月に名張地区既成市街地再生計画策定委員会が結成され、2005年3月に名張まちなか再生プランが策定され、同年6月に名張まちなか再生委員会が組織され、となんとも仰々しいプロセスを踏みながらプランの目玉として鋭意検討が進められてきた細川邸の活用策は、官民だけでは足りずに学まで動員して二重三重の密室のなか人知れず詰めの作業が行われた結果、そこらのわけのわかんない NPO にコミュニティイベントやってもらうための施設として整備いたします、ということで落着を見たようです。

 名張まちなか再生プランには、細川邸の整備についてこう記されていました。

 名張のまちにひろがりとまとまりが感じられるように、北の名張藤堂家邸に対して南にもうひとつの歴史拠点を整備します。
 初瀬街道沿いの最もまとまりのある町並みの中にある細川邸を改修して歴史資料館とします。細川邸は円滑な賃貸契約が見込めるほか、平成16年11月の芭蕉生誕360年祭において旧家の風情を活かした魅力的な歴史資料館になりうること、適切な企画によって集客力が期待できることなどが確認できたので、歴史資料館にふさわしい建築物と考えます。
 老朽化した部分を除却し、町屋の風情を大切にして母屋と蔵を改修します。また、来街する市民の便に配慮して、駐車場、公衆トイレと喫茶コーナーを設置します。歴史資料館の主用途は資料の展示ですが、多様な市民ニーズに応えるために物販や飲食などを含む複合的な利用も可能なものとします。なお、歴史資料館の管理運営は民間が担う公設民営方式とします。
 市民に何ども足を運んでもらえる歴史資料館とするために、江戸時代の名張城下絵図や江戸川乱歩など名張地区に関係の深い資料を常設展示するほか、市民が関われる利用方法を工夫します。たとえば、芭蕉生誕360年祭のからくりコンテストのようなイベントで展示した作品、市民文化祭や市の美術展の出品作、個人や文化サークルなどが作成した作品(例:能面、絵画)を展示したり、小波田地区の「子供狂言」などを招致したり、名張地区以外の市民も参加できる方法が考えられます。また、庭に面した風格ある和室を冠婚葬祭や茶会など、市民も利用できる方法を検討します。市民が関わることのできる場と機会を提供することによって、主催者としてあるいは参加者としてさまざまな市民の来館が期待できます。
 管理運営を担う民間組織には、リピーターが確保できるような企画運営能力をもつことが期待されます。歴史資料館の立ち上がり期には、地元組織やまちづくり協議会が企画展示や施設管理に協力して、円滑な歴史資料館の管理運営に取り組みます。

 この構想から虚飾やインチキをきれいに洗い流してやるとどうなるか。それがすなわちこの報告書に記された細川邸の姿だということでしょう。歴史も資料も関係ありません。名張のまちの個性や独自性なんてものすら完全に無視されて、細川邸はいったいどのような施設として整備されるのかというと、

 ── NPO なばり実行委員会が名張のまちなかを売り出すために、年に数回、まちなか全域を舞台にしたイベントを企画実施し、イベントの拠点会場として使用する。

 ただこれだけのことです。年に数回そこらのわけのわかんない NPO が開催するコミュニティイベントのメイン会場。ただそれだけの施設をつくるために何千万円かをかけて古い町家を改修する。それが名張まちなか再生プランの裸の姿だということです。本気か。ていうか正気か。

 むろんイベントはそのほかにもあるらしく、名張のまちで営まれる春夏秋冬のおまつりなんかとタイアップして(それにしてもこらばか。「秋の宇流伏祢神社の祭礼」などと書くばかがあるか。名張のまちの氏神さまの正式な社名くらいちゃんと書いておけ。もう少し土地の歴史というものに対して誠実になれというのだ。謙虚になれというのだ。敬意を払い礼節を尽くせというのだこの駅弁大学が)、

