RAMPO Entry 2009
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2009年2月24日(火)

書籍
ベストセラー作家 その運命を決めた一冊 塩澤実信
2月10日初版 北辰堂出版
B6判 カバー 315ページ 本体1900円
著:塩澤実信
第八章 江戸川乱歩と「怪人二十面相」
評論 p213−245
江戸川乱歩伝説一人歩きする虚人猟奇的人間像伝説の根拠とは面白くて利益になる「二十面相」誕生少年探偵小林の登場小林少年 束の間の勝利七つ道具に助けられる明智対怪盗の戦い超シリーズに実る

 書名どおり、ベストセラー作家の出世作というか決定打というか要するに売れっ子花形ドル箱の道に導いた作品を紹介する一冊。著者の塩澤実信(しおざわ・みのぶ)さんは昭和5年、長野県生まれ、双葉社取締役編集局長を経て東京大学新聞研究所講師などを歴任、と奥付にあります。俎上に載せられたのは十人の作家。うち七人が物故者ですが、山田風太郎「くノ一忍法帖」と梶原一騎「巨人の星」に挟まって乱歩の「怪人二十面相」がとりあげられています。乱歩が少年ものに新天地を求めていったゆくたては「少年倶楽部」の編集長だった須藤憲三が1969年、講談社版乱歩全集の月報に発表した「乱歩先生の『少年もの』」に全面的に依拠して綴られているのですが、「『二十面相』誕生」からそのあたりを引用。
 
第八章 江戸川乱歩と「怪人二十面相」

塩澤実信  

 江戸川乱歩が「少年倶楽部」に『怪人二十面相』を連載したのは、昭和十一(一九三六)年一月号から十二月号にかけてであった。
 当時、同誌は一月号を七十五万部も発行する絶頂期にあった。オーナーの説く「面白くて利益(ため)になる」編集方針に則って、営々努力の成果であった。
 編集長は須藤憲三だったが、昭和十年の夏頃、東京会館で開かれた野間清治を囲む有力寄稿家の支談会の席上で、
 「先生、ぜひ、少年倶楽部に連載をお願いできませんか」
 と、初対面でいきなり依頼したのだった。
 「えっ、ぼくに少年ものを書けというんですか?」
 乱歩はびっくりして、須藤の顔をまじまじと見つめ、
 「少年倶楽部といえば、“教育的”であることが看板の雑誌でしょう。そんなものがぼくに書けるかな……」
 と、困惑した顔になった。
 須藤は、江戸川乱歩の探偵小説を分析して成算ありと読んでいたので、いずれ日を改めてお願いに上る旨を言って、ひとまず引き下った。

 
 文中に「支談会」とあるのは「交談会」の誤記。以下もちろんまだまだつづくのですが、このあとの記述にちょっとした事実誤認が出てきますのでここまでとしておきます。この事実誤認は須藤憲三「乱歩先生の『少年もの』」からそのまま引き継がれたもので、そのあたりのことは本日の人外境主人残日録に引き継ぐことにいたします。
 
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