2006年11月中旬
11日 おーい、名張市役所のみなさんやー The Black Lizard and ……
12日 ほんとにあんたらどうする気 The Wider World (2): Japan
13日 行政の主体性ってやつはどうよ 論理的謎解き日本に移植
14日 ミステリー文庫はまぼろしだったのね 〈探偵小説〉から〈推理小説〉へ
15日 十年がかりで完結しました 推理小説との長い別れ
16日 山梨知事選が来年1月に迫りました 虚栄の市
17日 山梨の横溝正史館は来年3月開館です 横溝正史の直筆や愛用品など展示
18日 疑問と憤懣をキープする モーパン嬢(上)
19日 夕張ならびに名張のニュース 第四章解説
20日 夕張から青梅へ、そして 第16回青梅宿アートフェスティバル2006
 ■11月11日(土)
おーい、名張市役所のみなさんやー□ 

 とうとう土曜日になってしもうた。しかも雨じゃ。雨の土曜くらいはおとなしくしておいてやるか。お役所も休みじゃしな。

 とか考えてきょうは比較的おとなしくしていることにいたしますが、それにしても名張市役所のみなさんはいったい何をお考えなのか。ご町内感覚となあなあ体質にもとづいてうわっつらだけを飾ってみたってどうしようもない、ということにはさすがにお気づきであろうと思うのですが、それともまだなのであるかしら。

 お気づきいただくために例示しながらご説明申しあげるならば、身近な例がこれでしょう。

 名張市観光協会オフィシャルサイトに掲載された乱歩のページです。このページの動きを追ってみるならば──

 コピー&ペーストだけで乱歩のページがつくられた。

 うわっつらを飾るために英文が添えられた。

 それはネット上の翻訳サービスによる変な英文だった。

 それが2ちゃんねるミステリー板の乱歩スレで指摘された。

 私がそれを話題にするとすぐに英文が削除された。

 しかし削除は完全ではなく英文はまだ残っている。

 明治27年を1895年とする幼稚なミスも見られる。

 私はそれを指摘した。

 名張市観光協会はミスを放置している。←いまここ。

 これとおなじプロセスをえらく手間ひまかけてたどったのが名張まちなか再生プランです。プランに盛り込まれていた歴史資料館構想がまずインチキでした。名張市観光協会がネット上の情報だけをコピー&ペーストして乱歩のページをつくったのと同様に、歴史資料館などというどこにでも転がってる発想をそのままコピー&ペーストしたのがあのプランでした。うわっつらのことのみを考えただけで、展示すべき歴史資料の確認すら行われることがなかったのですが、歴史資料館構想はプランとして正式に決定されてしまいました。ところが名張まちなか再生委員会によって歴史資料館は初瀬ものがたり交流館に変更されてしまい、来年3月末までにその改修工事が終了することになっています。←いまここ。

 私はプランの不備を当初から指摘してきました。好んでかかわりをもったわけではないけれど、「江戸時代の名張城下絵図や江戸川乱歩など名張地区に関係の深い資料を常設展示する」とプランに書かれている以上、つまり乱歩の名前が出てきた以上、名張市民から乱歩のことで月々八万円のお手当をいただいている身としては無縁ではいられません。だから私はプランに対するパブリックコメントを提出し、名張まちなか再生委員会が発足したときにはこちらから事務局に足を運んで協力を申し出もしました。しかし彼らはいっさい耳をかしませんでした。私の指摘を黙殺してミスをミスのまま放置している名張市観光協会同様に、彼らはまったく知らん顔して今日にいたっています。←いまここ。

 いやいや、こんなことしつこくくり返していてもしかたないか。しかしくり返しているのは向こうだって同様なのであって、歴史資料館ないしは初瀬ものがたり交流館とおなじ失態をまたくり返そうとしているように見受けられます。それがミステリー文庫とやらいう構想なのですが、私にはこれもまた歴史資料館構想とおなじく中味のことなど何も考えていないうわっつらだけの構想なのではないかと懸念される次第です。しかもなんだか泥縄ですし。こうなるともう完全に構造的な問題でしょう。名張市にはうわっつらだけを飾っていればそれでいいとする構造が存在しているもののようです。歴史資料館にせよ初瀬ものがたり交流館にせよ、あるいは名張市観光協会のオフィシャルサイトもまた、そうした構造の投影というか具現というか実体化というか、それぞれのあらわれなのであると判断されます。行政の構造そのものに根ざした問題であるというわけさ。

 しかしなあ、ご町内感覚となあなあ体質にもとづいてうわっつらだけを飾ってみたってどうしようもないぞ実際。そのへんのことがまだよくおわかりではないのかしら。とにかくミステリー文庫なるものについてお聞かせいただきたいことがあるのですけれど、どうして誰も応えてはくれないのかな。おーい、こんなことやってるとほんとに取り返しのつかないことになりますよー。おーい、名張市役所のみなさんやー。←いまここ。

  本日のアップデート

 ▼2006年

 The Black Lizard and Beast in the Shadows

 福岡市にある黒田藩プレスから出版された乱歩作品の英訳本です。「黒蜥蜴」と「陰獣」を収録。

 巻頭に収められたイントロダクションから引いておきましょう。

Introduction
Mark Schreiber
 In March, 1984, a team of criminals abducted Ezaki Katsuhisa, president of confectioner Ezaki-Glico, from his home in the Osaka suburb of Nishinomiya. After Ezaki escaped his captors unharmed, the gang embarked on a string of audacious blackmail attempts against food manufacturers in the Kansai region.

 In a stream of sarcastic letters to local newspaper bureaus, the criminals taunted the police. Their typewritten notes were signed Kaijin Nijuichi Menso (The Mystery Man of Twenty-one Faces) − an unmistakable allusion to Edogawa Rampo's fictitious criminal mastermind, Kaijin Niju Menso (The Mystery Man of Twenty Faces), nemesis of detective Akechi Kogoro, whose exploits first appeared in an eponymous 1936 magazine serial.

 黒田藩プレスのオフィシャルサイトには全文が掲載されておりますので、お読みになりたい方はこのページでどうぞ。

 ちなみに上に引用しました英文、名張市観光協会御用達の Yahoo! 翻訳で訳してみるとこんな感じになります。

導入
マークシュライバー
 1984年3月に、一連の犯人は、西宮の大阪郊外の彼の家から、エザキカツヒサ(菓子屋江崎グリコの社長)を誘拐しました。エザキが無傷で彼の捕獲者を逃れたあと、ギャングは関西地域で食物メーカーを攻撃する大胆な恐喝企ての列に着手しました。

 地方紙局への皮肉な手紙の流れでは、犯人は警察をなじりました。彼らのタイプされた証明書は江戸川Rampoへの紛れもないほのめかしが持つ署名されたカイジンNijuichi Menso(TwentyあるFacesのMystery Man)−でした架空の犯罪の立案者、カイジンニジュウMenso(Twenty FacesのMystery Man)、刑事明智コウゴロウの天罰、功績は最初に名祖の1936の雑誌連載物で見かけました。


 ■11月12日(日)
ほんとにあんたらどうする気□ 

 さて問題はミステリー文庫とやらです。これはいったい何であるのか。名張まちなか再生プランの一環なのかそうではないのか。運営主体はどこになるのか。桝田医院第二病棟の地に建設されるのかそうではないのか。私にはさっぱりわかりません。これまでの動きを追ってみるならば──

 2004年6月
 名張地区既成市街地再生計画策定委員会が発足した。

 2004年11月
 桝田医院第二病棟が名張市に寄贈された。

 2005年3月
 名張まちなか再生プランが決定されたが、桝田医院第二病棟の活用についてはいっさい言及がなかった。

 2005年6月
 名張まちなか再生委員会が発足した。

 2006年7月
 2006年度に「(仮称)乱歩文学館基本計画策定」を行うと「広報なばり」に発表された。

 2006年11月
 なぜかミステリー文庫の話が出ている。←いまここ。

 さあ名張市役所のみなさんや、いよいよ進退これ谷まってきましたか。にっちもさっちもどうにもブルドッグ、ってやつですか。しかしフォーリーブスとは私も古い。そんなことはどうだっていいのだけれど、2006年度の実施事業である「(仮称)初瀬ものがたり交流館改修工事」と「(仮称)乱歩文学館基本計画策定」がどうにも進捗していないように見受けられるのは(それどころか乱歩文学館はミステリー文庫に差し替えられたのでしょうか。このアナーキーなまでに無節操な名張市におきましては、そんなのは普通によくあることのようなのですが)、これはもう自業自得というしかない事態でしょう。

 そしてこれは必然の事態でもある。すなわち名張まちなか再生プランに内在していた問題が顕在化しているだけの話です。こうなることははなっから火を見るよりも明らかであった。だいたいがあんなインチキプラン、一読するだけで問題点はまるわかりではないか。それくらいすぐに気づけよ。かりにみなさんがお気づきにならなかったのだとしても、しかしみなさんはその問題点をちゃんとご存じであった。プランが正式に決定されるまでに私がパブリックコメントによって問題点二点を指摘していたのですから、知らなかったとはいわせません。私のコメントを読んだ時点で問題に正対してさえいれば、この期に及んでこんなことにはなっておらなんだのじゃ。あんたらのその場しのぎと先送りがこんな結果を招いてしもうたのじゃ。だから自業自得じゃというのじゃよ。

 いまごろ吠え面かいたって手遅れである。

 しかも名張市役所のみなさんや、もう名張まちなか再生委員会がどうのこうのといってる場合ではありません。名張市という自治体そのものの問題です。ていうかみなさんの頭のなかでは、いまや名張まちなかの再生という課題はどっかへ飛んでいってしまっているのではないでしょうか。みなさんのおつむには体面とか面子とか沽券とか、そんな言葉ばかりが竜巻のごとく渦巻いているのではないかしら。名張市という自治体のうわっつらの体裁を保つことさえ危なくなってきているのではないでしょうか。

 しかしいまごろ吠え面かいたって手遅れなのである。

 2006年度に「(仮称)初瀬ものがたり交流館改修工事」と「(仮称)乱歩文学館基本計画策定」とを実施するというのであれば、当然そのための予算も組まれていることでしょうから、それは年度内に消化しなければならぬのであろう。ろくな成算もないプランにさっさと予算つけたあげくがこのざまかよ。なんだか大変そうですねとは思いますものの、いまから何やったってそんなものは市民のコンセンサスなどどこにも見あたらぬ泥縄の弥縫策でしかないのである。弥縫というなら何から何まで弥縫なのであるが。

 要するにいまごろ吠え面かいたって手遅れなのである。

 さあ名張市役所のみなさんや、あんたらほんとにどうする気なの。なんたら委員会だろうがかんたら委員会だろうが、不勉強無教養不見識無責任な連中を何十人あつめてみたってどうにもなりゃせんぞ。そこらじゅう見まわしたって役に立ちそうな人間なんかひとりもおらんであろうが。それでいったい何をしようっていうの。ミステリーのみの字も知らぬ人間がミステリー文庫をプランニングしようっていうのか。いい加減にしなさい。