 ──ミニ・イベントを企画実施する。

 とされております。しかミニかよ。しょぼいのかよ。気宇壮大な志ってのはどこにもないのかよ。そんなことで全国を対象にした情報発信とやらができるのかよ。できるわけねーだろばーか。でもってそうしたイベントがどんだけミニなのかっつーと、

 ──おひな様飾り

 ──地域の人が収集した懐かしの写真展

 ──青空市

 ──オープンカフェ

 なるほどミニである。見事なまでのご町内感覚である。たとえばお雛さまを飾ってくれるのだそうである。あっかりをつけまっしょぼんぼりにー、なのだそうである。なんなんだこのぼんやりが。それにしてもミニである。めいっぱいミニである。ミニであるという以上に単なる思いつきである。ちまちました思いつき並べときゃそれでいいや、どうせこんな報告書が市民の眼にふれることなんかないんだし、だいたいが関係者のアリバイ工作みたいな報告書なんだから適当に思いつき並べとけばそれでいいだろう、みたいな執筆者の知的怠惰が行間からにじみ出てくるような文章ではありますけど、こんな思いつきを何十何百何千と連ねてみたところで何の根拠にもなりゃしません。何千万円もかけて細川邸を整備する根拠になんか絶対にならんというのだ。ならんというのだが実際にはこんないい加減な根拠にもとづいて細川邸が整備されてしまうのである。なんともひどい話なのである。

 思いつきはまだあります。期間限定のイベントではなくて細川邸を日常的に利用する策も練られているみたいです。どんなものか。まずわけのわかんない NPO が運営するのは、

 ──腕利きおばさんが運営する総菜バイキングのレストラン

 ──腕利きの市民が参加するコミュニティレストラン

 ──地域の人が収集した懐かしの写真展

 おちょくっとるのか。人をおちょくっとるのか。腕利きおばさんだか引っ越しおばさんだか知らんけど(ちょっと古いです)、いくら市民の眼にふれぬアリバイ工作みたいな報告書でももう少し執筆の基本をわきまえてからキーボードを叩けというのだ。手前どもはただの思いつきに妄想をまぶして綿菓子みたいにふくらませているだけでございます、という執筆者の知的怠惰が「腕利きおばさん」なるフレーズに如実に示されておるではないか。あるいは上に引いた「1 イベント利用」の冒頭にある、

 ── NPO なばり実行委員会が名張のまちなかを売り出すために、

 という文章はどうだ。「売り出すために」などという文言はそれだけでこの報告書の貧しい内実をあっけなく露呈してしまうものである。関係者のいやしさやあさましさをゆくりなくも物語ってしまうものである。まったく品格のかけらもない報告書だよなあ。

 そのいっぽう、わけのわかんない市民団体が手がける事業もちゃんと想定されております。私物化じゃないもんね、という煙幕を張るためでしょう。たとえば、

 ──福祉のパンつくり講座

 ──そばうち講座

 なんてものをやってくれることになっておるそうじゃがこら、パンや蕎麦ならそこらの公民館でも借りて好きなだけつくってこい。

 まだまだいくらでもツッコミを入れることが可能なのですが、この程度にとどめておきましょう。以上のことから明らかに知られますのは、細川邸を整備する必要なんてまったくないということです。この報告書に示された方向しか選ぶ道がないというのであれば、細川邸の整備などまったく必要のないことである。さらに知られますのは、名張まちなか再生プランにおいては結局のところコミュニティイベントのレベルでしかまちなかの再生が語られていないということです。だとすればそれは名張まちなかの再生とはほとんど関係のない話だということになります。名張まちなかの再生というのはそこらのわけのわかんない NPO が細川邸を私物化してイベントだかなんだか好きなことをぶちかますということではまったくない。

