RAMPO Entry 2009
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2009年5月25日(月)

雑誌
大衆文化 創刊号
3月25日 立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター
A5判 115ページ 500円(税込)
張ホテルの乱歩/郊外への第一歩(昭和九年)
口絵 2ページ
「二十面相」世代の乱歩観 紀田順一郎
エッセイ pII−VI
乱歩と大東京 藤井淑禎
評論 p11−20
昭和十四年、「犯人」形成の新たな試み ──江戸川乱歩「暗黒星」論── 落合教幸
評論 p53−62
歌舞伎としての乱歩 ──小説『人間豹』から歌舞伎『江戸宵闇妖鉤爪』へ── 松本和也
評論 p83−93

 創刊準備号からちょうど一年、いよいよ創刊号が発行されました。発行から二か月遅れでご紹介申しあげます。
 
 
 乱歩を扱った作品は四篇。どうやってご紹介すべきかと思案して、冒頭の一段落ないしは二段落、四百字を目安に引用してみることにいたしました。
 
「二十面相」世代の乱歩観

紀田順一郎  

 江戸川乱歩が『二銭銅貨』をもってデビューしたのは一九二三年(大正一二)であるから、すでに八十五年を閲する。この前後の大衆作家は、中里介山、吉川英治、白井喬二、大佛次郎らごく少数を除けば、今日広く読まれているとはいえないが、乱歩人気は比較的安定している。
 ただし、乱歩作品の受け止め方は時代とともに目まぐるしく変転をとげ、いまや戦前とはまったく異なるものとなっている。それはそれでよい。作家の評価が後世の価値観に負うのは当然だからであるが、反面同時代の作者の思想や社会背景、読者の感性などを無視してよいことにはなるまい。当代の作者が何を思い、読者が何を求めて作品に接したかという、現代の評者が等身大になる努力を回避しては、文学史は成り立たないはずである。

 
乱歩と大東京

藤井淑禎  

 乱歩が関東大震災後の復興著しい東京を活写していたことについては、「大衆読者と『通俗長編』─〈あこがれ〉の関数としての通俗娯楽性」(『国文学解釈と鑑賞別冊・江戸川乱歩と大衆の20世紀』平成十六年)、「乱歩と京浜国道─大東京の時代と乱歩」(村田碧と共筆、『立教大学日本文学』九四、平成十七年)などで、すでに述べたことがある。
 帝都の二大幹線道路とも言うべき昭和通りと大正通りとを作中にいち早く取り入れ、さらには当時「繁華を誇る日本一の京浜国道」(白石実三『武蔵野から大東京へ』昭和八年)とうたわれた京浜国道を舞台とするカーチェイス・シーンの創出など、乱歩の取り組みはきわめて意欲的だ。そればかりでなく、大衆読者のモダンへの憧れに応えた住居や調度品、衣服、暮らしぶり(「〈家族〉の出現─乱歩と明智の時代」『江戸川乱歩と大衆の二十世紀に関する総合的研究』報告書、平成十九年、をも参照)の精細な描写など、乱歩のサービス精神は徹底している。

 
  昭和十四年、「犯人」形成の新たな試み
   ──江戸川乱歩「暗黒星」論──

落合教幸  

 江戸川乱歩の長編小説作品は、大正十五年の「闇に蠢く」から始まるが、特に「蜘蛛男」(昭和四年)以降の、講談社の雑誌に連載するものを中心とした小説は「通俗長編」とされる。これらは一般読者に歓迎されつつも、一方で乱歩自身の評価は低く、自己嫌悪の対象にもなった。探偵小説の理想とはかけ離れたこれらの作品だが、書き継がれていく中で、しばしば乱歩の探偵小説観があらわれるような箇所も存在する。昭和十年前後には、日本に海外の長編探偵小説が数多く紹介されていき、乱歩もその影響を受ける。そのような時期を経て、乱歩の長編小説はどのような変化を見せるのか。戦前の最後の時期に発表された長編を見ることで、乱歩の変化を確認できるのではないか。

 
歌舞伎としての乱歩
   ──小説『人間豹』から歌舞伎『江戸宵闇妖鉤爪』へ──

松本和也  

 1

 二〇〇八年十一月、国立劇場の歌舞伎公演では『江戸宵闇妖鉤爪─明智小五郎と人間豹─』が上演された。はやくから“乱歩が歌舞伎になる”というキャッチ・コピーで宣伝されていたとおり、江戸川乱歩の長編小説『人間豹』を歌舞伎化した新作である。二幕十一場から構成される同作は、岩豪友樹子の脚色、九代目琴松(幸四郎)演出により、恩田乱学と神谷芳之助の二役に市川染五郎が、明智小五郎には松本幸四郎が配された。

 
 うーん、「歌舞伎としての乱歩」がちょっと短いか、と思われますので、なかで紹介されている渡辺保さんの「江戸宵闇妖鉤爪」評へのリンクを掲げておきます。

 渡辺保「歌舞伎劇評」:惜しい新作 2008年11月 国立劇場

 ついでですから創刊号の全容もごらんいただくことにいたしましょう。


雑誌
大衆文化 創刊号
3月25日 立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター
A5判 115ページ 500円(税込)
張ホテルの乱歩/郊外への第一歩(昭和九年)
「二十面相」世代の乱歩観
 紀田順一郎
酸素カフェテリアと死者の町 ──大衆情報消費社会における酸素マスク表象── 原克
乱歩と大東京 藤井淑禎
「九州演劇」とその時代 石川巧
日本におけるルバーシカ着用の起源をめぐって 小林実
昭和十四年、「犯人」形成の新たな試み ──江戸川乱歩「暗黒星」論── 落合教幸
韓国における論介と春香の受容 岩谷めぐみ
天満天神繁昌亭の成立と展開 恩田雅和
歌舞伎としての乱歩 ──小説『人間豹』から歌舞伎『江戸宵闇妖鉤爪』へ── 松本和也
韓国における日本大衆文化の受容について 金惠珍
投稿規定
編集後記
 石川巧

 立教大学:旧江戸川乱歩邸
 ジュンク堂書店:大衆文化 創刊号 2009. 4
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