 歴史のれの字も知らぬ人間が歴史資料館を検討して暗礁に乗りあげ、うってかわって初瀬ものがたり交流館がどうのこうのと騒ぎ立てる。それをそのままなぞったかのように、乱歩のらの字も知らぬ人間が乱歩文学館を構想し、それが座礁したからと今度はミステリー文庫をもちだしてきたというわけなのか。そういうことなのか。まったく何をやっておるのか。あのインチキ委員会にそんなことを何回くり返させたら気がすむのだ。

 みたいなことばかりもいっておれません。なにしろ私は名張市立図書館の嘱託なんですから(少なくとも来年3月末までは)、このミステリー文庫とやらに直接関係するらしいお仕事のお鉢がまわってきているわけなんです。ですからミステリー文庫の担当セクションがどこなのかをお訊きしているというわけじゃなのに。

 まあしかたないか。あしたはミステリー文庫の不可能性、みたいなことを話題にして、それから再度、もう一度だけ名張市役所にご挨拶を申しあげることにいたしましょうか。

  本日のアップデート

 ▼2006年10月

 The Wider World (2): Japan Bob Cornwell

 イギリスで発行されているミステリ同人誌「CADS(Crime and Detective Stories)」の最新号に掲載されました。

 この同人誌は非常にマニアックな内容で、してみるとどうやら海外にも「探偵小説の鬼」というのがいるらしい、との説明とともに国内の鬼の方からコピーをお送りいただきました。

 きのうとりあげた『The Black Lizard and Beast in the Shadows』の書評です。

Edogawa Rampo: The Black Lizard and Beast in the Shadows (Kurodahan Press, pb, £8.70, 296pp)

A handsome paperback, and the first crime novel from a publisher founded in 2002 by three expatriate Westerners living in Japan. Equally handsomely illustrated by Kawajiri Hiroaki, and with an occasionally inaccurate foreword (Anthony Boucher an editor of Black Mask?) by Mark Schreiber, this is the first and long overdue publication in English of a novel (and a shorter novella for good measure) by Rampo.

 それでは名張市観光協会御用達、Yahoo! 翻訳の出番なり。

より広い世界(2): 日本
ボブコーンウェル
江戸川Rampo:ShadowsのブラックLizardとキリストの敵 (Kurodahan Press、pb、£8.70、296pp)

ハンサムなペーパーバックと日本に住んでいる3人の国外在住の西国人によって、2002年に設立される出版者からの最初の犯罪小説。等しく十分に、カワジリヒロアキで例示されて、そして、臨時に不正確な前書きで(アンソニーバウチャーは、ブラックマスクの編集者です?)、マークシュライバーによって、これはRampoによる小説(そして、良い処置のためのより短い短編小説)の英語の最初で長い遅くなった出版です。


 ■11月13日(月)
行政の主体性ってやつはどうよ□ 

 なんだか誤解をしていらっしゃる向きもおありのようですから(と掲示板「人外境だより」の最近の投稿から推測される次第なのですが)、ひとこと記しておきましょう。少し以前から述べていることですが、私はもう名張まちなか再生委員会相手にどーたらこーたらする気はまったくありません。何いったって通用せんわと観念しております。

 私が最後に委員会の事務局を訪れたのは6月26日のことでした。私はそれ以前に事務局に対して、

 ──名張まちなか再生プランに名張市みずからが変更を加えるためのもっとも合理的な手法を考える。

 という宿題をお出ししてありました。そのお答えをうかがいに名張市役所まで足を運んだわけです。

 つまりは行政の主体性の問題です。名張まちなか再生プランにかんしてふり返りますならば、名張市が行政としての主体性を明確に示すべきときが三回ありました。それが果たされることは一度だってありませんでしたが。

 三回のうちの一回目は、いうまでもなく名張まちなか再生プランを正式に決定するときでした。名張地区既成市街地再生計画策定委員会が提出したプランには、その前年に寄贈されていた桝田医院第二病棟にかんする言及がいっさい見られませんでした。こんなばかなことはありません。まちなか再生の目玉になるかもしれない素材がむこうから飛び込んできてくれたわけです。にもかかわらずその活用策がまったく検討されていなかったのですから、名張市はその点を指摘して委員会にプランの練り直しを要求するべきでした。

 しかし実際には、プランは原案どおり決定されました。名張地区既成市街地再生計画策定委員会は解散してしまい、新たに名張まちなか再生委員会が発足しました。その新しい委員会が桝田医院第二病棟の活用について協議をはじめました。プランを具体化するために組織された委員会がプランに盛り込まれていない事項を検討するのは、どこからどう考えても不自然なことです。明らかにおかしい。ルールに違反し、手続きを無視した話です。

 ですから私は委員会事務局に対して、もしも桝田医院第二病棟のことを検討するのであれば、名張地区既成市街地再生計画策定委員会を再招集してプランの練り直しを求めるべきであると申し入れました。事務局からは再招集できないという回答が返ってきました。これが二回目です。行政が主体性を発揮して名張地区既成市街地再生計画策定委員会を再招集し、桝田医院第二病棟にかんする構想を集中して練りあげるように話を進めていたならば、少なくともルール違反だの手続き無視だのと批判されることはなかったはずです。

 つづいて三回目。誰の眼から見ても名張まちなか再生委員会が桝田医院第二病棟の活用を検討するのは不合理な話なのではないか。プランそのものは議会のチェックや市民のパブリックコメントという一定のプロセスを経て決定されたものである。しかし桝田医院第二病棟の件はそうではない。名張まちなか再生委員会のごくわずかな数の人間が何から何までをまったく恣意的に決めてしまうことになります。ですから私は事務局に対し、名張地区既成市街地再生計画策定委員会を再招集できないのであれば、名張市が主体的な判断にもとづいてルール違反や手続き無視の問題をクリアするために、

 ──名張まちなか再生プランに名張市みずからが変更を加えるためのもっとも合理的な手法を考える。

 という宿題をお出ししました。6月26日に示された回答はフィードバックの制度化とでも呼ぶべきものでしたが、とても承服しがたい内容でした。名張市が行政の主体性を発揮する三回目の機会も、こうしてあたら失われてしまいました。6月28日付伝言から引きましょう(できればこの日の伝言全文をお読みください)。

 そもそも私は私は名張まちなか再生委員会における桝田医院第二病棟の整備構想にかんして、それが議会のチェックを経ることもなければ市民に公表してパブリックコメントを募集することもなく、完全なノーチェックのままいつのまにか検討されていることがおかしいと批判してきたわけです。名張まちなか再生プランに片言隻句も記されていなかった構想を名張まちなか再生委員会が検討するというのであれば、その構想もプランと同様のハードルをクリアすることが必要であろうと、だから必要な手順を踏んでプランを変更するべきであろうと、しごくあたりまえでこのうえなくまっとうなことをずーっとばかみたいに主張してきたわけです。委員会と市という当事者だけで好きなように更新ができる、ありていにいえば自由にプランを変更してしまえるというのでは、私の批判はこれっぽっちも生かされていないことになります。むしろもっとも望ましくない方向へ向けて制度化が進められつつあるといってもいいでしょう。

 しかし、しかしそんなこと以前にもっと重要な問題がここには存在しています。それは、いくらフィードバックシステムを確立したとしてもフィードバックできないものはフィードバックできない、ということです。プランに記されていた細川邸の問題をプランにフィードバックすることは可能であっても、プランに記されていない桝田医院第二病棟の問題はいったいどこにフィードバックさせるというのか。そんなものはどこにもできない。できるはずがないではないか。まったく困った話である。

 まあそういったような次第であって、行政サイドにもいろいろ知恵をしぼってはいただいたのですが、実りある結論には到達できませんでした。どうやらこれで万事は休した。私としてもできるかぎりの働きかけはしてみたのですけれど、事態はいっこうに改善されず、名張まちなか再生委員会は今後もきわめて不当な協議検討をつづけてゆくということになりそうです。

 おなじ日の伝言にはこんなことも書いております。名張まちなか再生委員会が乱歩文学館の整備計画を検討しているという新聞記事を引いて──

 こいつらはいったい何を血迷っておるのか。乱歩文学館とはそもなにごとぞ。名張まちなか再生委員会がいくら必死になって桝田医院第二病棟にかんする協議検討を進めてみたところで、そんなものには何の正当性もないのである。勝手な井戸端会議にすぎぬのである。行政サイドもそれを認識しているからこそ、私の指摘を受けて時点更新という制度の導入を検討したのではないか。結局は名張市の決定的な誤謬を追認するためのごまかしでしかない制度の案が提示されるに終わっただけなのであるが、名張市がこうした検討を行ったという一事はそのまま、名張まちなか再生委員会による桝田医院第二病棟整備構想の協議検討には問題があるという行政サイドの認識を物語るものである。行政は無謬なんかではないのである。名張まちなか再生プランなんてあきらかな誤謬なのであるから、さっさとそれを認めて頭からやり直せ。それが私の主張であるのですが、さきほども記したとおり万事は休し、万策は尽きはてた。

 とにかくひどい話ではあるのですが、私にはそれを押しとどめる力がありません。名張まちなか再生委員会はこれからも知らん顔して不当な計画をまとめてゆくことでしょうし、さらに困ったことには名張市議会の先生方がそれを承認してくださっております。26日の月曜日、というのは私が名張市役所で名張まちなか再生委員会事務局からおはなしをうかがってきた日のことなのですが、名張市の6月定例会が最終日を迎え、一般会計補正予算案をはじめとした上程全議案が原案どおり可決されました。この補正予算には名張まちなか再生プランがらみの予算も含まれているはずです。ということは、乱歩文学館たらいうインチキな構想にかんする調査費もおそらく計上されて可決されたということになります。

 とにかくこの日、6月26日に名張まちなか再生委員会事務局を訪れて、それをかぎりに私は委員会にもプランにもいっさい無縁な人間になりました。自分でそう決めました。もうやってらんない。6月30日付伝言ではこんなふうなことも書いております。

 おかげさまでずいぶんすっきりいたしました。梅雨の晴れ間に美しい青空をあおぎ見るような気分。あるいは、あまりたちのよろしくないお姉さんときれいに縁が切れたときのような気分。いまや自分は名張まちなか再生プランと完全に無縁なのである。そのことをただ思い返すそれだけで、子供のころ夏休みを迎えたときにおぼえたであろうような解放感がすばらしい勢いでこみあげてきます。わーい。わーい。

