光子の日々是好日 金つなぎ

1月12日(金)。  曇り、小雪舞う。

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べーじゅのなかのしょうだいしょう
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あかぼかしのまるしかく
いろとかたちが素晴らしい元永さんの作品たち

名張の病友、晃子さん(乳がんほか)と西川くん(脳腫瘍)を誘って、晃子さんの車で元永定正(もとなが・さだまさ)展を見に行く。

元永さんは、お隣の上野市のご出身。国際的に評価の高い現代ア-トの大家である。
兵庫県宝塚市在住の78歳。“いろとかたち"を自在に駆使なされた元永さんの絵には、溢れる色彩と素直な型の後ろに、命のぬくもりと生き抜く力が込められている。限りない生への肯定と生命の躍動感が満ちている。

会場のギャラリ-堤側庵は、名張の組紐作家・中内中(なかうち・ひとし)さんの自宅の蔵を利用した、温かいぬくもりと鋭い感性の交錯する“和み空間"だ。
ホ-ル中央に置かれた木製の“卓兼椅子"に腰掛け、天井を縦横にわたる太い梁を見上げていると、大きく力強い何かに抱かれるような安心感があって、今日の大家の個展にいかにも似つかわしい。

再発による抗がん治療で一時退院中の晃子さん、同じく再発で入院を控えた西川くんと、元永さんの絵に隠されている優しさ、楽しさ、力強さ、喜び、あこがれ、希望といった ものについて、こもごも話す。
お二人の目が輝いて、命のほむらが燃えてくる。うれしい、うれしい。

窓の外には、小雪舞う。

10年前、現役の新聞記者だった私は、初めての著書「風のように炎のように〜時代を創ったMr.たち」(船場経済倶楽部刊)を上梓した。谷井昭雄松下電器社長(現相談役)や樋口 廣太郎アサヒビ-ル社長(現名誉会長)、宇野収関西経済連合会会長(元、故人)のリーダーシップと人となり、心のありようなどをインタビュ-し、ご自宅を尋ね夫人にお会いし、 まとめ上げた一冊で、新人のくせに1万部出版という冒険を敢えてしたのだった。

その後、大阪のホテル・プラザで出版記念パ-ティ-を開くこととなり、各界人士100人の皆様に発起人をお願いしたのだが、そのおり元永さんは、郷里の若輩のために快くご尊名を貸してくださった。

image「風のように炎のように 時代を創ったMr.たち」
著:広野光子

広野光子さんの文章には、きびきびしたリズムがある。このリズムが一人の人物に注がれる時、読む側はその人物と一対一で話し合っている心地よさを覚える。
そして、会話体の科白の配合、大阪弁のニュアンスが明るい柔らかなものを伝えてくれる。
ただ、相手の風貌を文章で形容する時、広野さんは大袈裟に形容する癖がある。が、そこがまた広野さんの誠実さの一端かもしれないと思うと、微笑が湧いてくる。(作家 藤本義一)


あのとき、きちんとお礼を申し上げたかしら。

このたびの展覧会に、懐かしい踊るような文字で認(したた)められたご案内状をいただいたとき、直感的にその反省が心をよぎった。
人生は、どこかで誰かに借りたものを、いつか誰かに返しつつ行く旅、と承知してはいるが、未だ未熟にして借りることばかり多い我が旅である。

「元永先生、ありがとうございます。あのとき頂戴した喜びを、今病友がたに少しばかりお返しして、御礼に代えさせていただいております」。

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