春の夜叉壁 '81.4
 一時期、単独で、誰も振り向かないような山へ入った時期がある。この山行はこの時期を代表するようなもの。こんな薮山に3回もトライするなんて、我ながら奇特な人だとも思うが、もともとこんな泥臭い山の行き方が、性に合っている。
 それが証拠に、人一倍の朝寝坊が夜中の2時に自宅出発したりしている。じつに感心なことだ。自分で自分を誉めてやりたい(^^;

 三度目の入山で登った。
(一回目だけはパーティーを組んだが、アプローチの偵察が主目的だった)
3/29 M会の仲間と入る。滋賀県側、奥菅並から先の車道が雪崩と落石で寸断され、昼頃ようやく尾羽梨林道起点へ達したが、雨と疲労のため撤退。

4/12 二度目。前回の失敗にこりて、軽量化とスキー利用で日帰りラッシュを試みる。車は田戸の先、3キロ地点まで入れ、6時発。鷲見、尾羽梨と快調に進んだが、尾羽梨林道8キロは林道歩きと言っても雪面のトラバースが連続し、予想外の時間を食う。林道終点から小尾根を登って三国ガ岳頂上に13時。登攀する時間がなくなり、スキーで林道へ引き返す。登攀道具をここへデポ。出発点帰着、17時。

右又出合

4/28日(晴)
 前2回の結果から、スキーが行程短縮に効果ないことがわかったので持参しない。車は尾羽梨の先約1キロ地点まで入る。一ヶ月前と雲泥の差。13時10分発。林道も前回に比べ、行程の半分は土の上を歩けた。実動約2.5時間で林道終点着、16時。デポを回収し、ツエルトビバーク。

右又出合

4/29(晴のち曇り)
 5時15分発。三国ガ岳・上谷山間のコルへ入る小沢を詰め、三国ガ岳通過、6時35分。1206m峰着、7時20分。北面を池ノ又へ下ると対岸に夜叉壁の全容が見える。東南の風が強く、三周ガ岳の方はガスが出始める。夜叉壁中央の最も長い稜を登ることに決め、池ノ又谷心から、取付点着、7時40分。取付点は中央のルンゼの左20m地点。登攀開始8時。
 岩は思ったより堅く、ホールドも豊富。草付き混じりを約50m登ると、右手に中央ルンゼ側を見下ろす稜上へ出る。傾斜の落ちたブッシュ混じりのリッジを快適に登る。60mで、下から顕著に見える岩峰下の雪のコル。ここからリッジ伝いはオーバーハングで進めず、右手にあるガリーをルートにする。

林道から三峰頂上

 ホールドの細かいクラックを7m右斜上すると、ガリーに入る。このガリーは中央ルンゼまで続くスラブ状壁上部位置し、高度感もありやや緊張。30mのガリーは下部10mが急であるが、ブッシュに助けられて切り抜け、岩峰に立つ。
 傾斜は再び落ち、5mの小岩峰を越え、丈の低いブッシュのリッジを50mこげば雪稜となる。雪稜を100mで稜線上の終了点着、9時10分。鹿島の荒沢北稜を半分位にしたようなルートという印象だった。
 ここからは国境稜線を忠実にたどり、夜叉ガ池、夜叉岳、1206m峰を経て三国ガ岳10時20分。登りと同じルートを下り、BP10時50分。ウドやフキノトウを摘みながら出発点帰着13時50分。

 車に乗ってしばらくすると、雨がポツポツ降り始めた。

林道から三峰頂上

上:池ノ又の対岸尾根から夜叉壁

中:取付き付近から。緑の線がルート

下左:岩峰下のコル(撮影は別の年の秋)

下右:帰路、夜叉岳から三国ガ岳方面