 わーい。わーい。と浮かれていていいのかとも思いますが、私とて名張まちなか再生プランにかんして最大限の助言やアドバイスはしてきたわけですし(実際、私ほどこのプランのことを気にかけてきた人間はいないのではないかと思います)、それにこのプランおよび名張まちなか再生委員会には愛想もこそも尽きはてましたから今後いっさい無縁であると決めてしまったわけなのですが、名張市が乱歩のことを真剣に考えるというのであれば助力を惜しむものではなく、きのうも記しましたとおりその旨を名張まちなか再生委員会事務局にお伝えしてもきたのですから、もういいであろう、もうこれでいいであろう、私がいくら誠実で責任感のつよい人間だからといってこれ以上あんなブランや委員会のことを気にかける必要はないであろうと、そのことをみずからにいいきかせたうえでもとの話題に戻りましょう。

 ですから私は名張まちなか再生ブランのことなどもう知らぬ。名張まちなか再生委員会のお相手などまっぴらごめんである。掲示板「人外境だより」に委員会の委員長に会ってみろといったご助言をいただくのはありがたいことではありますけれど、いまの私にはそんなつもりはさらさらありません。名張まちなか再生委員会の検討内容に異を唱え、事務局に異議を申し入れたのはすでにして過去の話。いまの私は名張市における行政の主体性を問題にしております。

 つまり四回目なわけです。名張市が名張まちなかの再生にかんして主体性を示すべき四回目の機会、それがいまです。「(仮称)初瀬ものがたり交流館改修工事」が実施されるという2006年度があと四か月あまりしか残されていないいま、それは名張市がまちなか再生のための主体的な判断を示すべきときであろうと私には判断されます。たぶん最後のチャンスでしょう。

 こんなことでいいのかどうか。名張市はそれをみずからの主体性のもとに考えなければなりません。そのためにはまず失敗を認めなければならない。名張地区既成市街地再生計画策定委員会と名張まちなか再生委員会によるまちなか再生のための検討は失敗に終わった。それを認めなければなりません。

 ごたいそうな委員会をふたつもつくってまちなか再生の道を探っていただいたわけではありますが、細川邸ならびに桝田医院第二病棟の整備活用についてはろくなプランがまとまりませんでした。つまりは失敗です。これは疑いようのない事実です。たとえば今年7月の時点で「広報なばり」に、

 ──(仮称)初瀬ものがたり交流館改修工事

 ──(仮称)乱歩文学館基本計画策定

 などとまーだ「仮称」という留保をつけた記事が掲載されている事実ひとつにも、ふたつの委員会の検討が見事に失敗したことは覆いようなく露顕しております。語るに落ちたとはこのことでしょう。ですから失敗を失敗と認めたうえで、さて名張市はいったいどのような主体的判断をくだすのかな。

 だいたいが名張まちなか再生委員会にしたところで、そろそろさじを投げてもいいころなのではないか。細川邸と桝田医院第二病棟の整備活用という課題をインチキにインチキを重ねて鋭意検討してまいりましたが、手前どもの手にあまるテーマであることが判明いたしました、と潔く撤退を表明すればいいではないのかな。

 みたいなこといってみたって名張市も名張まちなか再生委員会もともに聞く耳はもたぬでしょう。前者が主体性を発揮することも後者がプランから撤退することも、ともに不可能なことでしょう。さっさと予算も組んであることですからなりふりかまわずインチキプランに税金を投じるしか道はないということでしょう。だから私はわしゃもう何も知らんといってるわけです。

 ところがここへ来て、ミステリー文庫とやらが浮上してきました。名張市立図書館の嘱託たる私にもなにやらお鉢がまわってきました。ですから私はとりあえず、先週の火曜日に名張まちなか再生プラン担当セクションである市街地整備推進室にこんなメールをお出ししました。

 お世話さまです。市立図書館の中と申します。ミステリー文庫の担当室はどこになるのでしょうか。ご多用中恐縮ですが、お知らせいただければ幸甚です。

2006/11/07

 お返事はいまだにいただけません。どうなっているのかな。

 昨日の伝言であすはミステリー文庫の不可能性について述べると予告いたしましたが、予定を変更して行政の主体性にかんする所見を記しました。ミステリー文庫の不可能性についてひとこと記しておきますと、そんなものができるわけがない、というのが私の見解です。いずれ名張市役所のミステリー文庫担当セクションからくわしいおはなしをうかがうことになるはずですが、現時点での私見がこれです。できるわけねーじゃん。悪あがきもたいがいにしなさい。

  本日のアップデート

 ▼2006年11月

 論理的謎解き日本に移植/横溝正史、金田一耕助の誕生 有栖川有栖

 またしても掲示板「人外境だより」で Peter-Rabbit さんからご教示をたまわり、またしてもありがたいことに紙面のスキャン画像をお送りいただいた日本経済新聞夕刊の連載、「日本推理小説小史」の第二回です。

 乱歩のあとは正史の出番となっているのですが、「本陣殺人事件」を紹介するくだりに乱歩がふたたび登場しています。「才能に乱歩が嫉妬」との小見出しが立てられたパートから引きましょう。

 江戸川乱歩はこの作品を「純推理もの」で「(わが国で)殆んど最初の英米風論理的小説」と評しながら、いくつか物足りない点も指摘した。乱歩がこれほどの作品を「傑作か否かはしばらく別とする」とも書いているのは、世界水準の傑作と比較してのことだろう。と同時に、嫉妬に近い感情が言わせたのかもしれない。乱歩は常に探偵小説界のトップランナーであったが、理想とする「英米風論理的小説」(本格推理小説)がなかなか書けないでいた。それだけに、『本陣殺人事件』に「先を越されてしまったか…」と強い衝撃を受けたのだろう。

 ついでですから有栖川さん「おすすめ」の正史作品もどうぞ。

筆者のおすすめ
「本陣殺人事件」
「獄門島」
「蝶々殺人事件」
「八つ墓村」
「悪魔の手毬唄」
=角川文庫、春陽文庫などに収録。

 乱歩のあとは正史の出番、といえば正史の生誕地碑建立二周年を記念するイベントが今月25日に迫ってきました。詳細は「番犬情報」でどうぞ。


 ■11月14日(火)
ミステリー文庫はまぼろしだったのね□ 

 さて、名張市役所の名張まちなか再生プラン担当セクションである市街地整備推進室に、

 ──ミステリー文庫の担当室はどこになるのでしょうか。

 という問い合わせのメールをお出ししてからちょうど一週間が経過しました。何の音沙汰もありません。再度ご挨拶を申しあげようかと考えていたのですが、けさの寒さに意気が阻喪してしまったのか、なんかもうばからしいなという気がしてました。

 私はそもそもミステリー文庫とかいう悪あがきのことなどどうでもよろしく、そんなものにかかわりをもつのは願いさげなのである。しかしあにはからんや名張市立図書館嘱託である私にこのミステリー文庫とやら関連のお仕事のお鉢がまわってきてしまいましたので、それならばミステリー文庫とやらがどんな施設として構想されているのか、まずそれを教えてもらわなくちゃ話が前に進まない。私はそんなふうに考えているわけなのですが、どうやらそれはできない相談らしい。何も教えてはもらえぬらしい。

 ならいい。もういい。もうほんとに知らない。これはもう名張市役所にはミステリー文庫の担当セクションが存在しないということなのだと勝手に解釈することにして、うわっつらだけをインチキでとりつくろうためのものでしかないミステリー文庫とかいう泥縄式の悪あがきは結局存在しなかった、とどのつまりミステリー文庫とやらの構想そのものがまぼろしであったのだと認識しておくことにしようかな、といまは思う。

 それにしても名張市役所のみなさんや、あんたらほんとに正気なのか。ミステリー文庫なんて市民のコンセンサスなどどこにもないプランを本気で考えておるのかいな。何の成算もないくせにたったかたったか先走ってうわっつらばかりとりつくろってるとどんなことになるのか、あんたらは名張まちなか再生プランの歴史資料館整備構想でいやになるほど学習したのではなかったのか。名張市役所には学習能力というものがないのかいな。

 名張市における官民双方の精鋭をよりすぐってミステリー文庫とやらをプランニングしてみたところで、せいぜいがそこらの小学校の学級文庫とおなじレベルのものでしかできぬことであろう。そんなことすらわかりませんか。不勉強無教養不見識無責任な人間が寄り集まってご町内感覚となあなあ体質でものごとを進めれば。結局はそうなってしまうしかないのである。そんなばかげたことに税金つかわないでおくれよ。なーにがミステリー文庫か。そもそもみなさんにミステリーへの愛があるのか。

 いやいや、やっぱりやめておきましょう。ぐだぐだいったってしかたない。とにかく名張市役所のみなさんや、いまごろになって吠え面かいたってもう手遅れというものだ。とはいうものの、これは名張まちなか再生委員会のみなさんにもこの伝言板を通じてお伝えしてあることなれど、私はどいつにもこいつにもほんとに愛想がつきておるのじゃが、名張市役所のみなさんであれ名張まちなか再生委員会のみなさんであれ、泣きたくなるほど思案にあまることがあるのなら話くらいは聞いてさしあげないでもありません。それだけは申しあげておきましょう。

 しかしまあ、こちらからの簡単な問い合わせにも応答できないみなさんが、そちらから私の助力を求めていらっしゃるとも思えませんな。まあいいでしょう。好きになさい。どうにもならぬであろうけれども。

  本日のアップデート

 ▼1989年3月

 第八章 〈探偵小説〉から〈推理小説〉へ 小林信彦

 きのうのつづきのようなものです。

 というよりは、6月3日付伝言6月4日付伝言のあたりで話題にした小林信彦さんと正史の対談「横溝正史の秘密」の秘密、その話題のつづきです。その秘密が明かされた小林さんの文章がついに明らかになりました。

 何のことだかようわからんとおっしゃる方は、お手数ですが6月3日付伝言6月4日付伝言のあたりをお読みください。

 その小林さんの著作は『小説世界のロビンソン』でした。新潮社から1989年に出た本です。

 私はいつのことであったか悪の結社畸人郷の先達に、ほれあの乱歩からナイフを送りつけられたようでぎくりとしたとかいう正史の言葉が活字になったときには削除されていたという対談の秘密をばらしてあるらしい小林信彦さんのエッセイ、あれが何であったのか調べといてね、と丁重にお願いしておいたのですが、その後の報告によりますと先達はお仕事のお昼休みに職場近くの図書館に飛び込んで小林さんの著作を片っ端からつぶしてゆくという難行苦行にチャレンジしてくださっているとのことで、私はありゃりゃ、こりゃまたえらいこと頼んでしもうたなと思わぬでもなかったのですが、いやいや、これも悪の結社が悔い改めて世のため人のために罪滅ぼしをしているということなのであろうと観音様のように慈悲深い心で思い返し、布袋様のごとく太平楽な気分で調査結果の報告を待ち設けておりましたところ、10月28日の第十六回なぞがたりなばり講演会記念大宴会にご参加くださった先達からついにその報告がもたらされたという寸法です。

 そこでその『小説世界のロビンソン』、毎度おなじみ「日本の古本屋」を通じて古書を購入いたしましたので(気になるお値段は千円でした)、先達のご尽力に深甚なる謝意を表しつつ引用いたしましょう。

