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2009年1月20日(火)

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1月19日 CINEMA TOPICS ONLINE
映画『チェチェンへ アレクサンドラの旅』を映画監督の若松孝二が語る
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 きのう掲載したエントリ「minipara」と同内容の記事ですが、こちらも律儀に確信犯的全文転載。
 
映画『チェチェンへ アレクサンドラの旅』を映画監督の若松孝二が語る

(2009/01/19)

2009年1月17日(土)、『チェチェンへ アレクサンドラの旅』(アレクサンドル・ソクーロフ監督)を公開している渋谷・ユーロスペースにて、同映画の上映後、映画監督の若松孝二さんを招いてのトークショーが開催された。
若松孝二監督は、1936年生まれ。1963年ピンク映画『甘い罠』で監督デビュー、ベルリン映画祭で話題騒然となった『壁の中の秘事』(1965)以後、100本を超える作品を撮り続けている。
2007年『実録・連合赤軍−あさま山荘への道程』で東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門作品賞受賞。第58回ベルリン国際映画祭にて最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)、国際芸術映画評論連盟賞(CICAE賞)受賞。
現在、次回作『芋虫』(江戸川乱歩原作)の映画制作に力を注いでいる。目下スポンサー募集中!!

トークゲスト:若松孝二監督(◆)  司会:吉川正文
@渋谷・ユーロスペース

──若松さんは1936年生まれと言うことで、子どもの頃に戦争を経験していらっしゃいます。戦場では普通の人が殺しあったり、強盗、強姦、拷問したりしています。このことについてどのように思いますか?

◆僕は、終戦がちょうど、小学校3年生。仙台の大空襲のとき、少し離れていたところに住んでいて、焼夷弾が線香花火のように降ってきて、勢いよく燃えるのを遠くに見ました。そういう時代で、とにかく飯が食えない・・・毎日、じゃがいもとサツマイモしか食えない。家は百姓でしたが、米を作っても全部持ってかれてしまった。だから、戦争は絶対に嫌だと思っています。1972年にパレスチナに行き、今日の映画(『チェチェンへ』)と同じように、前線を歩いて取材したドキュメンタリーがあるのですが、どこも同じように若者が前線に行くわけです。前線から戦いに行き、帰ってこない人もいたし、血だらけになって帰ってきた人もいた・・・それはパレスチナのコマンド(ゲリラ隊員)ですけど・・・。1982年にはベイルート(レバノン)の、シャティーラというパレスチナ難民キャンプに(イスラエル軍による)大虐殺があって、その2日後に入ったのですが、そのキャンプというか、いわゆるひとつの村に死体の山。しかも女性と子どもだけ。何故かと訊くと、「子どもは大きくなると必ずコマンド(ゲリラ隊員)となって我々の敵になる、女性は子どもを産むから、みんな殺してしまう」と・・・。兵隊は皆若いので、殺す前に女性をレイプしたり、殺した後に火をつけたりする、など、必ずそういうことをしてしまう。そういうことを幼いときに、自分の目で見てしまったら、大きくなっても怨み辛みをずっと持ち続ける・・・パレスチナはよく自爆テロが多いといいますが、僕なんかはそういうのをある程度わかるような気がします。だから、戦争っていうのは、正義の戦争っていうのは絶対ないし、平和のための戦争もないし、戦争は殺すか殺されるしかない。

──イスラエルは2月に選挙を控えていて、支持率を上げるためにこの戦争をしている・・・事実、イスラエル国内ではこの戦争に対する支持率が9割を超えているということです。この映画の舞台、チェチェンでも、戦争のきっかけはエリツィンの支持率が低下していたことにあり、戦争を仕掛けたことで支持率が跳ね上がった・・・その戦争で殊勲をたてたプーチンが次の大統領になった・・・戦争が政治の道具になっているわけですよね?

◆権力を握ろうと思っている者たちに、一般の弱者が利用されている。映画でも描かれていたけれど、若い人たちが、戦争の前線に行き、装甲車に乗る。みんな若い。日本だって、かつての戦争で、学校を卒業するかしないかの若い人たちがたくさん徴兵されて行った。そういうことがあるから、政治的歴史というものをもっともっと認識してほしいと思う。3〜4日前に東大安田講堂事件をテーマにしたテレビ番組があったけれど、最後に原作者の佐々淳行(大学闘争を抑える警察側の現場指揮担当者)が出てきて、「今の若者は本当に怒らなくなった。当時の若者は怒ってああいうことを起こした。なぜ、今の若者は怒らないのか」などと言っていた・・・。おまえに言われたくないよって、取り締まっていたのはおまえじゃないかと思ったけどね(笑)。今の時代、闘争とかないし、予算取りにくいから、そんなことを言っているんじゃないかと思うよ。最近のデモは機動隊の方が多いし。

──少し、話が変わりますが、戦争に借り出されるのは若い人たち。それから、チェチェンゲリラもそうですし、連合赤軍も日本赤軍もそうですが、皆若い人がやっていたわけです。それについてはどうお考えですか?

◆若くなくっちゃできないんです。戦争というか、権力者が騙すことができるのが若者。結婚して子どもが何人かいたりすると戦争に行って死にたくないと思うだろうし、自分の家族を思ったらできない。だから、ほんとにそういう若い人たちを上手くおだてて戦争に行かせる。アメリカだってそう。お金のない人たちや、マイノリティの人たちに、市民権を与えるとか何とか言いながら、どんどん戦場に送り込む・・・で、自分たち金持ちは行かないという・・・それが戦争。だから正義のための戦争なんてないんだよ。

─最後に次回作、次々回作について少しお話ください。

◆次回作は、今、脚本第1稿があがって、今、第2稿目に入っています。江戸川乱歩の『芋虫』が原作。太平洋戦争の話。満州に行き、多くの中国人を殺すも、自分もやられて、芋虫のようになって、多くの勲章と新聞記事と共に帰ってくる男の話。“戦争はいろんな人に不幸を与える”っていうことを僕は言いたいし、撮りたい。その後に、もう1本、自分で考えて撮りたいと思っているのがあります。もう1本、もう1本とだんだん欲が出てきているから、きっと死ぬまでやってんでしょうね。
とりあえず、次回は満州、中国ロケありで、撮ろうと思ってます。

公開情報
□2009年12月20日(土)より、渋谷ユーロスペース他全国順次ロードショー
LINK
作品詳細『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

 
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