ふと気がつけば憂国忌なり。そんなことはどうでもいいのですが、つらつら案じますに乱歩の作家的資質は必ずしも探偵小説に向いたものではなかったのではないかと愚考される次第で、ウェブ版講座「涙香、『新青年』、乱歩」の流れでいうならば幼い日に夢中になった絵探しの面白さを探偵小説に求めてしまったそのことが、幸不幸でいうと作家乱歩にとっては不幸の始まりであったのかもしれません。探偵小説という桎梏こそが乱歩にあれだけの作品を書かせたということではあるのでしょうが、探偵小説を書くために生まれてきたような横溝正史の作品に比較してみると、乱歩作品の非探偵小説性とでも呼ぶべきものは色濃く際立ってくるように思われます。もちろん乱歩には探偵小説を選んだことで手にした得がたい幸福も多くあり、その幸福をより確実なものにするべく執筆されたのが『探偵小説四十年』ではなかったのかというのが「涙香、『新青年』、乱歩」の主旨とか眼目とかいうやつなのですが、なんだか長々しくなってきてどうにも困ったものです。
ふと気がつけば憂国忌なのですが、ふと気がつかなかったのが十周年でした。おかげさまでウェブサイト名張人外境、10月21日の乱歩のお誕生日に開設十周年を人知れず迎えておりました。開設者本人が知らなかったのですから他人が知っていようはずがありません。さるにても、開設したときには十年後を予想したりはとくにしませんでしたけど、まさかこんなことになってるとは夢にも思っておりませんでした。こんなことというのはつまり、当サイトのメインコンテンツである「乱歩文献データブック」「江戸川乱歩執筆年譜」「江戸川乱歩著書目録」はいずれかの時点で名張市立図書館のサイトにバトンタッチされるはずだと思い込んでいたのですが、いまだにこんな状態なんですからいまさらのように驚いてしまいます。目録にも著作権はありますから私は名張市立図書館の著作権をいつまでも侵害しつづけていることになり、その意味では犯罪者だというわけです。名張市がもうちょっとしっかりしててくれたら犯罪者の汚名を着ることもなかったのになあ。
ところで当サイト、えへん、11月23日付朝日新聞伊賀版の「文学のみち伊賀」という連載でちょこっと紹介していただきました。はばかることなく無断転載しておきます。記事の最後の段落に当サイトと私の名前が出てきます。えへんえへん。
▼RAMPO Entry File:朝日新聞
名張市がもうちょっとしっかりしててくれたらというのは要するに、この記事にある「これからの資料館や作家顕彰のひとつの在り方といえるでしょう」という文章の意味をすんなり理解できるくらいのおつむをもっててくれたらなあということなのですが、とてもとても、無理無理。そんなばかなとお思いの諸兄姉もおありでしょうが、これは正真正銘ほんとの話であって、げんに名張市民の税金で市立図書館が発行した市民共有の財産であり全国の乱歩ファンにそこそこ重宝していただいているはずの『乱歩文献データブック』『江戸川乱歩執筆年譜』『江戸川乱歩著書目録』が市立図書館のサイトに掲載されていないのがその証拠です。
「資料館や作家顕彰のひとつの在り方」ということでいうならば、何億何十億というお金をかけてハコモノをつくらなくてもインターネット上に資料館をつくることはいくらでも可能なわけなのですが、名張市役所のみなさんにはそうしたプロジェクトの有用性や波及効果といったものを考えることができません。思いもつかぬというやつです。ネット上に幻影城を構築するプロジェクトを始めまーす、なんて名張市が宣言したらそれはもう凄いことなのですが、そんなことは全然理解できません。いまだにハコモノ崇拝主義とイベント尊重思想から脱却することができず、乱歩といえば脊髄反射みたいに文学館だ記念館だと大騒ぎするしか能がなく、そうでなければちまちましたご町内イベントで身内だけ盛りあがる。その程度のことしかできないのが名張市というところなわけです。これはもうどうしようもないことだと思われます。
みたいなことをいってるところへ、驚くべし、まさにそのちまちましたご町内イベントのニュースが飛び込んできました。なんかもう大笑いしてしまいます。飛んで火に入る夏の虫ってやつですか。ご町内イベント関係各位の労を多とするにやぶさかではないのですが、しかしまたなんという絶好のタイミングなのよ。運命のいたずらか天の配剤か、はたまた天国の乱歩の思し召しか。とにかく打ってくださいといわんばかりの絶好球、あまりにもいい球なので思わず打ち損じてしまうほどのど真ん中のストレートが投じられてきましたので、急にボールが来たのでとかなんとかいってないでさっそくフルスイングいたします。これも朝日新聞の記事なのですが。
▼asahi.com:黒幕内に乱歩の世界
笑っちゃいかんが笑ってしまう。笑っちゃいかん笑っちゃいかん。しかし笑えるなあほんとに。何が笑えるのかといいますと、おとといの朝日の伊賀版にはこんなことが書かれていたわけです。
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名張での乱歩顕彰は、55年に生家跡地に「幻影城」と刻まれた記念碑が有志の呼びかけにより建てられ、市立図書館には乱歩のコーナーが常設されています。また、“インターネット上の資料館”ともいえる「名張人外境」には年譜、資料集成など乱歩関連の実に詳細な情報が日々更新されています。これはサイト管理人、中相作氏の労作で、これからの資料館や作家顕彰のひとつの在り方といえるでしょう。 |