 連載が終ると、すぐに、江戸川乱歩の「『本陣殺人事件』を評す」が「宝石」にのった。この批評は、「本陣殺人事件」にささげられたこの上ない花束であると同時に、戦後の日本の推理小説の方向を決めた重要な一石であった。
 ……これは戦後最初の推理長篇小説というだけでなく、横溝君としても処女作以来はじめての純推理ものであり、又日本探偵小説界でも二、三の例外的作品を除いて、ほとんど最初の英米風論理小説であり、傑作か否かはしばらく別とするも、そういう意味で大いに問題とすべき画期的作品である。
 右のような前置きで始まる乱歩の批評は、推理小説評の王道を行くものであった。

 それから二十八年後の一九七五年に、ぼくは横溝氏と長い対談をおこなったが、当然、この批評の話が出た。氏は、こう語っている。

 「乱歩(は)、あれ(を)発表する前に送ってくれましたよ、原稿を。『こういうものを書くんだが』って。もう、ぼくは異議はないわね」
 活字になったものでは、このあとの一行が削られていた。それは、次のようなものであった。──ぼくは、短刀を送りつけられたように感じて、ぞっとしたよ。

 この意味を理解するには、若干の予備知識を要する。

 大阪薬専を卒業して神戸の薬局の若主人役をつとめていた横溝正史を東京に呼び、森下雨村にすすめて、当時の大出版社である博文館に入れたのは、江戸川乱歩である。大正十五年の話だ。乱歩・正史のあいだに、兄・弟的な感情があったといっても見当ちがいではあるまい。

 翌昭和二年、「新青年」編集長になった横溝正史はアメリカ的モダニズムを誌面にとり入れる。のちの作風によって誤解されているが、横溝正史はかけ値なしのネアカ人間であった。一方、かけ値なしのネクラ人間である乱歩は「新青年」にモダニズム、ナンセンスが入るのを好まなかった。

 ネクラの兄とネアカの弟が、人嫌いの作家と気鋭の編集者になれば、ネクラの兄はいよいよ屈折してゆくはずで、しかし、この心理劇は、横溝正史の結核発病によって、とりあえずの幕がおりた。

 敗戦と同時に、乱歩は、探偵小説の理論家として、指導的立場に立ち、新風を求める。ところが、(乱歩理論の)実作第一号として登場したのは、ほかならぬ横溝正史だったのである。そして、第二幕の主役は、衆目のみるところ、横溝正史であり、乱歩には実作がなかった。その乱歩が、横溝作品を認めることの苦痛と喜びが、乱歩の性格を知り尽している正史にわからぬはずがない。短刀を送りつけられたように感じて、ぞっとした、という言葉には実感があった。(「蝶々殺人事件」「獄門島」を立てつづけに書いたこの作家には、第三幕とでもいうべき晩年のブームがあるのだが、ここでは触れない。)

 今月25日の横溝正史生誕地碑建立二周年記念イベントには、悪の結社畸人郷の先達のみなさんも参加されるようです。この先達のみなさんならきっと、あなたの困りごとも名探偵のようにあっさり解決してくれることでしょう。イベント会場でお気軽にご相談ください。詳細は「番犬情報」でどうぞ。


 ■11月15日(水)
十年がかりで完結しました□ 

 ミステリー文庫とかいうまぼろしの話題からはきれいさっぱり離れてしまい、本日は新刊の話題でも。

 東京創元社の中井英夫全集第十二巻『月蝕領映画館』が出ました。下の画像をクリックすると版元の紹介ページが開きます。

 創元ライブラリ版中井英夫全集はこれにてようやく完結ということになりました。ちょっと調べてみましたところ、第一回配本の第三巻『とらんぷ譚』(私は第一巻『虚無への供物』から配本がはじまったのだと勘違いしておりました)が世に出たのは1996年5月のことでした。まるまる十年かかってついに堂々の完結となったわけです。なんでこんなに時間がかかったのよとぼやくべきなのか、あるいはたとえ十年がかりでも全巻完結してくれたことを感謝すべきなのか、とても微妙なところではあるのですが、私はやはり素直にうれしい。

 『月蝕領映画館』は1984年に潮出版社から刊行され、それ以来ただの一度も再刊再録の機会がなかったとの由なのですが、ぱらぱら読み返してみると雑誌に連載された1981年7月から1982年12月までの自分自身のあれこれが映画を手がかりとして思い出されてきたりもします。

 おとといきのうと「本日のアップデート」で横溝正史がらみの話題がつづいたことに鑑み、「12 消えた映画館」から引いておきましょう。

 有楽町近辺では日比谷映画と有楽座が変らずいてくれるので安心だが、見たいものは最近とみに少ない。先日「悪霊島」の試写が日比谷であって雨の中を出かけたが、本当に久しぶりだと気づいた。監督は篠田正浩、脚本が清水邦夫で私には数少ない二人の知人だが、横溝作品は怪奇と恐怖を売り物にする限り、このコンビをもってしてもどうにもならない。双生児も洞穴も「犬神家の一族」同様ただのこけおどしとなり、その点高林陽一監督の「蔵の中」は美の視点から捉えていないかと東映の試写室に出かけてみたが、これも失望した。何より姉の小雪役のニューハーフ松原留美子がひどすぎ、笛二役の山中康仁はまた健康すぎる。原作の、

 “蜥蜴色をした少年の眼は急に潤を帯びてキラキラと輝き、頬にはポツと紅味がさし、その唇は何かしら忌はしい物をでも吸つた後のやうに真紅に濡れてゐた。……あの蚕の腹のやうに青白く透通つた肌の下には、どんなに不潔な、恐ろしい病毒が巣喰つてゐることだらう……”(「新青年」昭和10年8月号より)

 という肺病の美学が消えてはどうしようもない。遠めがねで覗く向うが中年の男女(中尾彬と吉行和子、好演)のただれた愛欲図なのに、こちらまでグロテスクな近親相姦ではぶち壊しだ。「悪霊島」では架空の女性ふぶきを加え、「蔵の中」では小雪を架空にしてしまう処理の仕方も肯けず、せっかくの京都ロケも味わいを薄れさせた。原作のラスト、

 “……どこかで遠雷の聞えるやうな、物憂い、味気ない昼下りのことで、床の上に溜つた夥しい血が、晩春の陽を吸つて的と光つてゐたといふことである。”

 という横溝美学を再現する監督は必ずいるだろうに。

 中井英夫にしてはくつろいだ感じのスタイルですが、それでもやはり中井英夫は中井英夫で、私は思いがけず中井英夫の肉声に接したようなひどく懐かしい気分になりました。

 創元ライブラリ版中井英夫全集全十二巻、ご所蔵でない方はぜひこの機会に購入をご検討ください。私がもっているのは『虚無への供物』や『とらんぷ譚』の巻などすっかり背が焼けてしまっているのですが、いま揃えれば書棚には真っ白い背が並びます。ミステリー文庫をプランニング中のみなさんにもお薦めしておきましょう。

  本日のフラグメント

 ▼1989年3月

 第九章 推理小説との長い別れ 小林信彦

 これもひろっておくことにしました。『小説世界のロビンソン』の一章です。きのうの第八章「〈探偵小説〉から〈推理小説〉へ」につづいて乱歩の名前が登場します。しかしながら第八章ほどに重要な言及は見られませんからスルーしておくつもりだったのですが、乱歩本人ならやはり見捨ててはおかなかったであろうなと考え直しました。

 したがいまして当サイト「乱歩文献データブック」、きのうの時点では──

第八章 〈探偵小説〉から〈推理小説〉へ 小林信彦
『小説世界のロビンソン』新潮社 20日
初出連載は波昭和59年1月号→62年12月号
→新潮文庫−1992

 といったぐあいに記載してあったのですが、これをこんな感じに改めました。

小説世界のロビンソン 小林信彦
新潮社 20日
第八章 〈探偵小説〉から〈推理小説〉へ/第九章 推理小説との長い別れ
初出連載は波昭和59年1月号→62年12月号
→新潮文庫−1992

 第九章の主役は坂口安吾です。乱歩の「『不連続殺人事件』を評す」からの引用もあり、乱歩はサスペンス不足を不満としていたけれど安吾は「不連続殺人事件」をファースとして書いたのだからサスペンスなどは問題にしていなかったのである、といった指摘がつづられます。

 そのあと、安吾が昭和25年に発表した「推理小説論」について述べられたところを引用しましょう。文中の「右のような実績」というのは、安吾が「不連続殺人事件」で第二回探偵作家クラブ賞の長篇賞を受賞したことを指しています。

 昭和二十五年の「推理小説論」は、右のような実績の上に立っての発言であるが、論旨は、〈推理小説というものは推理をたのしむ小説で、芸術などと無縁である方がむしろ上質品だ〉という一行に尽きる。このエッセイは、〈探偵小説芸術論〉を斬り、アガサ・クリスティを礼賛し、横溝正史を〈世界のベストテン以上、ベスト・ファイヴにランクしうる才能〉と位置づけたことで記憶されるべきだが、他の日本作家は面白くなかっただろうと思う。

 〈探偵小説芸術論〉というのは、戦前からわが国にモヤモヤしていたもので、戦後、その主張をはっきりさせた。探偵小説を純文学に高めたいという考えの作家たちがいて、具体的な作品名をあげろときくと、「罪と罰」とか「カラマーゾフの兄弟」という答えがかえってくる。乱歩は〈可能性を全く否定するものではない〉と断りながらも、〈探偵小説遊戯論者〉であった。大きな枠組でみれば、乱歩と安吾は同じ側にいたわけだ。(商業的な意味を含めて、推理小説の地位が〈向上〉した現在、〈芸術論〉は自然消滅した。安吾が喝破したように、あれは〈暴論〉であった。)

 なんのなんの、「探偵小説を純文学に高めたいという考え」をもっていらっしゃるなんだかナイーブな人たちはいまでも結構ご健在なのではないかしら。そうした人たちは探偵小説にまったく関係のない作品を日本推理作家協会賞評論その他の部門の受賞作品に選び、こうした作品に賞を贈ることができるのは日本推理作家協会にとってしゃーわせなことである、みたいなことをおっしゃる。

 いっぽう「探偵小説を純文学に高めたいという考え」があくまでも気に喰わぬという人たちもまたたしかに存在していらっしゃるようで、探偵小説を直木賞の受賞作品に選びながらそれでもなお人間描写がどうのトリックがこうのとまあねちねちと、てめーこらバリアとハードルの区別もつかんようなあんぽんたんがいったい何様のつもりか。

 うーむ。私は上の二段落を書きたいがために第九章の「推理小説との長い別れ」をとりあげたのかもしれません。何をまあねちねちと。


 ■11月16日(木)
山梨知事選が来年1月に迫りました□ 

 乱歩の名前で全国紙のオフィシャルサイトを検索するという早朝のルーティンワークをこなしておりましたところ、産経新聞のニュースがひっかかってきました。来年1月の山梨県知事選挙に三人目の候補者が名乗りをあげたと報じられております。