 報告書のつづきを見てみましょう。

2)既存建築物の特徴と利用および改修のイメージ
 以上の活用イメージを棟毎に整理すると以下のようになる。
1 母屋
 母屋は切妻平入りの厨子2階建ての町家である。旧初瀬街道の正面中央から入る通り土間があり、その東側に1列3室、西側に1列3室(後方の1室は後補造作)をもつ。通り土間は3つに区画されており、旧初瀬街道寄りからミセニワ、ゲンカンニワ、トオリニワと呼ぶと、中庭につながるトオリニワにカマドとナガシが設置されている。2階には、正面に厨子が2室(天井高さ2.1m 未満)、奥寄りに納戸および屋根裏がある。
 旧初瀬街道に面した店の間と中の間を展示中心の使い方、奥の間はトオリニワの厨房でつくられたものの飲食を中心とした利用と想定する。正面西側の2室は NPO なばり実行委員会の事務室として利用する。同時に語部の待機所としても使用する。なお、2階は不特定多数の人は利用せず、収納を中心とした非居室として扱う。
 したがって改修計画案は、旧細川邸がもつ町家の空間特性を継承するため、間仕切り壁や耐震壁の追加をせず、現状の間取りを維持する。ただし、交流拠点としての使い勝手から既存の西側3室目にあるガラスの建具で区画された部屋を除却して、トオリニワを拡張し、カウンターで土間と区画された厨房コーナーを設ける。ただし、飲食業の営業許可が可能となるように設備を施すものとする。
2 中蔵
 中蔵は中庭を挟んで母屋に正対する切妻平入り2階建ての土蔵である。
 名張地区に来街した市民、細川邸に来館した人のお休み処として常設の喫茶コーナーとする。飲食業の営業許可が可能な設備を施すものとする。なお、厨房上部を残して、2階床を除去し、吹き抜け1層に改修する。
3 川蔵
 川蔵は敷地内の最も奥にあり、名張川に妻面をむける切妻妻入り2階建ての土蔵である。鰻の寝床型の敷地にたつ町家の奥深い空間構成、名張川から眺めたときの細川邸の存在感を維持するために重要な要素になっている。
 基礎、柱の歪みから、耐震改修には大規模な工事が必要と考えられる。公共施設として利用者の安全性を確保するためには、相当額の費用および改修に長時間を要すると考えられるので、軽微な改修に止め、不特定多数の利用者を入れない収蔵庫として使用する。
3)確認申請上の各棟の扱い
 本改修計画案は、町家を不特定多数の市民が利用する展示機能および飲食機能をもつ複数の棟からなる特殊建築物へ用途変更するものである。しかし、複数の棟からなる「初瀬ものがたり交流館」は以上のような用途不可分の利用が想定されているため、確認申請上は一体の建物として取り扱うものとする。

 もう歴史拠点でも交流拠点でもありません。飲食機能を有したイベント拠点であることがいよいよ鮮明になってきました。いやいっそビジネス拠点というべきでしょうか。なんかもう「飲食業の営業許可」なんてことで必死になってるもんね。

 はっきりいってこれはすでにして細川邸を私物化するための相談、まちなか再生というお題目のもと細川邸で飲食業を営むためのビジネスの相談だというしかないように愚考される次第ではあるのですが、しかしそんなことになったらほんとにきついぞ。名張市は細川邸を改修するための初期費用しか投資しないみたいだから、あとの運営は勝手にやれと丸投げされたらわけのわかんない NPO はほんとにきついことになるはずである。報告書には、

 ──飲食可能なお店が少ない名張地区

 なんてばかなことが書かれてますけど、飲食可能なお店ならかつてはごろごろしていたのである。経営が成り立たなくなったからばたばたと姿を消していっただけの話なのである。そんなところでいまから飲食業を営むのはさぞやきつかろうという話である。細川邸を私物化して飲食業を営んだってあまりうまみはないのではないかという話である。名張まちなか壟断作戦、いったいどんなことになってしまうのかな。