生誕地碑が建立されてからこの方、名張市における「乱歩顕彰」の歩みをごく大雑把にたどるならばざっとこんな具合になるわけです。「市立図書館には乱歩のコーナーが常設されています。また、“インターネット上の資料館”とも」うんぬんとあるところは、「市立図書館には乱歩のコーナーが常設され、同館の公式サイトには年譜、資料集成など乱歩関連の実に詳細な情報が日々更新されています」となっているのが本来なのですが、残念ながらそうなってはおりません。だからかつては名張市立図書館のカリスマと呼ばれた私がひいひいいいながら、それはもうほんとにひいひいいってるわけですけど、名張人外境という個人サイトを開設して「資料館や作家顕彰のひとつの在り方」を示しているわけなのですが、このレベルの話になるともう名張市役所のみなさんには理解が届かなくなってしまいます。なんかもうわけわかんね、ということになってしまうわけです。
そんなことはともかく、名張市における顕彰の歩みを簡単にたどってみた場合、乱歩関連のちまちましたご町内イベントなんてたいしたものではないということになってしまいます。この記事ではたとえば毎年恒例のミステリー講演会のことなんかまったく触れられず、「資料館や作家顕彰のひとつの在り方」として私のサイトが紹介されているわけなのですが、これはもうごくごく当たり前のことというしかなく、まともな判断力をもった人がご覧になればそういう判断が下されるのは当然のことです。でもって、そんなような記事が掲載されたのがおとといのこと。ところがきょうの朝日新聞伊賀版には思いきり、名張市でちまちました乱歩ご町内イベントを開催しまーす、という記事が登場したわけですからもう笑った笑った。大笑いしてしまいました。いやいや、笑っちゃいかん笑っちゃいかん。なかなかいいと思います。黒テントなんてアイデアはなかなか秀逸だと思います。とはいうものの、しょせんこの程度なわけです。ハコモノとかイベントとか、名張市というところではその程度のことしか理解されないというわけで、「資料館や作家顕彰のひとつの在り方」なんて話はとてもとても、無理無理。
いやいや、そんな程度のことすら理解できない人間が存在するなんてこと自体が理解できないぞとおっしゃる諸兄姉のために、私のブログから戯文を少々引用しておきます。戯文ですけれど嘘もなければ誇張もありません。
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平成10・1998年のことである。名張市立図書館にお客さんがあった。だいじなお客さんなので、名張市教育委員会の教育次長が挨拶した。ちょうど『江戸川乱歩執筆年譜』が出たばかりだったから、お客さん全員に一冊ずつ手渡し、ご覧いただいていた。
テーブルには、『乱歩文献データブック』も置いてあった。と、横から、『江戸川乱歩執筆年譜』と『乱歩文献データブック』を手にした教育次長が、こんなことを訊いてくる。
「これ二冊ありますけどさなあ、こっちとこっち、表紙は違いますわてなあ。せやけど、中身はほれ、どっちも字ィ書いてあって、二色刷で、ふたつともおんなじですねさ。これ、こっちとこっち、どこが違いますの」
ばかなのである。もう野放図なまでの、眼もくらまんばかりのばかなのである。そもそも本というものは、たんに字を印刷してあるだけのものなのである。その字を読まなければ、中身の違いはわからぬのである。
名張市の職員がすべて、全員が全員、どうしようもないばかであるというつもりはない。だいたい、職員個々のことなどよく知らない。だが、総体としてみれば、アベレージを求めるならば、これはもうばかだとしかいいようがないだろう。そして、なかには相当なばかがいて、ただ市職員として甲羅を経ているというそれだけの理由で、その手ひどいばかが教育次長を務めていたのである。
大丈夫か名張市。
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くり返しますが、これはほんとの話です。なんかもう、やっとれんわという気がいたします。とはいえこんなのは名張市役所のみなさんとおつきあいしている分には日常茶飯事と呼ぶべきことなのであって、私とていちいち激怒したり絶叫したりはしていなかったのですが、いくら予算を要求しても「資料館や作家顕彰のひとつの在り方」ってやつが名張市役所のみなさんには理解できないようでしたから、それならもうしかたないなと昨年3月末をもって名張市立図書館とはおさらばいたしました。いくらカリスマとはいえ、市立図書館の嘱託としてお役所のヒエラルキーのなかで何いったって無駄だよなと思い知ったわけです。ですから今度はひとりの市民としてお役所の外部からいろいろ提言してはどうかと、換言すれば図書館嘱託としていくら有意義な提言をしても教育委員会の教育長や教育次長あたりにあっさりひねり潰されてしまうのがオチでしたから、ならばひとりの市民として市長に提言したほうがいいのではないかと考えた次第でした。それでどうなったのかというとこれがまた驚くべきことで。
名張市長と書いて思い出したのですが、ということで以下、このところすっかり更新をサボっている私のブログをご愛読いただいていた方がもしもこのサイトをご閲覧であるならば、そうしたみなさんに名張市長がらみでお知らせを一件。ちなみにブログの最新エントリはこんな感じです。
▼名張まちなかブログ:そろそろテロにすっかの巻(10月23日)
ではお知らせですが、名張まちなか再生委員会の副委員長が10月8日に提出し、10月18日の説明会で名張市長が回答することを確約した質問状は、回答を二度催促しても何の音沙汰もなく、現在三度目の催促が副委員長から市長に対してなされているところだとのことです。ほんと、そろそろテロにすっか? 選挙も近いことだしな。
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