リセット山梨 金子氏擁立を発表 中部横断道工事中止訴え
 来年1月の知事選で、市民団体「リセット山梨・県民の会」(代表・川村晃生慶大教授)は14日、一般公募で選出した元会社員の金子望(のぞみ)氏(61)=甲府市湯村=を擁立すると発表した。金子氏は「ハコモノ、道路事業偏重をやめて財政改革を目指す」と語った。知事選にはすでに山本栄彦知事(71)、元衆院議員の横内正明氏(64)が出馬を表明しており、両氏に迫れるか注目される。

 県財政再建や環境型施策の実現などを掲げる「リセット山梨」は、3人に知事選出馬を打診するとともに、2人が一般公募に応募した。このうち、打診した人物より適格として、金子氏の擁立を決めた。

 金子氏は初めての政治活動となり、「友人から『リセット』の候補者募集を聞き、『ハコモノや道路』に莫大(ばくだい)な予算を投入していると感じていた県政を変えたい」として応募。「中部横断道や住民合意のない明野廃棄物最終処分場などの工事中止を行う」と政策を掲げつつ、「県では他県に多くのごみを運んで捨てており、地域ごとに最終処分場を造る必要性がある」と訴える。

産経新聞 Sankei Web 2006/11/15/03:53

 どうしてこの記事がひっかかってきたのかというと、この金子望さんが、

 ──金子氏は甲府一高、慶大を経て、電通に入社し部長職で定年。十数年前から県内に戻り、江戸川乱歩や横溝正史の小説の挿絵を描いた竹中英太郎を紹介する私設記念館を開設し、湯村温泉の活性化の活動をしている。

 といったような方でいらっしゃるからです。

 ああ、おれは弥生美術館の英太郎展にまだ行ってないではないか、などといった個人的な嘆きは横に置いておくとして、朝日新聞でも金子さんのことが報じられておりました。

金子望氏を擁立「リセット山梨・県民の会」
 金子氏はリセット山梨の推薦を受け、無所属で立候補する。政党組織には頼らない方針といい、草の根の運動を展開して勝利を目指すという。

 記者会見で金子氏は、山本、横内の両氏について「政策や手法にほとんど違いがない」と批判。中部横断道の建設中止や明野最終処分場建設の白紙撤回、PFI方式によるJR甲府駅北側の図書館を含む「新たな学習拠点」の建設凍結などを対立軸として掲げた。

 中心に据える施策は「安心、安全」で、大型公共工事を削減して財政赤字解消を目指しながら、高齢者の医療費補助を充実させるなどと訴えた。また、副知事の女性起用や、政策などを担う「補佐官」のポスト新設も提案。補佐官は民間人を念頭に置いており、数人を起用したいとした。

 金子さんにかんしてはこうあります。

 ──同氏によると、江戸川乱歩の小説の挿絵などで知られる山梨ゆかりの挿絵画家の故・竹中英太郎の娘婿にあたる。04年に竹中英太郎記念館を設立し、主宰している。

 私は山梨県の事情など何ひとつ知るところがなく、知事選の話題にもこれらの記事ではじめて接した次第ではあるのですが、竹中英太郎の娘婿でいらっしゃるとあればそれだけでこの金子望さんを支援しなければならんのではないかという気になってきます。市民団体の一般公募に応じて現職と元衆院議員を向こうにまわすという心意気も好ましければ、ハコモノや道路など大型公共工事の削減によって財政赤字の解消をめざすという主張にも共感できます(むろんこんなのは日本全国そこらじゅうで主張されていることではあるでしょうけれど)。

 といったって実際にはどんな支援もかなわぬわけで、それに見ず知らずの人を軽々に支援するなどというのは傲慢でもあれば無謀なことでもあるのですけれど、乱歩がらみの異色の話題としてお知らせしておく次第です。読者諸兄姉はもしかしたら、山梨知事選における「リセット山梨・県民の会」からスライドして名張まちなか再生プランのリセットの話題がつづられるのではないか、「リセット名張・市民の会」なんてものが熱く語られるのではないかとお思いかもしれませんが、そんなことはまったくありません。

 ミステリー文庫の関係者なら当然連想されるであろうそのとおり、リセットという言葉からスライドする先は北村薫さんの話題しかありません。

  本日のアップデート

 ▼2006年5月

 虚栄の市 北村薫

 掲示板「人外境だより」で「宮澤の探偵小説頁」の宮澤さんから教えていただき、さっそく購入してきた文春文庫『街の灯』に収録された短篇。北村薫さんの新シリーズ「わたしのベッキー」の開幕を飾る一篇です。

 ときは昭和7年。士族出身で相当な上流家庭のお嬢さんである語り手と、その家庭に運転手としてやってきた別宮みち子という若い女性が主人公。女性はお嬢さんの命名でベッキーさんと呼ばれることになり、ベッキーさんはお嬢さんの通学の送り迎えやなんかを担当するわけなのですが、これがまた才色兼備というか文武両道というか質実剛健というか勇猛果敢というか(四文字熟語による形容が実質からどんどん遠ざかってる感じですが)、ほとんど荒唐無稽といっていいくらいのキャラクター設定がなされており、じつに凛然としていてきょうびの語彙をもちいるならばありえないくらいに男前な女性であるというしかありません(「きょうびの語彙」というのは「ありえない」ではなく「男前」のことだとお思いください)。そんな荒唐無稽を意に介させることなく読者をぐいぐいひっぱってゆくのが小説家の力というものなのであって、私はぐいぐいひっぱられました。

 ここで宮澤さんのご投稿を転載しておきましょう。

宮澤@探偵小説頁   2006年11月11日(土) 8時19分  [222.1.132.45]
http://homepage3.nifty.com/DS_page/

 こんにちは。乱歩小説の情報ですが、既出のものでしたらすみません。
 北村薫『街の灯』の三編収録中の最初の「虚栄の市」が乱歩小説です。<恐ろしさ身の毛もよだち 美しさ歯の根も合はぬ 五彩のオーロラの夢をこそ>という言葉も引かれ、さすが『詩歌の待ち伏せ』の著者という感じでした。

 何の躊躇も説明もなくただ「乱歩小説です」とだけ記されていることからもおわかりのとおり、そして「虚栄の市」をお読みになればどなたもたちどころにうなずかれるであろうとおり、これは乱歩小説のお手本のような作品であると思われます。着想その他を乱歩の人と作品から拝借してくるだけでなく、乱歩への深い理解と至純の愛に充ちている点がお手本のお手本たるゆえんです。

 なんかこっ恥ずかしいこと書いてるのかなとも思いつつ、気にはとめずに引用しましょう。奇妙な事件にかかわりがある権田という男がどうやら乱歩の愛読者らしい、という会話がお嬢さんとベッキーさんとのあいだで交わされます。

 「権田さんは、その愛読者だったわけですね」

 「ええ、耽溺していた。それでね、乱歩の書いたものに、お墓を暴いたり、墓穴に死体を埋めたりするようなものもあるんですって。そんな影響で、穴でも掘って死んだんじゃないかって書いてあったわ」

 ベッキーさんは、首をひねる。

 「……それも、妙でございますねえ」

 「乱歩なんかを読んでるんだから、猟奇の徒。何をするか分からないっていう調子よ」

 「そう決めつけられたら、可哀想ですわね。──あの、たまたま眼にしたのですけれど、今年出た日記帳に『新文芸日記』というのがございます。月ごとに題辞を作家が書いております。一月巻頭が島崎藤村。十二月を菊池寛が書いております」

 「そうなの」

 後から思えば、文豪藤村、そして、今をときめく菊池寛の名を並べたのは、わたしの先入観を取り去ろうという、ベッキーさんの手だろう。確かに、こちらは権威には弱い。

 「その三月弥生を江戸川乱歩が受け持っておりまして、《恐ろしさ身の毛もよだち、美しさ歯の根も合はぬ、五彩のオーロラの夢をこそ》という言葉を寄せております。何か、人の心を捉える言葉ではございませんか。《恐ろしさ身の毛もよだち》とは、誰もが気軽にいえることでしょう。──しかし、《美しさ歯の根も合はぬ》は、違います。美というものの本質をつかみ、それを頭だけで述べていない言葉だと思います。《夢をこそ》の結びは作家ですから《書かめ》に繋がるのでございましょう。しかし、書こう、でなく、見たいものだ、でもかまいません。ともあれ、子供が《夕焼けの果ての、焼け付く茜色の国に行ってみたい》と足摺りするような、嘘のない希求の心が表れております。──こういう人の紡ぐ作品が、全て、ただのグロテスクとは、わたくしには到底、信じられないのですが──」

 思わず拍手してしまったり、ベッキーさんにざぶとん十枚、とかいってみたくなったりしますけれど、高名な先生の名講義を聴いているような感じもしてします。宮澤さんの言をおかりするならば、さすが『詩歌の待ち伏せ』の著者、といったところでしょう。

 ただしひとつだけちょっと気になる点を指摘しておきますと、これはベッキーさんらしからぬケアレスミスだと思うのですが、

 ──今年出た日記帳に『新文芸日記』というのがございます。

 というのはいささか不用意かもしれません。「今年の日記帳に」というのであれば問題はないのですが、「今年出た日記帳に」といってしまっては正確さに欠けます。乱歩が題辞を寄せた昭和7年版『新文芸日記』は昭和6年11月20日に新潮社から発行されたものです。

 しかしそんなことはどうだってよろしい。瑕疵とも呼べぬものである。下世話な言葉をもちいるならば、いわゆる北村薫ワールドが確乎としてここにある。それを実感できる作品です。現代社会の日常生活にうんざりしつつ疲れきっている読者諸兄姉に、ここではない日常へと軽快にいざなってくれる一冊としてこの『街の灯』をお薦めしておきましょう。気になるお値段は本体四百七十六円です。

 ちなみにきのうご紹介した中井英夫全集の最終巻はおなじ文庫本でも本体千八百円。高くてどうもすみません。いや私がお詫びすることはないのですけれど、ともあれ『月蝕領映画館』のほうもどうぞよろしく。


 ■11月17日(金)
山梨の横溝正史館は来年3月開館です 

 きのうにつづいて山梨の話題なのですが、朝日新聞オフィシャルサイトの検索機能はどっか調子がおかしいのか、ひっかかってきた記事にアクセスすると、

 ──お探しの記事はみつかりませんでした。

 と書かれたページが出てくることがたまにあり(つまり記事が掲載されてから検索にヒットするまでのタイムラグの問題なのですが)、こちらとしてはあっかんべーをされたような気分になってしまいます。この記事もそうでした。しかたありませんから Google のキャッシュで代用いたします。

 山梨市の横溝正史館が来年3月にオープンするそうなのですが、記事の内容はこちらのほうで──

  本日のアップデート

 ▼2006年11月

 横溝正史の直筆や愛用品など展示

 別にたいした記事ではありません。11月1日から4日まで山梨市で開かれた横溝正史寄贈品展の話題です。毎日新聞に掲載された記事のほうは11月4日付伝言でお知らせしておりますし。