 ところで名張市の定例会は6月8日に開会し、きょう13日から一般質問が行われるみたいです。質問内容は名張市オフィシャルサイトのこのページでどうぞ。

 市議会議員の先生おふたかたが本日、ともに「名張まちなか再生事業について」をテーマとして質問に立たれるみたいですけど、この期におよんで何をお訊きになるのかな。地元 CATV 局にご加入の方は中継放送をどうぞ。私は加入してませんけど。


 ■6月14日(木)
映画と漫画と愚者のおはなし 

 本日はまず「番犬情報」をごらんください。犬が死んでしまったっていうのに番犬情報ってのもなんだかなあ、とか思いつつ乱歩原作映画のお知らせを掲載いたしました。

 映画のあとは漫画の話題。丸尾末広さん畢生の大作、になるのかどうかは知りませんけど「パノラマ島綺譚」の連載がスタートしました。舞台は「コミックビーム」7月号。表紙がこれです。

 連載第一回では菰田源三郎になりすました人見広介がお墓から出てきたところを在所の人たちに救出されるあたりまで、原作にかなり忠実なストーリーが丸尾さん独特の筆致で描かれております。乱歩へのリスペクトあふれる作品として完結するであろうとおおきに期待を抱かせてくれる滑り出しゆえ、乱歩ファンのみなさんはどうぞお見逃しなく。

 つづきましては乱歩へのリスペクトなどどこにも見あたらぬ愚者の土地、われらが名張市に対して三重大学浦山研究室から提出された報告書「歴史・交流拠点としての旧細川邸改修に向けて」の話題に戻りますが、報告書に関して述べるべきところは昨日までの伝言に尽きております。「提案編」におけるきのうのつづきは細川邸改修の具体的な細部への言及となり、図面を多用してさすが大学院工学部レベルの専門知識はすごいなと、感心しなければならぬところなのかもしれませんけどたーっと眺めるだけで終わってしまいました。あとに控える「市民評価編」も「事例編」も「資料編」も、ありていにいってしまえばアンケートやなんかで報告書を水増ししつつ細川邸整備の妥当性正当性や公設民営方式の実現性有効性を肯定的に示唆するためのものでしかないように見受けられますので、そんなものはあっさりスルーということにいたします。これまでの引用はすべて「名張まちなか再生プランの真実、ていうかインチキ」に掲載、あわせて2007年の記事も追記いたしましたので、お暇な方はごゆっくりどうぞ。

 それでコピー百三十七ページ分の報告書の最後がこれです。

 たぶん報告書の裏表紙だと思われるのですが、整備したあとの細川邸にどんな用途が想定されるかを裏表紙の意匠として列記してみましたということなんでしょうか。もっとも大きい文字で書かれたのが、

 ──名張地区の歴史文化に関する展示室

 というもので、しかしまだこんなことをゆうておるのか。こういうことは名張地区の歴史文化に関する展示物をきっちり洗い出し精査してからほざきなさい。便所がどうの飲食業の営業許可がこうのと枝葉末節のことばかり(関係者にとってはそれが最重要事なのでしょうけど)あーだこーだいってないで、施設整備のかんじんかなめのことはいったいどうするのかを早く考えやがれというのだ。考えることなんて関係者には不可能なのであろうけど、だからといって何から何まで他人まかせにしていては話はちっとも前に進まんぞ。

 次に大きな字で書かれたのが、

 ──地域でとれた生鮮野菜の青空市

 青空市なんてどこでだってできるではないか。細川邸を整備しなければ青空市が開催できないとでもいうのか。思いつきを並べるのもたいがいにしておけ。たいがいにしておけとゆうておるのに、

 ──江戸川乱歩に関する展示会やお話会

 なんてことまで書いてある。ばかかこら。江戸川乱歩に関して何かやっていただくのは結構なことなんですけど、それならば展示会ってのはいったい誰が企画するのよ。お話会ができるような人間がどこにいるっていうのよ。これもまた大切なことはまったく白紙のままなのであって、ただの思いつきを妄想でふくらませるようなことしかできてないってわけなのね。きのうも記したことですが、こんな思いつきを何十何百何千と連ねてみたところで何の根拠にもなりゃしません。何千万円もかけて細川邸を整備する根拠になんか絶対にならんというのだ。

