【せ】
一、面の事。翁は日光打。弥勒、打ち手なり。この座の翁は弥勒打ちなり。伊賀小波多にて、座を建て初められし時、伊賀にて尋ね出だし奉つし面なり。 |
- 底本 新潮日本古典集成『世阿弥芸術論集』昭和51年(1976)9月、新潮社、校注=田中裕/p.244
- 採録 1999年10月21日
●略解
世子ぜし六十以後申楽談儀は「申楽談儀」と通称され、世子(世阿弥の敬称)晩年の芸談を次男の元能もとよしが聞き書きして編纂、おそらく世阿弥自身に贈ったものとされる。永享二年(1430)は奥書の日付。
全三十一か条のうち、「面の事」は面と面打ち(面の作者)について記した条。日光、弥勒はともに伝説的な面打ちだが、この座(観世座)の翁面は弥勒の打ったものであり、世阿弥の父、観阿弥が伊賀小波多で初めて一座を建てたとき、伊賀で求めた面であると説く。
底本頭注は、「伊賀小波多」を「三重県名張市小波田。「伊賀小波多にて」は、「座を建て初められし」にかかるのでなく、「伊賀にて」と重複はするが、「尋ね出だし」にかかるとする説もあって注目される」とする。
●参照 近現代篇【お】表章「能楽の歴史」【か】金井清光「能の研究」【と】戸井田道三「観阿弥と世阿弥」【の】能勢朝次「能楽源流考」【よ】吉川英治「私本太平記」