横溝正史の直筆や愛用品など展示
 展示は、かつて横溝が愛用した灰皿や書道具、「獄門島」の生原稿など約70点。江戸川乱歩から贈られた書簡や、書き出しに悩んだ様子がわかる未発表原稿もある。

 生前の写真や年表とともに、書斎の寄贈が決まった経緯などをパネルで説明。世田谷文学館から借り受けた小説の書籍60冊も並べた。

 東京都世田谷区にあった書斎は6月に解体を終えた。移築・復元工事は予定より1カ月遅れ、今月半ば以降に始まる見通し。笛吹川フルーツ公園隣の市有地に「横溝正史館」として来年3月20日ごろの開館を目指す。

 写真説明も引いておきましょう。

 ──横溝正史が愛用した朱色の座卓。先輩作家として慕った江戸川乱歩とも、ここで向き合ったという=山梨市民会館で

 毎日新聞とは異なり、朝日新聞は正史が乱歩を師と仰いでいたというユニークな見地には立っていないようです。

 ともあれ来年の3月20日ごろ、横溝正史とは縁もゆかりもない山梨市に横溝正史館がオープンするとの由。4月20日付伝言にも記しましたことなれど、もうなんでもいいのか、著名人のお宝なら土地にゆかりのないものでも何でもありがたく頂戴するのか、横溝正史の人と作品に対する深い理解と至純の愛は、ひたすらな敬慕敬愛はどこにもないのか。

 山梨市にそんなものあるわけねーじゃん、と思います。そんなことではいかんのではないかとも私は思いますが、そんなふうには思わないという人も結構いらっしゃるのでしょう。まあ好きになさい山梨市。

 さてこちらはいわれなくたっていいだけ好きにしてるアナーキー都市名張市なのですが、結局どうなるのか、といったお問い合わせのメールを一通、おまえがもう少ししっかりしなければならんのではないか、といったお叱りのメールを一通、昨日までに頂戴しておりまして、そういえば10月28日の第十六回なぞがたりなばり講演会記念大宴会にはるばるご参加いただいた方からも「何ができるんですか」とのご質問をいただいた次第であったのですけれど、しかしながらそんなこと私に訊かれてもなあ。むろん乱歩文学館とかミステリー文庫とかのおはなしです。

 かりにも乱歩の名のついた施設ができるというのに、とそのお叱りのメールのほうに書かれてあったのですけれど、そのプランにおまえがまったくタッチしていないのはあまりにもおかしな話ではないか。それはたしかにそうなのですが、私は名張市には乱歩文学館なんてまったく必要ないと考えておりますし、また乱歩文学館の構想そのものがごく少数の人間の密談によって決められた正当性のかけらもないインチキであるというしかなく、そうしたインチキを平気で押し通す名張まちなか再生委員会の事務局に対して私はおまえらにはもういっさい協力しないからと最後通牒を宣告してもありますので、私がノータッチなのは当然といえばごく当然の話です。だいたいが乱歩文学館がどうのこうのという以前に、何から何までインチキかましてうわっつらだけをとりつくろおうとする関係者に、というよりは名張市という自治体そのものに私は我慢がならぬわけです。

 そうか。書いててわかったけど、やっぱり我慢がならんのだなおれは。

 ならばかますか。

 お世話さまです。市立図書館の中と申します。ミステリー文庫の担当室はどこになるのでしょうか。ご多用中恐縮ですが、お知らせいただければ幸甚です。

2006/11/07

 11月7日に名張市役所の都市環境部市街地整備推進室にこんなメールをお出ししたなり、寒さに萎縮したのかほんとにばからしくなってミステリー文庫はまぼろしであったと思っておくことにしたのだけれど、くっそーうすらばかどもおれが怒ってないとでも思うておるのか。私の書斎では早朝にはもうストーブを使用しておるのだから、私はいまや寒さに萎縮することもないのだ。

 ならばかますか。

 いっちょかますか。

 がッ、と一発かましたるか。

 それならばまず確認。6月26日付伝言に引用した6月20日付毎日新聞の記事を再掲いたします。

細川邸:改修、交流館に 名張まちなか再生委が計画−−来年秋開館へ /三重
 同委員会は交流館整備の他、ミステリー作家・江戸川乱歩の生誕地に隣接する、同市本町の旧桝田医院第2病棟敷地を「乱歩文学館」として活用する計画を進めてきた。老朽化が進む旧桝田医院第2病棟を取り壊し、木造長屋の乱歩生家を復元する計画で、館内にミステリー作品を集めた読書室を設ける案もある。7月にもまちなか再生委員会に乱歩文学館検討委員会を組織し、施設の詳細を詰める。平行して、市は解体工事に取り掛かり、来年度には復元工事に着手し、来年度末には完成の見込み。【熊谷豪】

 6月18日に名張市役所で開かれた名張まちなか再生委員会の2006年度総会を報じる記事です。乱歩文学館たらいう施設はこんな調子でプランニングが進んでいるようです。むろん何が決まったところでそんな決定は何者によっても担保されることのない密室のなかのプランニングではあるのですが、今年7月には委員会の内部に乱歩文学館検討委員会とかいう組織が結成され(それにしてもばかってのはどうしてこう次から次へと委員会なるものをつくりたがるのでしょう)、着々と検討が進んでいるのかな。

 ついでですからおなじ記事から別の段落を引いておきます。

細川邸:改修、交流館に 名張まちなか再生委が計画−−来年秋開館へ /三重
 まちなか再生委員会は昨年6月、市職員や旧町のまちづくりに携わる住民らで発足。交流館は観光客を旧町に呼び込む拠点として名張の観光案内をし、特産物を販売する。細川邸については、市が来年1月から6000万円かけて耐震補強工事や公衆トイレ整備を予定している。

 細川邸を利用する初瀬ものがたり交流館のほうはいよいよ来年1月に工事がはじまるようですが、結局のところ観光案内所と特産物販売所をかねたような施設になるのでしょうか。いや結構結構。名張まちなか再生プランに盛り込まれていた歴史資料館構想とはまったく関係のないものが誕生するようで、どこ叩いたって歴史認識にも歴史意識にもかすりもしないうすらばかの考えることはこの程度のものであろう。これが単なる名称変更だとはよくぞ申した。好きなだけインチキかましてろばーか。

 以下、あすにつづきます。いつまでも知らん顔を決め込んでおられると思うなこのインチキ自治体。おまえらなんかあっかんべー、だ。


 ■11月18日(土)
疑問と憤懣をキープする 

 さあもう思いっきりばんばんかましてやっからなッ、とばかりがばッ、と跳ね起きてみたもののきょうは土曜でお役所はお休みであり拍子抜け。あー寒いなと思ってストーブでがんがん部屋を暖めてたら頭がぼーっとしてきてなーんかやる気が出ない。名張市という名のインチキ自治体のみなさんのことなんてやっぱりもうどうだっていいやという気になってくる。

 いやいや、こんなぐあいに押したり引いたりお役所の人たちをじらしまくって面白がるのもいい加減にしておかなければなりませんけど、まずはメールでお知らせいただいた催しのご案内です。多賀新さんの銅版画による「江戸川乱歩の世界」展がきのう開幕いたしました。日程と会場は「番犬情報」でどうぞ。

 さて、さてさて、さーてさて、頭も多少はっきりしてきたことだからぱーっとかますか、と考えてまずはメールの文案をば。

 お世話さまです。市立図書館の中です。11月7日朝、ミステリー文庫の担当室の件で質問のメールをお送りしたのですが、まだお答えを頂戴できておりません。ご多用中と拝察し、質問は撤回いたします。そのかわり、このメールに添付したファイルをミステリー文庫担当室にご転送いただきたく、お忙しいところお手数をおかけしてまことに恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

2006/11/〓

 こういうメールをですね、名張市役所の都市環境部市街地整備推進室へお出しすることにいたしました。添付ファイルとなるべき文書はまだ書き終えておりません。週明けにはファイルを添えたメールを送信できるものと思います。

 さてそれでいまやとても他人ごとではない感じの北海道夕張市のことなのですが、朝日新聞にこんな記事が掲載されておりました。

財政破綻の夕張市、老人ホーム閉鎖へ 市内唯一
 財政再建団体に移行する北海道夕張市は17日、財政再建の一環として、市営の養護老人ホームを08年度末に閉鎖すると発表した。要介護者以外が入れる市内で唯一の老人ホームで、65〜96歳の47人が入居している。今後、他施設への入居や自活を促していくという。

 施設は築33年で老朽化が著しく、改築か社会福祉法人による新設を検討していたが、財政再建を考えると、改築費も法人への助成も捻出(ねんしゅつ)できず、存続を断念したという。ホームの管理費や人件費は05年度で約1億3000万円だった。

朝日新聞 asahi.com 2006/11/17/23:53

 いくらなんでもこれはひどい。財政再建団体になるというのは具体的にはこういうことなのであったか。しかもこの記事にはこんなことまで書かれてあります。

 ──市は老人ホームのほか、図書館や美術館、市民会館など17の公共施設の休止・廃止も決めた。

 公共図書館が休止あるいは廃止に追い込まれるなんてこと、私はこれまでに考えてみたこともありませんでした。しかしこんな事態にまで立ち至ってしまう可能性は、いまや全国の少なからぬ地方自治体に潜在しているのではないかしら。

 いっぽうこちら夕張によく似た名前のアナーキー都市でごんすが、中日新聞の記事をごらんいただきましょうか。

【伊賀】 名張の観光PR ローカルヒーロー第2弾デビュー
 名張市の観光PR役を務めるローカルヒーローの第2弾「赤目集団ウオーターフォールズ」の披露が11日、同市赤目町長坂のホテルであった。青蓮寺湖をテーマにした第1弾に続き、今回は赤目四十八滝が題材のヒーローだ。

 市や名張商工会議所関係者、公募市民ら約30人でつくる「ローカルヒーロープロダクション」(LHP)が考案した。

 ウオーターフォールズは英語で「滝」の意味で、3人のヒーローで構成。赤目四十八滝の各滝にまつわる名前と、赤目四十八滝で忍者・百地三太夫が修行を積んだ伝説にちなみ、忍者衣装を身に着けているのが特徴。

 いやちがった。こんな記事ではありません。こんなものはどうだってよろしい。市民のひとりとしてなんだかこっ恥ずかしいような気はすれど、まあ好きになさい。問題はこちらの記事です。

【伊賀】 財政苦で一般財源9億円余減 名張市、来年度予算方針
 名張市は来年度の予算編成方針を庁内各部に示した。市の貯金に当たる各種基金の枯渇や、来年度から始まる国と地方財政の第2期三位一体改革による地方交付税削減など厳しい台所事情を踏まえ、一般会計の一般財源の予算規模を本年度見込み額比で9億1900万円(5・3%減)減の164億4200万円と想定している。 