 あッ。

 思いつきで思い出した。

 あの思いつきはどうしたばかども。

 ミステリー文庫をつくりますという思いつきはどうしたというのだうすらばかども。

 あッ。

 もしかしたらばかにはとても手に負えませんと水に流しやがったのかあのインチキ構想。

 ──名張地区の歴史文化に関する展示室

 なんてうわごとをしれっと書きつけるというのであれば、そのついでに、

 ──名張のまちに生まれた江戸川乱歩にちなんで内外のミステリー小説を集めた読書室

 なんてたわごとを並べることくらいいくらだってできそうなものだが、ミステリー文庫とやらはいったいどうしたというのだ官民学のうすらばかども。

 あッ。

 時間がなくなった。

 またあしただ愚者ども。


 ■6月15日(金)
乱歩文学館の幻影、ていうかインチキ、つか、ばか? 

 きのうの映画と漫画につづいて、きょうはお芝居関連の話題です。学研M文庫の6月の新刊、三島由紀夫の『黒蜥蜴』が出ました。画像をクリックすると版元の紹介ページが開きます。

 戯曲「黒蜥蜴」は申すにおよばず、乱歩編集の「宝石」に掲載された三島と乱歩、芥川比呂志、杉村春子らの座談会(講談社の『乱歩 下』に入ってるやつです)や、「小説セブン」に掲載されて以来これが初刊になるという三島と美輪明宏さんの対談など、関連文献もいろいろ収録されております。内容はあすあたり「RAMPO Up-To-Date」に記載することにして、本日はとりいそぎお知らせのみ。本体わずか八百五十円の文庫本、乱歩ファンならぜひどうぞ。

 次は人形の話題となります。産経新聞オフィシャルサイトに「文士人形に命吹き込む 石塚公昭さん写真集出版」が掲載されました。4月に出た写真集『Object glass 12』にからめた人物紹介で、「集大成となる写真集には、渋澤、荷風、寺山をはじめ、稲垣足穂、泉鏡花、村山槐多、谷崎潤一郎、中井英夫、江戸川乱歩、夢野久作、ジャン・コクトー、三島由紀夫が、それぞれの個性を彷彿とさせる背景の中でたたずんでいる。いずれも石塚さんが愛した作家たちだ」、「乱歩の背後には怪人二十面相がほほえむ」などとあります。

 それにしてもえらいものです。あらためてびっくりしてしまいます。歿後四十年以上が経過したというのに乱歩のこの遍在ぶりは驚異的だというしかありません。この圧倒的なポピュラリティはいったいどうしたことなのか。ほかに類例を見つけることなど不可能である。なんかもう怪物。乱歩こそは本邦近代文学史に屹立する孤独なモンスターなのであると申しあげておきましょう。

 そのモンスターを「ミクロの決死圏」ばりに(かなり古いです)矮小化して怪しまないのが名張市というところなわけでして、まことにどうも申しわけありません。たとえばきのうも記しましたそのとおり、名張市に対して三重大学浦山研究室から提出された報告書「歴史・交流拠点としての旧細川邸改修に向けて」には、

 ──江戸川乱歩に関する展示会やお話会

 なんてうわごとが記されている次第なのですが、いくらなんでもここまでのご町内感覚はないであろう。乱歩というモンスターのような素材を展示会やおはなし会などといったちまちましたご町内レベルに矮小化してしまえる感覚ってのはいったいどうよ。これではあまりにももったいない話ではないか。なにしろ細川邸のある名張市新町は乱歩が生まれたところなのである。そんなところは日本中さがしたってほかにはないわけなのである。だから細川邸を活用する道を探るにしても乱歩という素材をもう少し活用してもよさそうなものなのに、たとえばコミュニティイベントやるにしたって乱歩やミステリを素材にすれば全国から人が集まってきてくれそうな企画が可能だというのに、