 一般財源は、市税や地方交付税など使途自由な収入。一般財源の見通しを軸に予算編成作業を進め、一般財源で足りない分は国庫支出金や地方債といった特定財源を取り入れるなどして、一般会計の総額を確定させる。

 市企画財政部がまとめた予算編成の基本方針では、財政苦を踏まえ、市単独の事務事業や補助金を本年度見込み額比で平均30%歳出削減し、市単独の事務事業や補助金を除く経常経費も3%以上削減を目標としている。

 くわしいことはさっぱりわかりませんものの、とにもかくにも大変らしい。名張市の財政状況はこれまで「財政難」と表現されていたのですけれど、この記事では「財政苦」という言葉が使用されております。「難」なんかではなくてもうはっきりと「苦」なわけね。予算の規模がいよいよ小さくなり、歳出がめいっぱい削減されるわけなのね。夕張市みたいに老人ホームや図書館を切り捨てるという事態にまでは至らなくとも、相当な歳出カットがごりごり進められるわけであろう。弱い立場の者から順に泣きを見ることになるのであろう。まあいたしかたない。ない袖が振れないのはしかたのないことであろう。だがしかし──

 その財政苦の名張市がインチキに税金をつかおうというのか。

 初瀬ものがたり交流館だの、

 乱歩文学館だの、

 ミステリー文庫だの、

 市民のコンセンサスとはまったく無縁なそんなインチキにないはずの袖を振ろうというのか。

 うーむ。わからん。どうもようわからん話ではありますが同時に腹の立つ話でもありますので、いささか変則的な改行によってそのあたりの疑問と憤懣とを強調してみました。

 まあとにかくこの疑問と憤懣をキープしつつ、ミステリー文庫担当室へのおてがみを書きあげてしまうことにしましょうか。

  本日のアップデート

 ▼2006年10月

 モーパン嬢(上) テオフィル・ゴーチエ

 先月購入したままうっかり忘れていたのですが、関連書籍としてひろっておきます。

 訳者の巻末解説から引きましょう。

解説
井村実名子
 11 『モーパン嬢』の邦訳

 本書は四番目の邦訳『モーパン嬢』となる。江戸川乱歩訳『女怪』(抄訳、〈序文〉なし、一九三〇)は、エログロ全盛時代の猟奇趣味を満載した相当にいかがわしい書物である。乱歩は出版社に請われて名前を貸しただけで、実際の訳者も知らない、しかし英訳本の『モーパン嬢』は読んでいたし、『とりかえばや物語』風の話には興味があったので、名前を出されることに異存はなかった、と弁解している。戦後の石川湧訳『夢多き乙女の冒険』(一九四八、一九五〇)も〈序文〉を無視した。〈序文〉も含む初の完全な翻訳は田辺貞之助の白水社版(一九四九)である。それが新潮文庫(二巻、一九五二)に入って広く流布した。この新潮文庫は絶版となって久しい。


 ■11月19日(日)
夕張ならびに名張のニュース 

 ニュース系サイトでその名を眼にするたびにどきりとしてしまう夕張市で昨18日、財政再建にかんする住民説明会が開かれたようです。

 北海道新聞の記事。

夕張市再建「枠組み案」説明会 住民反発一斉に退席
 【夕張】夕張市は十八日、先にまとめた財政再建計画の「基本的枠組み案」に関する初の住民説明会を同市清水沢の研修センターで開いた。歳出削減と住民負担増により「二十年程度」で約三百六十億円の赤字を解消するとの内容に対し、住民たちは「具体的な財政改善効果が分からない」などと反発。最後は大半の住民が一斉に退席する異例の幕切れとなった。

 住民約百三十人が出席した。初めに後藤健二市長が「『枠組み案』は持続可能な行政を維持するために不可欠。一定程度の住民負担と行政サービス低下に理解いただきたい」と述べ、中島秀喜助役が市民税引き上げ、小中学校統廃合など住民生活への影響を具体的に説明した。

 これに対し、住民側から「三百六十億円もの巨額赤字がなぜ生まれたのか、原因究明や責任追及をしないまま負担を押し付けるのは筋が通らない」「(バス料金軽減の)敬老パスが廃止されれば、通院の負担が大きい」などといった批判や要望が相次いだ。

北海道新聞 2006/11/18/23:12

 ニュース系サイトに掲載された共同通信の配信記事。

最大16万円超の負担増も 財政再建で夕張市
 財政破たんした北海道夕張市は18日の住民説明会で、1世帯当たり最大で年間約16万6000円の負担増などと試算した、財政再建の「基本的枠組み」を報告、協力を求めた。出席した市民からは批判が相次いだ。

枠組みは歳入増策として、市民税や固定資産税、軽自動車税などの引き上げのほか、ごみ処理の有料化、下水道使用料の引き上げなどを盛り込んだ。

試算では年収400万円の40代の夫婦と、小学校と保育園に通う子どもの計4人家族の世帯で年間約16万6000円、65歳以上の年金生活の1人暮らし世帯で、同4340円の負担増などとしている。

goo ニュース 2006/11/18/17:20

 テレビニュースのウェブサイト版記事。

「夕張市再建」説明会 住民猛反発し打ち切り
今回の説明会は、再建団体入りのときに開かずに批判が出たため開催が決まりました。再建計画の枠組み案について、住民からは公共料金の値上げなど住民負担について資料の提示や納得のいく説明を求める声が相次ぎました。しかし、夕張市は「まだ公にはできない」などと明確な説明を拒んだため、住民が反発してほとんどが退席する事態となりました。市は望む形の説明会ではないとして、きょうの説明会を打ち切りました。住民説明会は23日まで、合せて6箇所で開かれることになっています。

 毎日新聞の記事。

破たん・夕張再建:市民負担増の試算結果 新天地探すしか… /北海道
 「もう夕張を出て行くしかない」。17日、夕張市は市税や公共料金、手数料の引き上げによる市民負担増の試算結果を明らかにした。子育て世帯を中心に全市民に重い負担を課す内容で、収入が増えない年金暮らしの高齢者世帯にもずしりとのしかかる。財政再建団体下での生活へ不安が住民に高まっている。【有田浩子、内藤陽、吉田競】

 市の男性職員(37)は妻(37)と小学2年(8)と保育所(無認可)に通う6歳と4歳の3人の子どもの5人家族。保育所への市の補助が打ち切られるため、保育料は2人で年間7万2000円、そのほか下水料金や市民税のアップなどで年間約10万円負担が増えることになる。「再建計画で年収が4割減となり約300万円になる。10万円の負担増もきついが、年収減に比べたら微々たるもの。夕張市は好きなまちだが、子ども3人を育てるには、市役所を辞めて新天地を探すしかないかもしれない」と話す。

 なんとも悲痛な話ですが、この記事でとくに悲痛なのは七十二歳の元炭鉱労働者が口にした、

 ──おれたちは何ら悪いことをしていないのに市役所はツケを押しつけてくるんだろう」

 ──このままだと夕張に殺される」

 という言葉でしょう。

 住民が地方自治体に殺される。

 そんなばかなことがあるはずはないのですが、この言葉からは油のように重い実感が感じられます。

 私は何もいたずらに不安をあおろうとしているわけではないのですが、なんだか名張市役所には11月15日付中日新聞にあった「財政苦」にかんする危機意識が稀薄なのではないかという感じがいたします。私が感じていないだけの話なのかもしれませんし、市役所のみなさんに財政の問題でいろいろご苦労ご尽力をいただいていることはもとより理解しているつもりでもいるのですが、夕張の問題は他人ごとではなく、それこそ他山の石なのであるということが名張市役所のみなさんにはおわかりなのかな。うわっつらではなく根っこのところの問題がおわかりなのかな。ちょっと心配。

 山陽新聞の社説です。

夕張市再建計画 財政規律への他山の石に
 解消すべき赤字は約三百六十億円で、返済には二十年程度もの長期間を要する。市民に大きな痛みを伴うものの、最終的な赤字額はさらに膨らむ可能性があり、この計画で返済できるかは不透明だ。財政運営を誤った場合のつけの大きさを思い知らされる。

 夕張市は国内有数の産炭地として栄えたが、炭鉱の閉山で人口が急減した。市は観光産業へ生き残りをかけてテーマパーク、ホテル、スキー場などへ投資したが、次々失敗し負債が膨らんだ。しかし、一時借入金などで表面上の決算は黒字を装っていた。

 多くの地方都市にとっても地域振興は重要課題であるが、夕張市の事例を他山の石とし、財政規律が同時に必要であることをあらためて自覚すべきだろう。地方分権を進める中で、財政運営の透明化も一層求められる。

山陽新聞 WEB NEWS 2006/11/16

 次はもうひとつ毎日の記事。

夕張観光協会:解散、NPO法人に改組へ /北海道
 夕張観光協会(黒澤良之会長)は17日、臨時総会を夕張市民会館で開き、解散を決めた。市の補助金全額カットにより、従来の活動にピリオドを打つことになったもので、今後はNPO法人「ゆうばり観光協会」を設立し、行政に依存しない自主運営を目指す。

 夕張観光協会といえばすぐに連想されるのは名張市観光協会です。

 明治27年はあいかわらず1895年のままです。ふーむ。田舎者って結構かたくななわけなのね。

 ついでですから名張市のニュースも行っときましょう。室蘭民報に掲載された共同通信配信記事です。

名張事件で全国支援者集会 「年明けにも決定か」
 三重県名張市で1961年、ぶどう酒に毒物が混入され女性5人が死亡した名張毒ぶどう酒事件で、死刑が確定し再審開始決定の是非が審理されている奥西勝元被告(80)の支援者らが18日、名古屋市内で全国支援者集会を開催した。

 弁護団の小林修弁護士は、異議審で検察側が最終意見書を提出したことを明らかにし「高裁は年明けにも決定を出すのではないか」と話した。

 集会には14都道府県から約200人が参加。特別面会人の稲生昌三さん(67)は、心身の健康を保つため拘置所で封筒作りの作業をしている元被告の様子を伝え「高齢で残された時間は少ない。支援の輪を広げるために力を貸して下さい」と呼び掛けた。

室蘭民報 WEB NEWS 2006/11/18

 奥西勝さんをはじめとした関係各位にいい年明けが訪れることをお祈りしておきたいと思います。

  本日のアップデート

 ▼2006年11月

 第四章解説 瀬名秀明

 「鏡地獄」を収録したアンソロジー『贈る物語 Wonder』が出ました。2002年に光文社から刊行された単行本の文庫版です。

 単行本には1970年に講談社から刊行された『世界の名作怪奇館5 日本編 まぼろしの雪女』に収められた「かがみ地獄」に添えられていた片山健さんによる恐ろしい挿画が転載されていて(文意をご理解いただけたでしょうか)、それが話題になったかどうかはともかくなかなか心憎い編集だと私は思ったものでしたが、片山さんの絵はむろんこの文庫本にも収められています。

 編者の解説から引きましょう。この文章にはタイトルがつけられておりませんので、便宜的に「第四章解説」といたしました。当サイト「RAMPO Up-To-Date」ではタイトルの末尾に「▲」を附すことでそれを示す作法になっております。

 ただしこの短編の恐ろしさは、ラストシーンの衝撃だけにあるのではありません。物事に熱中することの恐怖が見事に描き出されています。誰でも子供の頃、何かに夢中になったことがあるでしょう。成長し、大人になってからも、自分の好きな趣味に打ち込む人は大勢います。知覚心理学者の下條伸輔さんは、何かに熱中しているときこそが脳にとって自由な状態なのだ、といっていますが、確かにぼくたちは熱中し、没頭しているとき、すべてのしがらみから解放されています。ですから、もしかしたら科学者と芸術家は、いつの時代においても最高に自由な存在なのかもしれません。

 しかし完全な自由は破滅を導くということを、ぼくは「鏡地獄」で無意識のうちに感じ取ったのだと思います。自分が熱中癖のあることもわかっていて、だからこそ主人公の「彼」の辿る道が恐ろしかったのです。乱歩自身、少年の頃に「レンズ嗜好症」に取り憑かれていたことが、エッセイの中に記されています。

 それにしても──主人公の「彼」は最後に何を見たのでしょうか。

 なるほどそのとおりで、思いつきはするかもしれない、しかし実行は絶対にできない、と思われることを平気でやってしまう人間が乱歩作品には登場します。

 たとえば屋根裏の散歩なんてものはあなた、新築のアパートに入居した、押し入れの天井板が動くことがわかった、天井裏を眺めてみた、こっそり歩きまわってみたら面白かろうと思いついた、みたいなところまではわかります。こういった心理は多くの人間に共有されるものであるでしょう。

 しかしそこからいきなりためらいもなく、

 ──その日から、彼の「屋根裏の散歩」が始まりました。

 とは絶対にならない。そんなやつはいない。普通なら人間はそんな行動には出ないであろうと思われる一線を軽く越えさせて登場人物をどんどん突っ走らせてしまうのが乱歩の凄いところである。

 といったようなおはなしを私は先日、10月28日に催された第十六回なぞがたりなばり講演会記念大宴会の席上で悪の結社畸人郷の先達からうけたまわったものでしたが、なるほどそのとおりで、それを瀬名さんの解説にもとづいて表現するならば、乱歩作品の登場人物は魅力的な思いつきをそのまま、自分の「辿る道」への恐怖などとは無縁に「自由」に行動に移し、それに「熱中」し、そのあげく「破滅」に導かれてしまうのだということになります。気をつけたいものです。

 この解説ではこのあと、主人公が「何を見たのでしょうか」という設問の回答として1976年に刊行された講談社ブルーバックス『物理質問箱』が紹介されています。この本のことは2月6日付伝言の「本日のアップデート」で話題にいたしましたので、興味がおありの方はご一読ください。


 ■11月20日(月)
夕張から青梅へ、そして 

 気づくのが遅かったせいで終わってからのお知らせとなりますが、東京の青梅市で青梅宿アートフェスティバルというのが開かれたそうです。今年で十六回目を迎えたコミュニティイベントなのですが、今回のテーマは「黄金仮面の青梅宿」。オフィシャルサイトをごらんください。

 フェスティバルでは種々雑多なイベントが催されたようで、乱歩がらみのものではシリアルナンバー入り黄金仮面カードが発行され、黄金仮面の謎解きウォークラリー、江戸川乱歩の映画看板展、黄金仮面劇団の公演「あの黄金仮面を探せ」、夜空を彩る金粉ショー「黄金仮面が愛した女たち」、黄金仮面の館国際交流広場、黄金仮面イラスト展などがくりひろげられたといいます。

 しかしこの金粉ショーというのはあの金粉ショーなのでしょうか。若き日の唐十郎さんと李麗仙(当時は礼仙であったか)さんがやっていたような、皮膚呼吸ができないから踊るのは三十分が限界であると伝えられるところの、ショーのあとシャワーで金粉を落とすときにはまず陰毛を利用して石鹸を思いきり泡立てるのが作法であると唐さんがどこかで述懐していらっしゃったと記憶する、あの正真正銘の金粉ショーであったのでしょうか。しかもタイトルが「黄金仮面が愛した女たち」。私はまっさきに由美かおるさんを思い出してしまったのですが、由美かおるさんによる西野バレエ団仕込みの金粉ショーなんてのは結構微妙な感じでしょうか。

 つづいてはこちらでどうぞ。

  本日のアップデート

 ▼2006年11月

 第16回青梅宿アートフェスティバル2006

 フェスティバルの種々雑多なイベントから当サイト「RAMPO Up-To-Date」には平井憲太郎さんの「語り歳時記」を記録しておきました。

 ここにはフェスティバルからの引用としてクロスワードパズル「漢字ナンクロ青梅宿」をひろっておくことにいたします。「黄金仮面からの挑戦状!」だそうです。

 上の画像をクリックすると「おうめまるごと博物館」に掲載されたパズルの PDF ファイルが開きます。お暇な方はどうぞチャレンジを。ただし正解を青梅市に持参してもフェスティバルはとっくに終了しております。あしからずご了承ください。

 それでは夕張市から青梅市を経過して地元名張市に戻りましょう。

 私はさきほど、名張市役所の都市環境部市街地整備推進室にこんなメールを送信しました。

 お世話さまです。市立図書館の中です。11月7日朝、ミステリー文庫の担当室の件で質問のメールをお送りしたのですが、まだお答えを頂戴できておりません。ご多用中と拝察し、質問は撤回いたします。そのかわり、このメールに添付したファイルをミステリー文庫担当室にご転送いただきたく、お忙しいところお手数をおかけしてまことに恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

2006/11/20

 添付ファイルの内容はこんな感じでした。

ミステリー文庫について
 名張市立図書館の中と申します。とりいそぎお教えいただきたいことがあり、メールで失礼ではありますが以下に申し述べます。仔細はまたそちらにお邪魔して、あるいは市立図書館においでいただいて、ということになると思います。

 まずこちらの状況をお伝えいたします。先月、市立図書館が所蔵している蔵書のうち、全国のミステリファンの方から寄贈を受けた図書をミステリー文庫に収蔵するための選書を進めるよう、市立図書館に指示がありました。選書の作業は私が担当することになっております。

 このミステリー文庫にかんしてお訊きしたいことがあります。おおざっぱにいえば、私の質問は次の二点です。

 1)ミステリー文庫の運営主体はどこになるのでしょうか。

 2)ミステリー文庫はどのような施設として運営されるのでしょうか。

 ここで私が疑問に思う点を記しておきます。ミステリー文庫の整備構想が名張まちなか再生プランの一環なのであれば、その検討は名張まちなか再生委員会によって進められているものと判断されます。その仮定に立って話を進めます。

 名張まちなか再生委員会によるこの申し出はあまりにも理不尽なものです。もしも図書館の協力が得たいのであれば、まずミステリー文庫の構想を細部まで説明することが必要でしょう。何の説明もなしにいきなり図書の提供を要請するのは、私には追いはぎ同然の行為であるとしか思えません。

 もっとも、今回の指示は名張まちなか再生委員会から直接もたらされたものではないようです。それは当然のことで、あの委員会はそんなことのできる立場にはありません。仔細はわかりませんものの、名張市役所の市長部局から指示があったものと私は認識しております。これも不可解で筋の通らない話ではあるのですが、要するに名張まちなか再生委員会と名張市とが癒着しているということでしょう。

 私は少なくとも来年の3月末までは図書館の嘱託を務めておりますので、ミステリー文庫のための選書という指示を受けた以上、その作業を進めなければなりません。それには上に記した質問にお答えいただくことが不可欠です。かりにミステリー文庫の運営主体がNPOなどであった場合には、その組織が信を置くに足るかどうかの判断も求められることでしょう。結果として名張市立図書館がミステリー文庫への図書提供をお断りする場合もあるとお含みおきください。

 ともあれ、貴セクションの職員の方であれ、あるいは名張まちなか再生委員会の委員の方であれ、どなたかから詳細のご説明をうけたまわりたく、こちらからお邪魔してもよろしいのですが、図書館の蔵書をごらんいただく必要もありましょうから、どなたか責任ある立場の方に図書館までご足労いただくようお願いしたいと考えます。日時をご指定いただければお待ちしております。選書の期限は11月いっぱいとなっておりますので、勝手ながら早急にご連絡をいただきたいと思います。

 なお来月、名張市立図書館がいつもお世話になっているミステリー愛好団体のみなさんが図書館にお立ち寄りくださることになっておりますので、今回のお願いの件とは別に、そのおりにも図書館においでいただければ、ミステリー文庫構想にかんしてミステリーファンの方から有益なアドバイスを頂戴できるものと思われます。ご一考いただければ幸甚です。

 最後に申し添えますと、名張まちなか再生委員会によって検討されている初瀬ものがたり交流館と乱歩文学館、そして今回のミステリー文庫の三つの施設は、いずれも名張まちなか再生プランには片言隻句も記されておらず、名張まちなか再生委員会の手によってまったく恣意的に具体化されようとしているもので、私はこうした異常な事態を放置し、のみならずそれに加担さえしている行政の責任はきわめて重大であると考えているのですが、今回の選書の件では当面そのことを不問に付しております。

 ご多用中恐縮ですが、よろしくお願い申しあげます。

2006/11/20

 なんだかようわからん話だな、とお思いの読者諸兄姉も少なくないかもしれません。私にもよくわかりません。ただまあこの名張市という自治体におきましては、どうやら自主性や主体性というものがいっさい等閑視されているみたいです。

 名張地区既成市街地再生計画策定委員会が策定した名張まちなか再生プランは名張まちなか再生委員会によって恣意的に変更されてしまう。その名張まちなか再生委員会の意向に沿って市長部局が図書館に図書の提供を要請する。

 そういった不合理なことがしごくあたりまえのこととして進められているようです。ひとことでいえばなあなあです。なあ名張市役所のみなさんや。あんたらいつだってなあなあだなあ。悪あがきまでなあなあだなあ。

 さあこれで少しは面白いことになるのかな。

 と思っておりましたところ、なぜかメールが送り返されてきておりました。むろんさきほど名張市役所の都市環境部市街地整備推進室へ送信したメールです。返ってきたメールにはこんなことが書かれてありました。

---------- STAROFFICE MESSAGE FOLLOWS ----------

Mail Delivery Error
 Message: User unknown in StarOffice21.(Unknown MAILNO or USERID)
 Code: 01
 Address: <city-plan@city.nabari.mie.jp>

 おっかしいなあ。何の手違いなのかなあ。名張市役所オフィシャルサイトのこのページのアドレスに送信したのであるけれど。

 おっかしいなあ。名張市役所では私のメールはいっさい着信拒否、ということになってしまったのかなあ。おっかしいなあ。