 ──乱歩に関して外部の人間の話を聴く考えはない。

 などとつっぱらかったあげくにこらうすらばかども「やなせ宿」とはどういうことだ。からくりのまちたらいうのと同レベルの歴史事象の捏造ではないか。インチキである偽装であるばかであるまぬけであるといくら指摘したところでどうにもならんわけですが、乱歩というかけがえのない素材を抛擲して街道だの宿場だのとどこにでも転がってる素材でちまちまちまちまご町内だけでかたまってるのはほんとにもったいない話だぞ。まあばかだからおれのいってることが理解できないのはしかたないけど、そういう連中はもういつまでも狭い世間でお葬式に招いたり招かれたりして生きてゆくしかないのであろうな。なんなら塩でもまいてやろうか。

 そうかと思うと13日にはじまりました名張市議会の一般質問。先日もお知らせしたとおり質問内容はこんな感じで──

 質問初日に「名張まちなか再生事業について」と題して獅子吼されたらしい先生がおふたかた。質問の概要は初日夕刻、名張高校マスコミ論の授業で毎年お世話になっております地域情報紙「YOU」のオフィシャルサイトに──

ごみ問題 7月の住民説明会で理解を求める 名張・亀井市長が答弁
 名張市の家庭ごみの有料化や収集方法をステーション化するなどを盛り込んだ「ごみゼロ・リサイクル社会を目指すアクションプログラム」の素案に関して、6月13日に再会された名張市議会の一般質問で、亀井利克市長は議会終了後の7月に行う予定の住民説明会に出席し、分別収集の品目を現在の21から25に拡げ、再資源化をさらに推し進めていくため、自ら現物を持ち込んで市民に協力を訴え、理解を得たいとの考えを示しました。
伊賀タウン情報 YOU 2007/06/13/18:57:11

 こんな感じで報じられておりまして、名張まちなか再生事業については、

 ──この日の一般質問では、同市本町にある江戸川乱歩の生誕地「旧桝田医院第2病棟」の跡地利用や同市新町の旧家「細川邸」を改修整備し再利用する名張まちなか再生事業についてなども質問がありました。

 とあくまでも添えものの扱い。もとより現在ただいまの名張市民最大の関心事は「ごみゼロ・リサイクル社会を目指すアクションプログラム」であるはずで、げんに今議会の一般質問でも登壇九議員中五人の先生方がごみ問題をとりあげていらっしゃいます。それにくらべれば名張まちなか再生プランのことなんて一般市民は問題にもしてないであろうと思われる次第なのですが、一夜明けた日刊各紙の地方版には「乱歩文学館」という見出しが大きく躍っていたものもありました。

 扱いがもっとも大きかったのは読売新聞で、伊賀版トップにこの見出し。

 五段抜きでした。え? 名張市は乱歩文学館なんてつくろうとしてたの? と思ってしまった読者もあるかもしれません。

 産経新聞も地方版トップの扱いですが、これは伊賀版というよりは三重二版といったほうがいいのかな。四段抜きでこんな感じです。

 朝日新聞は一般質問の記事を三連発。医師不足とごみ有料化につづく三番目に乱歩文学館が登場して、見出しは一段とごく控えめ。中日新聞の伊賀版トップにはやはり一般質問がらみで医師不足の問題が扱われ、そのあとに三段見出しで桝田医院第二病棟の記事。主見出しは「生家復元計画を断念」。オフィシャルサイトにはこんな感じで掲載されました。

江戸川乱歩の生家復元計画を断念 名張市長が表明
 名張市の亀井利克市長は十三日、本町の旧桝田医院第二病棟跡地に地元出身の作家江戸川乱歩の生家を復元して「乱歩文学館(仮称)」を整備する計画を断念し、跡地は広場として記念碑を建立する程度にとどめる考えを示した。市議会一般質問で明らかにした。

 亀井市長は「二〇〇六年度のまちなか再生委員会総会で、生家復元をイメージした乱歩関連施設の整備に向け、施設計画や維持管理運営方針などを検討していくことになったが、その後、住環境面への配慮や維持管理費の在り方などから、市として施設整備計画を見直すことになった」と説明した。

 跡地は「広場として乱歩生誕地碑や生誕の証しが分かるモニュメント的な整備にとどめ、乱歩顕彰の場として整備する方向でまちなか再生委員会役員会などと引き続き協議を進めたい」との考えを示した。

 この伝言板を継続的に閲覧していただいている方ならすでによくよくご存じのとおり、こんな話はルールや手続きをいっさい無視して進められたものでしかありません。それもまた例によってうわっつらの話ばかりで、乱歩文学館というハコモノをつくって何をするのかということになるときれいに答えが出てこない情けなさである。こらばか。官民双方のうすらばかども。おまえら名張市に乱歩文学館なんてものをつくらなければならん理由をちゃんと述べられるのか。述べることなんかできぬであろう。このうわっつらばか。ハコモノばか。低能。とんま。すっとこどっこい。

 しかしこんなとこでうすらばか叱り飛ばしてたって何の意味もありません。ここはひとつ「名張まちなか再生プランの真実、ていうかインチキ」の姉妹篇として、

 「乱歩文学館の幻影、ていうかインチキ、つか、ばか?」

 みたいなページをつくって名張市のインチキをあらためて記録にとどめておくことにしようかな。住民監査請求の準備もしなければならんわけであるが。


 ■6月16日(土)
本日は都合により 

 本日も遍在する乱歩の話題から。論創社から出た『山下利三郎探偵小説選 I 』におきましては帯の惹句に乱歩の名を見ることができます。乱歩が怖れた男。なかなかキャッチーなコピーとなっております。

 えー、本日は都合によりこれにておしまいとなります。ではまたあした。


 ■6月17日(日)
『富士に立つ影』読みますた(「す」は誤記にあらず) 

 さすがに本日は遍在する乱歩の画像もネタ切れです。いつもの話題に入ります。

 おかげさまでようやく調子が出てきました。結構のってきました。先日来いわゆるペットロスに直面したりなんやかんやで精神的水位が必ずしも高くない状態がつづいていたのですが、こういうときはしかたがない、白井喬二の『富士に立つ影』でも読んでみるかと思い立って、あの大長篇をついに読み終えたのが三日ほど前のことでした。

 どうして『富士に立つ影』であったのか。それは私にもわかりません。思いついて書棚から取り出したというしかないのですが、長篇小説を読むことで精神を賦活しようと考えたのであれば、私はかなりブッキッシュな人間であるということになります。その長篇小説がいわゆる大衆小説であった点に、私は自身の退嬰を認めるべきなのかどうなのか。いやそんなことはどうだってよろしく、とにかく富士見書房時代小説文庫の七冊本『富士に立つ影』を読みはじめました。

 いま奥付を確認すると、この『富士に立つ影(一)』が出たのは昭和56年11月9日。西暦でいえば1981年ですから、いまから二十六年も前の本です。時代小説文庫が創刊されたのはたぶんそのころのことで、奥付に昭和56年7月20日発行とある中里介山の『大菩薩峠(一)』が、たぶんこの文庫の最初の配本ではなかったかと記憶します。

 私には時代小説を集中的に読んでいた時期があって(探偵小説を集中的に読んだ時期はないのですが)、そのころ文庫本で読めた作品は新潮文庫の柴田錬三郎や五味康祐、春陽文庫の山手樹一郎といったところか。現役作家では藤沢周平が孤軍奮闘していた印象で、池波正太郎は食いもののことをごちゃごちゃ書いてるみたいなのでそういう作家は読んでやらないことに決めていました(かなりあとになって鬼平犯科帳と剣客商売だけはすべて読むことになるのですが)。山田風太郎の作品はもちろん愛読していましたけれど、風太郎忍法帖が時代小説であるという認識は私にはなかったような気がします。

 なんだか記憶があやふやなのですが、とにかくそんなところに創刊されたのが時代小説文庫だったわけで、名のみ高くして読むことができなかった(むろん古書を入手すれば読めたのでしょうけど)『大菩薩峠』や『富士に立つ影』や『丹下左膳』などのいわば古典を、配本を待ちかねるようにして読み継いだものでした。

 ところが、谷崎潤一郎もどこかで褒めていた『大菩薩峠』は、最初のうちはめっぽう面白くて文字どおり配本を待ちかねる感じだったものの、途中で退屈をおぼえはじめました。展開がかったるくなって読むのが億劫になってくる。いま書棚を見てみたら、全二十冊だった『大菩薩峠』を私はわずか八冊しか所蔵していません。いまだ峠にいたらぬ八冊目で挫折し、読むのをやめてしまったことになります。いっぽう『富士に立つ影』はというと、全冊購入したもののそのうち読もうと考えたのか、あるいは『大菩薩峠』があれだもんな、と時代小説のクラシックに不信の念を抱いてしまったのか、とにかく書棚に並べておいただけでした。

 それを二十六年ぶりに開いてみたところ、これが予想を上回る(予想を裏切る、か)面白さでした。全七冊の七冊目にいたっては読み終えてしまうのが惜しいような気がして、まる一日ほど本に手を出さなかったことさえありました。それがどのような面白さであったのか、ここに書きはじめるといつまでたっても終わらなくなると思われますので、ともあれ『富士に立つ影』に賦活されでもしたかのように精神の水位が向上し、ようやく調子が出てきたことをお伝えして、住民監査請求の話題に移りたいと思います。

 住民監査請求の準備として私はただいま漫才を書き進めている次第なのですが、どうして漫才になってしまうのかは自分でもよくわかりません。これが私の流儀なのであるということでしょう。『富士に立つ影』の影響なのか、いいだけ長くなってしまいそうでいささか困惑している次第でもあります。とりあえず三ページ分を PDF ファイルにして掲載しておきましょう。

 これは名張まちなか再生プランの素案に対して提出したパブリックコメントの姉妹篇であるとお考えください。ご参考までに「僕のパブリックコメント」も PDF ファイルで再掲しておきましょう。

 ああ、いかんな。いま見てみると「僕のパブリックコメント」は小見出しありなのに「僕の住民監査請求」は小見出しなしで書き進めておる。統一したほうがいいかもしれん。要するに「僕の住民監査請求」は未定稿なのであるとお思いください。

 さ、きょうも元気に住民監査請求の準備を進めようっと。


 ■6月19日(火)
漫才書いてまーす 

 なんかもうサイトの更新そっちのけ、寸暇を惜しんでで漫才執筆に奮励しております。「江戸川乱歩年譜集成」のこととかいろいろ気にかかることはあるのですが、遠大なテーマは先送りして当面この件を最優先したいと思います。

 それでもっていくらでも長くなってしまう漫才の件、しかたありませんから二部構成といたしました。第一部「迷走篇」の PDF ファイルはこちらです。ほぼ決まりですけど一応未定稿。

 A4サイズ八ページのファイルとなっております。名張市民の方はお手数ながらプリントアウトしてお読みいただき、そのあと名張市役所ロビーですとか名張市総合福祉センターふれあいですとか名張産業振興センターアスピアですとか、あるいはジャスコ新名張店リバーナですとか近鉄百貨店桔梗が丘店ですとかパークシティ名張ですとか、人がたくさん集まる場所の人目につきやすいところにプリントアウト分八ページをうっかり置き忘れてきていただいても私はいっこうに気にしません。一部といわず二部三部、ステープラーでワンセットずつ綴じたものを(綴じていただく際には一ページ目の右端のほうにある二本の縦線が目安になるでしょう)まとめて置き忘れていただいても全然平気です。

 しかし何をばかなことやっておるのか。